第13話


「……あの技を使えば魔物はひとたまりもない」

「マクセル、そう悲しい顔をしないでよ」

「そうだミャ。これを使うたびに魔物に同情してたら身が持たんにゃ」

「しかしあの魔王は誰よりも話が通じた。本当にこれでよかったのだろうか」

「いいのよぉ。あの子は人間を裏切り者って吐き捨てたけど、あの子だって裏切り者なんだからぁ」


 ふぅ。


 あついの終わったのじゃ。


 何とか耐えられたのう。


 わらわは散々「どんな技であろうと一撃では倒れない!」などと強がってたのに、今ので死んだらとんだお笑い草だからな。


 さて、それはいいとして。


 マガミトロニオスと、シャムシエルと、セラフィリアだったか。


 うむ。


 思い出したぞ。


 こいつらなんか変だと思っていたが、やっと気がついたわい。


 まるで人間のフリをしているが、実は天界の者たちであろう。


「……おい、マガミトロン」

「あらぁ、シャムちゃん呼んだ?」

「うんみゃ〜。今マクセルと話してたニャ」

「聞き間違いかしら」

「そうではない。のうセラフィムよ」

「はわっ! 今度はあたしに誰か声を!?」

「シャムシエル、お前だけ無駄に技カッコよくない?」

「にゃあ! ま、まさか魔王かみゃ!?」

「しかし魔王の姿は見えないぞ」


 そうだろうな。


 だってわらわは今、お空を飛んでおるからのう。


 あー、天井壊しといてよかったー。


 さっきの熱い光はあの三人娘を中心として放たれていた。


 なので咄嗟に天井の破片を遮蔽物にして避けようとしたが、なんと物体を透過してくるえげつない光じゃった。


 なのであいつらから離れるため空中へと飛んだのだ。


 くっふっふっふ、焦ってガレキをどかしておるのう。


 そんなとこにわらわはおらんぞ。


 よし、脅かしてやろう!


「変だなぁ、どこにもいないですよマカさん」

「ふぅふぅ。ちょっとこの服動きにくいわよぉ」

「ビッグウィザードのローブですらキツイのかミャ」

「もしかして俺たちが聞いてるのは幽霊の声じゃ」

「くっふふふ、うらめしやぁ〜」

「ひゃあああああ!?」

「でぇぇっ、でたわぁぁぁ」

「びえええん! ボクはただセーラたちに言われてやっただけにゃー!」


 うわぁ、なんか想像以上にビビってる。


 そんな怖がられるとこっちがビックリするわ。


 大体おぬしら、幽霊を昇天させる手伝いもしてる天使じゃろ。


 そう、天使。


 こやちらは、人間を惑わす天使じゃ。


 キャワイイという意味での天使じゃないぞ。


 それだとわらわが一番かわいいから、わらわが天使ちゃんになるのじゃ。


「いやぁ、かわいくってごめんなのじゃ〜」

「あ、なんだ、ただのバカ魔王だミャ」

「ホントねぇ。うーんあの技を食らったのに無傷とは……」

「だからおぬしらは強い技に頼りすぎなのじゃ。もっとちゃんとした戦いを経験せい」

「……スキル発動!コピー

élégant高貴な土のde sable!聖なる一撃

「うわぁびっくりした! マクセルおまえ、いつも急に喋るな!」


 しかも毎回デカい声で叫ぶんだよなぁ。


 マクセルはもしかしてヤバいやつなのか。


 そうそうヤバいついでであるが。


 こいつわらわがさっき思いついた必殺技を放ってきたのじゃ。


 お前まさかそういうタイプか。


 しかしマクセルよ。


 その技は天井壊すための技ぞ。


 やっちゃったのう。


 大事な1ターン、無駄にしちゃったのう。


「せぃッッッッッ!」

「ま、マクセル、すごいジャンプだね!」

「そうねぇ。それでどんな攻撃するのかしら」

「……スタッ」

「さあマクセル、行くミャ!」

「う、体が動かん……」

「えっ?」

「どうやら今の技はあれでおしまいみたいだ」

「そりゃそうじゃろ。だってあれ天井壊すだけの技じゃし」

「マクセルぅ〜」

「そんな目で見るなマカ! 俺だってまさか魔王がこんなしょうもない技を使うなんて思わなかったんだ!」


 悪かったなしょうもない技で!


 でもそのしょうもない技をコピーしてわざわざ使ったお前もお前だぞ!


 だいたいさぁ、元のélégant弱き土のde sable仇の一撃の時点でただジャンプして天井ドついただけだっただろ。


 わかれよ!


 その時点で!


 おぬしそういうとこじゃよ!


 まったく。


 とにかくマクセルも行動したからこっちのターンだ。


「さて、謀らずともわらわが知りたかった答えが聞けたし、もう戦いを続ける意味は無くなったのだが」

「え、にゃんだったっけ」

「わらわが勝ったらそなたらの正体を明かしてもらうって言ってたじゃろ」

「そういえばそうだったわねぇ。ふふ、一体何が分かったのかしらん」

「お前たち天使だろ。そんな人間の小僧を巻き込んで何をしたいのかまでは分からんが」


 まあ何を企んでいようが、天界の者どもが考えるのは下らぬことばかりだ。


 だから何がしたいのか知りたくもない。


 聞きたくもない。


 こいつらは他の種族を見下し、己らが至上の存在だと自惚れているからな。


 ヘドの出るようなヤツらだ。


 本当に大嫌い。


「わらわは天使が大嫌いなんだ。だから帰ってくれ」

「魔王よ、お前は俺が聞いた魔王像と余りにもかけ離れている」

「なんじゃマクセル、まだ何か用か」

「お前からは世界を滅ぼそうとする意志を感じられない。いつも何をしているんだ」

「何って……ほら、この荒れた部屋から外を見てみろ」

「マクセルあまりその魔王の口車に乗らないで!」

「分かってる。ふむ、山や海が見える」

「あそこから送られてくる食べ物を食べ、人のために土地を開拓し、そして魔物のために最強であり続けている」


 かつては最も栄華を誇った魔物という種族。


 けれど今は人間よりもか弱い存在となった。


 そんな脆弱な種族が他の種族と対等でいるために、わらわはこの世界で最強であり続けなければいけないのだ。


 全ての人間が襲ってきてもわらわ一人で倒せるほど強く。


 全ての天界の者が襲ってきてもわらわ一人で倒せるほど強く。


 そうすれば、決して魔物は潰えない。


「どうしてそんなにも魔物に肩入れするのですか。あなたは……」

「ふむ。セーラよ、お前は天使の中でもかなり上級だろう。だから少しは分かってくれると思うが」

「あなたの考えを?」

「分からないわよぉ。裏切り者のあなたが考えてる事なんてぇ」

「魔物なんかに夢を見出すニャんて狂ってるミャ」

「酷い言われようだな。で、どうかね勇者よ。おぬしはどうなんだい」


 このなかで唯一の人間であり、恐らく最もニュートラルな考えができるであろうマクセルに意見を聞く。


 コイツは間違いなくボンクラだ。


 だがボンクラなりに鋭いところがあったりするのだ。


 それにまだマクセルには不明瞭な点が一つある。


 転生がどうのこうのという点と……


 なぜこんな人間の小僧なんかに、人間を見下している天使が三人も従っているのか。


 ………………。


 まって、不明瞭な点が二つあったのじゃ。


 これじゃまるでわらわの方がボンクラみたいではないか。


 そんなことないぞ。


 そんなことないよな。


 わらわは深い考えと、最強の力と、愛くるしい見た目を兼ね備えた無敵の魔王じゃしな。


 きっと誰から見ても最強にしか見えないはずよ。


 うう、なんか自分で弁明してて悲しいのじゃ。


 これじゃ下着だけじゃなくて気分までミントブルーになりそうじゃよ。


 わらわ強いもん。


 みんな信じるのじゃ。

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