第11話


 毎度のようにシャムも一命を取り留めた。


 残るはこの不審さばかりが目立つ勇者だけだ。


「遂に俺の出番か」

「マクセルがんばってね。魔王は強いから」

「ボクの仇をとってにゃー」

「ま、ほどほどにねぇ」

「おうおう大人気じゃのうマクセル。してそなた、戦う前に一つ提案があるのだが」

「魔王の言うことに聞く耳など持たぬ」


 いやおぬし……


 今までそこの三人が死にかけてた時、むっちゃわらわのアドバイス聞いてたじゃん。


 なにをカッコつけて拒否ってるんだろう。


 今そういうのはいいのじゃ。


 ちょっとガチで大事な提案だから。


 とりあえず聞く聞かないは置いといて言わさせてもらうぞよ。


「提案とはな、わらわが勝ったらそこの三人が隠してる事を洗いざらい話してもらう」

「おい、俺の返事を無視するな」

「マクセルが勝ったら、そこの三人がやりたいようにすればいい。まあわらわは負けぬがな」

「マクセル、あの人の言う事に気を取られないでね。ちょっとおかしいみたい」

「そうだミャ。魔王を倒してこの世界の問題を解決するミャ」

「……ああ、わかった。それでは」

「どおんと来るがいい」

スキル発動!メルトバスター


 な、な、なんじゃと〜〜〜!?


 わらわの聞き間違いでなければ水金地火木土天魔砲メルトバスターと叫んだな!?


 いや、あの、実際は水金地火木土天魔砲ではなくてスキル発動って言ったけど、メルトバスターって聞こえたのじゃ。うむ。


 それは置いといて!


 メルトバスターと言えば全ての魔法元素を扱う禁術である。


 だが人間は扱えない魔法元素がいくつかあり、それも使わないと発動できない呪文なのだ。


 それをあっさりと、まるで我が右腕からコピーしたかのように使ってくるとは……


 なんと面白い相手であるか!


 初手で禁術を使うなんて最高ではないか!


「ふはははは! いいぞ、メルトバスターなんて数千年前に”我が右腕”から食らって以来だ!」

「ぬがぁぁぁぁ! せ、制御が難しいッ!」

「マクセルぅ、大気の魔力に頼りなさい! あなただけの魔力じゃ一瞬でメルトバスターは消えるわぁ!」

「そうだ! 戦いの最中でも技を磨け! そしてこの魔王を倒してみろ!」

「ぬぅ……め、メルトバスター!」


 この世を構成するあらゆる元素。


 それらが含まれた魔法エネルギーが、まるで覚悟をする猶予を与えるかのように嫌らしいスピードで襲い来る。


 そうだ。数千年前もこの恐ろしい禁術と相対し、必死にこの猶予の時間で分析をしたものよ。


 だがあの時とは明確に違うことが一つある。


 数千年前に食らったメルトバスターと比べて明らかに魔力の圧が少ないのだ。


 これなら……


 これなら、わらわの自慢の美脚でちょっと蹴ればなんとかなるんじゃね?


「オラァ!」

「メルトバスターから強力な逆流が……うおおお!?」

「マクセルあぶないわぁ! あの子とんでもない技で跳ね返してる!」

「ただのキックじゃけど」

「す、スキル発動!ワープ

「なんてヤツだみゃ! 未熟な禁術とはいえ相殺したにゃ!」


 メルトバスター、破れたり!


 この魔王を相手に禁術などで勝てるとでも思ったのか。


 ……思うわな。だって禁術だし。


 書いて字のごとく禁断じゃ。


 なにが禁断なのかって?


 知らんのじゃ。わらわは使えない呪文だし。


 しかしマクセルよ、勇者を自称するだけあってなかなか面白いことをしてくれるではないか。


 だってメルトバスターを使ってくるとは想像もできなかったからのぅ!


 さあ、その調子でどんどんわらわを楽しませてほしい。


「おっと忘れるところだった」

「ぜぇ、ぜぇ。メルトバスターの反動で体が動かねえ」

「そなたらのルールに則ると、次はわらわのターンじゃな?」

「ま、ま、待ってください! マクセルはまだ」

「待ったはなしじゃ! では行かせてもらう!」

「四人!!」

「うお、なんじゃ急に」

「よ、四人パーティってことで!」


 セーラお前……


 そういうのは早く言わぬか!


 そうかおぬしら四人パーティ? だったのか!


 よくわからん。よくわからんが!


 とりあえずわらわのターンじゃないのは雰囲気で分かる!


 もうなんでもいいわい。


 好きなようにやってみせい。


「みゃあ、さすがに魔王でもそんにゃムチャクチャは聞き入れにゃいと思うにゃ」

「いいだろう」

「そうよねぇ魔王ちゃん。さすがにズルいわよねぇ」

「いやズルくない。だから早くしてくれ」

「すまん魔王、セーラが水を指したな。俺は腹を決めている。さあこい」

「あのね、わらわよく分かんないから何でもいいよ」

「す、す、すみません、さすがにわがままが……」

「おい聞いておるのか」


 おい!


 聞いておるのか、ホント!


 別にいいって言ってんだろ!


 お前たちのターンだって!


 何してくれとんじゃ、マジで!


 そろそろわらわも怒るぞよ!


「こんかァァァァァ!」

「「「!?」」」

「四人でも百人でもなんでもいいわ!」

「なんでもいいから、ホント、タンマ戦法だけはやめとくれ」

「失せるんじゃ、戦意が。戦意が失せるんじゃ」

「魔王……」

「ごめんにゃ」

「あたしたちが悪かったです」

「そうねぇ。さすがに今のは申し訳ないわぁ」


 な、なんじゃそなたら。


 急に聞き分けがよくなるとキレたこっちが悪いみたいじゃないか。


 そういうのもズルいぞ。


 どう考えてもわがまま放題してるのはそっちだからな。


 まあよい。今のでマクセルたちの気付けになっただろうし、ようやくまともに戦いをすることができるだろう。


 ………………。


 はぁ。


 こんなに疲れる戦いは初めてだよ……。

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