第10話


 マカが怪訝な顔で固まったのと同時に下の階へ着替えを取りに行っていたマクセルたちが戻ってきた。


 いや、正確にはシャムのワープで瞬時に目の前に現れたと言ったほうが正しい。


 いいなー、めちゃくちゃ便利だなそれ。


 わらわもなんかスゴイ技が欲しいのじゃ。


「人の城で好き勝手にワープして、なんとも腹の立つネコだな」

「好き勝手にワープできるわけないニャ。そんなこと出来たらいの一番におみゃえを倒しに来てるミャ」

「そうなのかシャム。俺からしたら自由自在にうろちょろしてるように見えるが」

「みゃあマクセルにも詳しく教えてにゃいからみゃあ」

「実はワープできるのは仲間のいるところとその周辺だけなのよねぇ」

「あー! マカ黙れニャ! 敵の前でバラすニャ!」


 ほう、だからわざわざビッグウィザードの部屋まで行くのにマカを連れて行かなかったのか。


 行ったり来たりするのが面倒というだけで魔王の元に仲間を一人置いてみんなでどっか行くと。


 なんかわらわがナメられてるのか、それともキモが太いのか分からんな。


 これでも一応は魔王であるぞ?


 あんまり油断してると肝を舐める思いをすることになるぞ?


 ホントだぞ?


 それにお前たち勇者だなんだって言っとるが、普通に侵入者だからな。


 何らかの技で城の者たちを消し飛ばした時点でだいぶ極悪じゃぞ。


「というわけで極悪猫畜生シャム! お前をぶちのめす!」

「何がというわけ、なんだミャ。でもやるってんなら行くにゃ。マクセル!」

「なんだ?」

「なんだじゃないミャ、スキル発動!」

「ああすまんすまん、この際だしマカたちからワープについて聞いてて」

「ふむ! だらだらとしおって、スキあり!」

「ぐふ!」

「あ、あぁ〜! だから魔王さん、勇者が仲間と作戦を話してる時は待っていただかないと!」

「空気が読めないのねぇ」

「し、知るかそんなこと」


 この者らはどうしてこう、独特の流れを重要視しているのであろうか。


 わらわたちは将棋やオセロをしているのではないぞ。


 体が動く限り相手をドつきまわし。


 相手が動く限り攻撃を避け、受け流す。


 たったそれだけであろう?


 己より強い相手に勝つため策を弄することもあるが、それでも”相手が殴ったら次は自分の番。相手が仲間と相談中は襲わない。”というルールを押し付けるのはムチャクチャだ。


 まあわらわは絶対の強さを自負してるから弱者のしたいようにさせるがな。


 わらわってばホント優しくて困っちゃう。


「よし、それじゃスキル発動!ワープ

「にゃあー!」

「出たなワープ! いいぞいいぞ楽しませい!」

「ほざくにゃ! ふんぎぎぎぎ」

「ほう! いい引っかきだのぅ」

「避けられた! スキル発動!ワープ

「ホイにゃ! ズドドドドド」

「うむ! よく研いだツメじゃ」

「くっ……スキル発動!ワープ スキル発動!ワープ スキル発動!ワープ

「みゃんみゃんみゃん〜!」


 消えては現れるシャムの鋭くキレキレなスラッシュ攻撃をわらわは避けまくった。


 いや、避けてはいないな。


 だってわらわは立ってるだけなのじゃ。


 けどシャムの猛攻むなしく、わらわは汗一つ垂らさずに立っている。


 なぜ攻撃が当たらないかと言うとシャムに指示を出してるマクセルが「右だ! そっちだ! いややっぱ前だ!」って的はずれな事言ってシャムを翻弄してるから。


 そもそもマクセルは何故シャムと共闘せず後ろでヤジを飛ばしているのだろう?


 本当に不思議なやつらである。


「みゃ、みゃあ。ゼェゼェ」

「どうした息があがっておるぞ。ネコのクセに」

「そっちこそ魔王のクセに逃げ腰すぎるミャ」

「いや、どう考えても原因は他に……」

「ステータスオープン!」

「うわ! なんじゃ! 急にどうしたマクセル!」

「シャムのステータスを見ている」

「あ、そう……」


 こいつ自由奔放すぎるだろ。


 まるで人の事などお構いなしに急に自分のしたいことを始めるではないか。


 戦いの最中だと言うのに、そもそも自分は直接参加していない戦いなのに急にストップをかけて中断するとは……


 なんという不躾な行為だろうか。


 一見非情な戦いにも暗黙の誓いというものがあるのに、そんなの知ったことではないとでも言いたいのか。


 わらわはお前たちのルールに従ってやってたが、こんなにも興を削がれることばかりされては守る意味も薄くなってしまう。


「おいマクセル」

「うーむ、シャムの素早さがあればまず攻撃が当たるはずなのになぁ」

「……それでいい。お前はそこでブツブツ喋ってろ」

「にゃ、にゃんだと! マクセルは作戦を立ててるんだみゃ!」

「水を差しているようにしか思えんが。だから来いシャム! そなた本当は当てられるだろう!?」

「フン、魔王のクセによく分かってるにゃ」


 そう言うとシャムは凄まじい勢いで飛びかかってきた。


 マクセルはシャムのステータスとやらを眺めるのに夢中でスキル発動の号令をかけられないから、ワープせずに飛びかかってきたのだろう。


 そんな指示をもらわずとも勝手にワープすればいいのに。


 そしたら多少は良い勝負になるのだがな。


「くたばれニャー!」

「想像通りの良いツメだ! 一発受け取っておこう!」

「うんみゃァァァ!」

「ぬぅッ! い、いったぁ……」


 ………………。


 い、いたいのじゃ。


 あいつ思ったよりガチの引っかきしてきたわ。


 引っかかれた腕がヒリヒリして最悪じゃ。


 なんで一発受け取っておこうとか言っちゃったんだろう。


 もう二度と喰らいたくないわ。


 あ、あたた……


「フゥー! フゥー! な、なかなかの腕をしておるなシャム!」

「なんか息絶え絶えになってるわねぇ」

「うむ。実はワープしか能がないだろうと油断してたら想像以上に痛いのきて泣きそうじゃ」

「ま、ま、魔王さんって意外と正直ですね……」

「おっ!? にゃんかイケそうだみゃ!?」

「そうねチャンスよシャムちゃん。頑張ってねぇ」

「うみゃ〜みゃ〜!」

「ムム、シャムのステータスが急激に上がった! よしシャム、スキル発動!ワープ

「やかましい! お前はすっこんでるのじゃ!」

「なんだと!」


 またしてもマクセルの邪魔が入る────!


 しかもシャムは律儀にマクセルの指示に従ってワープをした。


 きっとシャムの頭にはワープを用いた搦手からめてではなく、自身の五体だけを使った正統派の戦いが描かれていたのだろう。


 なぜならば、いくらでも背後をとれただろうにわざわざ真正面にワープしてきて渾身の剛爪一閃ラピドスラシュを放ってきたから。


 だが邪魔が入ってもシャムは本気であった。


 今までよりも明確に勝ちへの確信を抱いてこの一閃を放ったのが、太刀筋から明確にわかる。


 そう。この興奮だ。


 この透き通った戦意こそが、勝ち取るに相応しい甘美ッ!


「みゃあ! 剛爪一閃ラピドスラシュ!」

「今だッ! 鏡像反転ミラーカウンター!」

「ぶにゃ!?」

「な、な、なんで魔王さんの正面にワープしたシャムの……その真後ろに魔王さんが周り込んでるの!?」

「フッ。すごい頑張ってしゃがんだ」

「みゃああああん! 痛いにゃ! 死ぬにゃ!」


 思い切り背後からカウンターのパンチを食らったシャムは、みゃあみゃあと鳴きながらうずくまった。


 シャムよ、強い者ほど勝ちを貪欲に求めるのだ。


 バカ正直に正面から来ていなければ、わらわの身体を掻っ捌いていたろうに。


 しかしシャムよ。


 お前もわらわのパンチを食らって即死しないのか……


 いや、このまま放っておけばシャムは数分後には潰れた肺から吐血、さらには呼吸がままならず死んでしまうだろう。


 しかしどう考えてもタフすぎる。


 そしてケガに対する反応が素人すぎる!


「わわわ、どうしよう! シャムが赤いゲロ吐いてます!」

「とりあえずヒールよぉ! マクセルはやく!」

「ゲロロォ」

「ひゃー! マクセルもらいゲロしてる!」

「カヒューカヒュー。は、はやく助けてにゃ……」

「おぬしらァ! まったく見ておれんわい! まずはだなァ!」

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