第6話


「ふぐっ、うぅぅ……」

「もういいだろう。セーラは助かった」

「ホントにこれで死なないのか? まだ痛そうだが」

「おぬし回復魔法の要領も分からんのか。ヒールはあくまで応急処置で、戦いの後はきちんと休息が要るのは常識じゃろうて」

「そうなのか。初めて使ったが不便なものだな、回復魔法とやらは」


 なぬっ!?


 勇者おまえ……


 この魔王のもとへ来るまでに一度も回復魔法を使わずにやってきたと言うのか!!


 そんなんでよく四天王を全滅させられたな!


 イヤミか。イヤミなのか。


「ほうほう、回復魔法が初めてとな」

「ああ。なんせ今までセーラたちのすごい技のおかげで戦闘らしい戦闘なんてしたことなかった」

「す、すごいだなんて……」

「みゃあボクたちは強いからミャア」

「褒められるとお世辞でも嬉しいわね」


 不自然なくらい美形のマクセルが一言おだて文句を吐けば、シャムマカセーラは途端に喜びの表情を浮かべる。


 気色の悪い光景だ。嫉妬じゃないぞ。うむ。


 そうそう、そういえば思い出したのだが。


 マクセルは転生がどうのこうのと言っていたが、もしかしてそれが勇者と恥ずかしげもなく名乗れる自信と関係があるのだろうか?


 みんな考えてもみろ、自己紹介で私は勇者ですと言えるか?


 言えないよな〜! 


 恥ずかしいヤツだと思われるからな〜!


 いやわらわは魔王ですって名乗るけどさ〜!


 勇者は概念で魔王は職業だよ。わかるかなぁ。分かりづらいなぁ。


「勇者ってダッセーよなぁ!」

「なんだと?」

「おっと口が滑った」

「なんだと?」

「おみゃえいい度胸してるニャ」

「そういえばまだ疑問はある。おぬしのその奴隷の首輪とやら、ホントに魔物がつけたのか?」

「にゃ、にゃあ〜ん」

「なんだと?」


 ちょっとまって、このポンコツ勇者”なんだと?”しか言わなくなったぞよ。


 大丈夫かこいつ。最近の若者は語彙力低下が甚だしいと土の王が嘆いていたが、ここまでキテるのか。


 若者よ活字に触れろ! そして読めない漢字をすぐにメモして調べるんだ!


 メモする、つまり一度書くという行為が知識として吸収する大きな助けになる。


 ちなみにわらわはヌとヲが曖昧だ。


 漢字ですらない。


 ヌとヲ。


 ………………。


 ぬぅぅ? これどっちがどっちだったっけ?


「ぬとを」

「なんだと?」

「ぬぅぅ?」

「にゃあセーラ、この二人は何をうなってるんだミャ」

「分からない。マカさんはどう思います?」

「そうねぇ今がチャンスとしか」

「なんだと? この魔王はセーラを助けてくれたぞ」

「いや、元はと言えば魔王がセーラを攻撃したから死にかけたのよ……」

「それもそうか。スキル発動!ナイトクラスタ

「やっと私の出番ね」


 マクセルがまたもや叫ぶと、ついに魔法使いのマカが動き出した。


 ナイトクラスタ……名前ではどのような技か検討もつかない。


 だがこいつらは時を止めたりワープを使ったりと非常に厄介なことをするので、きっとナイトクラスタも面倒なものに違いない。


 しかし! わらわは魔王ぞ!


 どのような攻撃も、初めて食らう攻撃も!


 絶対に一撃では倒れない!


 だから来いマカ! いつでもいいぞ!


 さあ、はやく。


 ねえまだ?


「うむ?」

「よしっ、効いたみたいね!」

「さすがだマカ!」

「え、なに、どうしたの」

「ふふふ、強がっても無駄よ魔王ちゃん」

「いやナイトクラスタは?」

「ナイトクラスタは……って、あなた苦しくないの?」


 もしかして状態異常を引き起こすタイプの技だったのか。


 それにしてはさほど苦しくないし、体の自由が利かないなんてこともないが。


 そもそも魔王に状態異常って効くのか?


 魔王ってそういうの効かなくない?


 いや、魔王本人であるわらわが言うのもアレだけど……


「変ねぇ確かに発動したわよ」

「ね、ねえマクセル、ちょっとステータスオープンして見てみようよ……」

「敵の様子も見れるのか?」

「見れるはずだミャ」

「ほう、便利なものだな」

「何を相談しているのだ」

「ステータスオープン!」


 うわ!


 急にデカい声を出すな!


 お前らと会って今の声が一番ダメージ食らったわ!


 いや、ギリギリ我が右腕が倒されたほうがダメージデカいかな。


 あいつはめっちゃ有能で強かったのになぁ。


 それをこんなバカ猫に倒されてもったいない。


「よし出た。魔王のステータスは……なんだと!」

「なんじゃ? わらわのステータス?」

「どんな感じなんだミャ」

「良い知らせと悪い知らせを話さねばならない」

「じゃあ良い知らせを教えてちょうだい」

「マカ、お前のナイトクラスタは完璧に発動している」


 続けてマクセルは毒、マヒ、火傷、出血、スリープ、スタン、凍結、沈黙、混乱、防御低下、攻撃低下……などと急に早口で謎のワードを連発する。


 そんなまくし立てられても意味がわからないのだ。


 マクセルお前めっちゃ喋るじゃん。


 なんとも饒舌ではないか。


 ていうかいつまで言い続けるのだろう。


 ステータスオープンってそもそもなんだろう。


 ……あ。


 まさか。


 わらわのスリーサイズとか、好きなタイプとか、丸わかりなのか!?!?!?


 いかーん! それはいかんぞー!!


「56ターンやすみ、アイテム使用不可、毎ターンバフリセット……」

「見るなッ! わ、わ、わらわのステータス見るなッ!」

「全属性弱点化……ぐふ!」

「ひゃあ! ちょっと魔王さん、勇者がステータス見てる間は攻撃しちゃダメなんですよ!」

「やかましい!」

「どうしてデバフの究極技ナイトクラスタをまともに受けて普通に動けるのよ……」


 なにがナイトクラスタじゃ!


 ステータスオープンのほうがよっぽど凶悪じゃ!


 あー、もう、恥ずかしい!


 一体マクセルは何を見てたのだ!


 くそう、くそう、腹が立つのじゃ。


 腹いせにもう一発殴っとこう。


「オラァ!」

「ぐふ!」

「ミャー! 勇者と魔王の戦いは一人一ターン制だミャ。おみゃえなんで二回連続で叩いてんだミャ」

「むぅっ、そうなのか」

「で、でもマクセルはスタンしてたんじゃ……」

「しかしそれなら私のバフで魔王ちゃんも……」

「ええい、まどろっこしい。とにかく次はマクセルが殴るのだな!? 立てマクセル!」

「痛すぎて立てねぇ……それが悪い知らせだ」

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