第4話
勇者たちに魔物と人間は共存しているという旨を説明すると、まるで聞いていた話と違うと言いたげな様子で混乱した。
「どういうことだ? マカ、シャム、セーラ」
「言いくるめられたらダメよ。まったく口の達者な魔王さんね」
「何を言うか。わらわは矜持を持って魔物の王を務めている。悪しきも良きも事実だけを話したが」
「しかし俺の中であんたらは、暴力に任せて金品を奪い、シャムのような獣人を力ずくで奴隷に仕立てる存在だと……」
「金品強奪ぅ? 獣人の奴隷化ぁ?」
いや知らん。そんな邪悪なこと知らんよ。
ちょっと魔物のこと侮りすぎじゃない?
魔物はむしろ欲深さよりも平安を愛する穏やかな存在じゃけど。
というかさぁ、人間たちの間で流行ってるらしい”モンスターフェルトのバッグ”や、”じんめんじゅのハーブ”とかあるけど、間違いなく人間が魔物を襲って得た物だよね。
そっちの方がだいぶ野蛮ぞ?
じんめんじゅとか名指しでハーブちぎられてて可哀想でしょ。葉っぱブチブチでハゲちゃうよ。
まあわらわもたまに会った時面白半分でちぎるけど。
そんな感じでさ、どちらかと言うと魔物のほうが人間に虐げられてるワケ。
それに魔物の王はわらわ一人だから一枚岩となって団結してるけど、人間の王はめっちゃたくさんいて、そもそも人間同士で戦ってんじゃん。
「勇者よ、そなたはちゃんとこの世界について知っているのか?」
「この世界について、か」
「マクセル聞いちゃダメ! 魔物の言葉に、ましてや魔王の言葉に耳を向けないで!」
「でもセーラ、確かに俺は転生したばかりでこの世界をよく知らない」
「転生したばかりだと? おい、どういう事だ」
「地獄耳の魔王だミャ。マクセル、やるニャ!」
「いいのか?」
「いいんです! 早くあたしの技を!」
「お、おう。
流されるように勇者マクセルは忌々しい呪文を唱えた。
だけど甘いな。この最強の魔王であるわらわが一度見た技をわざわざ食らってやるとでも思ったか。
………………。
技をわざわざ。
ちょっとまって、これ面白くない?
わらわのワードチョイスすごくない? やだ、演説のネタできちゃった。またわらわの人気が上がるよ。うれしい。
それはそうと時止めみたいな”臆病者の使う技”で、わらわをどうにかできるとでも思ったのか?
なぁ、セーラとやらよ。
「よしッ……あれ!?」
「おいセーラ、なにを空振りしてんだ」
「ご、ごめんマクセル。お、おかしいなぁ」
「フフフ、素振りは一度だけだぞセーラとやら。次は……」
「やかましい魔王だにゃん。次は何だって言うにゃ」
「次はわらわを殺す気でこい。さもなければお前が死ぬ」
「それが本性か魔王!
自分たちの技を信じきって同じ手を繰り返す。
こんなのはもはや自惚れと断言できる愚行だ。
まるでわらわが今までの生涯で時間を止める者と出会ったことがないと勘違いしてそうなほど、全く同じ手を使ってくる。
甘い、甘い、甘いぞ勇者どもォォォ!
時間を止める者など、今まで何度戦ったことか!
時間を止める者とどれだけ長く過ごしたことか!
わらわの苦労を知らぬから、時止めで安易に仕留められるなどという甘っちょろい幻想を抱くのだ!
「殺す気でこんかァァァァァ!」
「きゃああ!?」
「なにィ!? なぜセーラがダメージを!?」
「意味不明……意味不明だニャ!」
「魔王に同じ技が二度も通用すると思うなよ。そなたは余りにも弱い。この世で最も弱いかもな」
「セーラちゃんは私達の中でも最強の技を使えるのよ! 弱くなんかないわ!」
「ではもう一度来るがいい。最も、臆病な手しか使えぬ者にわらわは何度も付き合う気はないがな」
言ってやった、言ってやった、言ってやったー!
どうじゃカッコいいだろう!?
めっちゃくちゃキマったよ!?
やっぱさぁ、時を止める敵をカッコよく受け流すのってたまらないね。
だって普通は時止めできる敵とか手も足も出ない最強の厄介者だもん。
それをさ、こう、わらわの中の長年の経験でかる〜くあしらうって……
ホント主人公って感じがして気持ちいい!
「あ、どうやって時止めを突破したのか知りたいか?」
「あのな、時止めを使えるやつは漏れなく技に頼りっきりになる」
「動かない無反応の敵しか相手しないから、今までどれだけ敵を倒していても」
「それはただの”屠殺”の積み重ねでしかなく、”戦い”の経験はゼロに等しい」
「キリッ」
「うみゃあ、急に独り言をブツブツ言ってキモいにゃ」
ここまで言っても勇者はまだスキル発動を実行し、時を止めさえすれば何とでもなると過信しているだろう。
だが肝心のセーラは止まった時の中で、わらわと自分の絶対的な力量差を見せつけられ戦意喪失している。
……あ、わらわは別に止まった時の中で動けたりとかできないよ?
そんなことできたらずっと時間を止めて遊びまくるわ。とりあえず走ってる人の足元にバナナでも置いたりして転ばしたいな。
話がまたズレた。まあ、時止めに対抗するのはめちゃくちゃレガシーな方法よ。
「というわけでお見せしようじゃないか、時止めの必勝法を。さあマクセル、やれ!」
「!?」
「なにビックリしてるのだ。ほら、スキル発動!」
「お、おう。
「ひーん、あたしもうやだぁ……」
「そんなこと言わずドンと来い!」
とは言ってもセーラのスキルが発動して時間が止まった瞬間にもう勝負はついているんだがな。
時を止める技は非常に強大な力なので、発動するには必ず何かしらの制限がある。
しかし制限があるとはいえ、普通の相手ならば時を止めた状態に持っていった段階で勝利が約束されたようなものであろう。
もちろんわらわとて例外ではない。
初手の初手で時を止められた上で絶対に殺す気で攻撃されていたらあっさりと負ける。だって手の打ちようがないもん。
だが勇者たちは油断した。
我が右腕を倒す際、出鼻で最強の技である時止めを使いわらわに手の内を見せたのだ。
たった一回の、それもわらわへの時止めではなかったが、過去に時を止める者と戦ったわらわにとってはそれだけで十分に分析ができた。
「……くっ、やっぱりあたしじゃ魔王に触れることさえできなかった」
「おぬしが時を止めていられるのは恐らく僅かな間であろう」
「なぜそう断言できるの?」
「攻撃が狙いすました一撃で素早く済まされていたのと、いつも時が流れ始めた瞬間にモタモタと相手の付近にいるから。それに……」
「お手上げです。はぁ、この技があればあたしでも倒せると思ったのになぁ」
それに……
実は二度目の時止めでわらわを狙った際には、まだ少ししか時を止められるかどうかを決めあぐねていたのだ。
もし時を止める代償が”視界が利かなくなる”事だったら?
”息を止めている間だけ”だったりしたら?
別の可能性はいくらでもあった。
戦いに勝つというのはそういう可能性の中から正解を選び続ける事だ。
そしてわらわは戦いにおいて最強。
可能性を選択するうえで、わらわとその他の者が決定的に違うことが一つあるから最強なのだ。
それは……
なんだろう……
だってほら、いちいち考えたことないし。
こういう風に急に主役にされてさ、モノローグもやれって言われていきなり完璧に務まるほどわらわは完璧じゃないからな。
「なんだろうなぁ。勇気? いやでも魔王が勇気を誇っちゃいかんし」
「また独り言を言ってるみゃ……」
「いったいこいつはなんなんだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます