しづめる

島本 葉

鎮魂

 今年も蝉が啼いた。

 この時期になると時折S君を思い出す。時折というのは毎年ではないということで、その辺りが僕の酷薄さを表していた。


 S君は小学二年の時の友達だ。彼は大病を患っていたらしく普段から休みがちだった。そして夏には入院してしまい、僕はクラス代表でお見舞いに行くことになった。なぜ僕だったのかはもう覚えていない。


 あの日、電車を乗継ぎ辿り着いた病室で、S君は僕を力なく迎えた。白状しよう! その時の僕は見舞うというより、代表という優越感の様な心持ちでいたのだ。もう思い浮かぶS君の顔はあの時の表情だけで、声も話した内容も出て来はしないのだ!


 僕はのぼって来たS君を、またそっと記憶の底に鎮めるのだった。


 完

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