第二章 城塞都市リンドルンガ (6)

 翌朝、冒険者ギルドで依頼を受注したついでに図書館について聞いてみた。場所は中央広場にある城塞都市役場の隣で、入館料は銀貨一枚と大銅貨一枚。帰る際に何もなければ銀貨一枚が返ってくる。

 なるほど、買った本が読み終わったら行ってみよう。

 買った本は当たりだった。錬金術は低級ヒールポーションの作り方から始まり、錬金術の基礎が書いてあり、魔導具についても種類や歴史、簡単な魔法陣の描き方などが丁寧に解説してあった。巻末には一般的な魔法陣やいまだに解読されていない魔法陣などの例が多く載っていた。

 これらの魔法陣も鑑定で読み解くことが出来た。これは今後楽しみだ。

 歴史のテキストもためになった。城塞都市リンドルンガが所属する国はトルドア王国。その建国からの歴史が神話も交えて記されており、面白かった。精霊やあのグリフォンも出てきてなかなかファンタジックな内容だった。

 初代の王はエンシェントドラゴンとグリフォンの力を借りてこの地を切りひらき建国したとあった。本当かねぇ。

 図書館の蔵書を含めて色々な歴史書を読み比べて違いを見つけるのも面白そうだな。

 魔導具に使われる素材も興味深い。ロッカ草から錬金術で成分を抽出、抽出した成分に魔力を浸透させる。それをスライムの体液に均等に混ぜると粘土のようになり、その後任意の形状にして時間が経つと魔力が抜けて硬化するとあった。また、硬化した物に再度魔力を浸透させようとも形状の変化は無い。軽く丈夫で加工しやすく熱にも強いそうだ。

 スライムなんて見たことないぞ。どこにいるんだ? 冒険者ギルドで聞いてみる。

「スライムですか?」

「はい」

「スライムはダンジョンか、この辺だと川の上流にいる可能性がありますね。スライムはお金になりませんよ」

「そうなんですね。ありがとうございます」

 ミリーさんにお礼を言ってギルドを後にする。

 そうだロッカ草もどこにあるのか分からんな。雑貨屋さんで聞いてみる。

「ロッカ草かい。そうだな、この辺だと川沿いにあるかな」

「探してみます。ありがとうございました」

 雑貨屋さんを出て川へと向かう。

 川沿いに生えている草を片っ端から鑑定。一時間鑑定し続けて五本見つける。少ないな。スライムも見つけたいし上流へと移動しながら鑑定を続けると、たしかに上流に近づくにつれてロッカ草も多くなってきたように感じる。

 三時間、川の上流へと向かいながら歩いてロッカ草を四十本採取。それからさらに一時間上流へと向かうとポヨヨンとしたゼリーが動いている。鑑定。

《スライム(G-)…………食べられない》

 スライムだ。棒で叩くとベチャッと潰れた。ヨワッ。すかさず体液を回収。周辺にいるスライムを叩き続けて体液を回収。結構な量が手に入った。

 さて帰ろう。

 宿の部屋に入ると早速実験。ロッカ草を収納から取り出して結界の容器を用意する。イメージを固めて抽出。

 容器の中に薄い青の半透明な液体が残る。これを繰り返して全てのロッカ草から成分を抽出する。

 もう一つ結界の容器を用意してスライムの体液を入れる。ロッカ草から抽出した液に魔力を込めて浸透させる。これをスライムの体液と均等になるように混ぜ込む。

 おお、透明感が無くなり粘土のようになった。これを素早く結界の型に入れて成形。厚さ二㎜の板状にする。しばらくすると魔力が抜けたのか硬くなる。

 持った感じはプラスチックかな。少し曲がるからPP(ポリプロピレン)の感じかな。

 これは色々と使えそうだ。

 コンロの魔法陣を思い出して無属性魔法を発動。イメージはCNC。

 無属性魔法でスライム板に魔法陣を彫っていく。ふぅ、完成。かなり綺麗に出来た。溝の深さは一㎜。

 適当な魔石を収納から取り出して、無属性魔法で魔石の属性を無属性に変えていく。

 これを結界の容器に入れて無属性魔法で粉砕。粉状にする。これを粘土と混ぜて溝へと流し込んでいく。入れ終わったら水魔法で乾燥させる。

 うん、出来た。完成だ。

 真ん中に火属性の魔石を置く。魔法陣に手を掛けて、「発動」と唱えると魔法陣の上に火が付く。結界で五徳を作成して魔法陣の上に置く。

 五徳の上に鍋を置いて水を入れる。しばらくするとグツグツと煮立ってきた。

 なるほど。出来たけど火力調整が出来ないのなら使えないな。

 これは魔法陣の紋様を勉強する必要があるな。明日は図書館にでも行こう。

 この後は今分かるだけの紋様と意味を書き出していこう。紙を取り出して無属性魔法で鉛筆を固定。本を見ながら、無属性魔法で紙に書き写していく。

 こうやってまとめると分かりやすいな。

 基本的には起こしたい現象を対応する紋様で再現する。同じ紋様を使っていても並びにより効果も変わる可能性がある。

 プログラミングみたいだな。

 問題は魔法陣の大きさにより使用可能な紋様の数が決まるということだ。魔法陣が小さいとその分紋様の数も少なくなる。

 これはどれだけ効率よくシンプルに組めるかのセンスが問われる。

 面白いね。

 色々と疑問がある。基本的に魔法陣は二重丸の外円と内円の間に紋様を描く。内円の中には魔石。この魔石から燃料となる魔力が引き出されて、紋様に従い現象を再現する。

 この世界の意識のせいなのか魔法陣の仕様なのか分からないが、どうやら魔法陣に描かれている紋様の効果が認識される最低限の大きさがある。これより小さいと発動しない。大きい分には認識される。

 魔法陣の起点となる紋様は決まっていて、そこから右へ時計回りに処理されていく。外円と内円の間に二段で紋様を描いても内側の紋様のみ読み取られて、外側の紋様は処理されない。この場合は外円のまた外に円を描き、そこに紋様を描くことで内側の紋様から外の紋様へと移って処理される。もちろん、その分魔法陣は大きくなる。また、魔力処理能力も魔法陣の大きさに依存する。大きければ大きいほど処理出来る最大魔力量は多くなる。

 これらのことを踏まえていくつかのアイデアが浮かぶ。

 次はこれを実験したいが使いたい紋様が足りない。これはやはり図書館に行くべきだな。


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