第二章 城塞都市リンドルンガ (3)

 門に辿たどり着くとギルドプレートを取得してからはここへ来ていなかったことに思い至る。

いな。そういえば入場税を払いに門に寄るのを忘れていたな」

 すぐに兵士に声を掛けてギルドプレートを見せて入場税の小銀貨一枚を払う。

「遅かったがくいったようだな」

「はい、お陰様で」

「近場でもホーンラビットは出る。侮っているとをするぞ。気をつけろ」

「ありがとうございます。気をつけて行ってきます」

 次回はギルドプレートを見せればタダになると言われた。低レベルの冒険者としては助かる。

 門を出ると探知魔法で辺りをうかがう。たしかに兵士の言ったとおりにホーンラビットと思われる気配があちこちにある。

 あとは薬草だが、受付で見せてもらった見本を見たら魔力の含有量が多く見えた。そういう見方で探せば簡単に見つかるのでは? と目に魔力を集めて魔力を感じるように念じると、あちらこちらの草むらに魔力の濃い部分が見つかる。

 やはり薬草だ。

 一帯の薬草を採取する。移動して採取を続ける。

 途中でホーンラビットを狩り、三時間でホーンラビット二羽、ヒーリ草五十本、リーラ草四十本を採取出来た。

 その後も昼まで採取と狩りを続けて合計でホーンラビットが四羽、ヒーリ草八十本、リーラ草七十本を採取出来た。

 昼食もパンで済ませて狩りと採取を続ける。

 午後は追加でホーンラビットが三羽、ヒーリ草が四十本、リーラ草が五十本で合計ホーンラビットが七羽、ヒーリ草百二十本、リーラ草百二十本となったところで帰途につく。少し早いが充分だろう。

 ギルドプレートを見せて門を潜ると冒険者ギルドへと向かう。冒険者ギルドの中に入ると受付に並んでいる冒険者はまだ少ない。

 まずは買取カウンターへと向かう。

「おっちゃん、買取頼みます」と薬草とホーンラビットを広い机の上に出すと。

「おい、これ今日一日でか?」

「はい、そうです。何か不味かったですか?」

「いや、そんなことはねえ。うむ、ホーンラビットの処理も良いな。昨日と同じで良いか?」

「はい」

「ちょっと待ってろ」

 おっちゃんは薬草とホーンラビットを台車に載せ替えて裏に運んでいく。しばらくすると戻ってきた。

「待たせたな。ホーンラビットが魔石込みで色を付けて一羽千二百リルで八千四百リル。薬草が全部でヒーリ草とリーラ草合わせて二百四十本で二十四束、一束四百リルで合計九千六百リルだ。状態も随分良いな。色は付けられねえが今後もこの調子で頼む。合計が一万八千リル、銀貨一枚と小銀貨八枚だ。それからこれは常時依頼だから、この紙をプレートと一緒に受付に出せ」

 紙とお金を受け取り、ミリーさんのところへと行ってプレートと紙を渡す。

「これをお願いします」

「はい。え~とこれは今日一日でですか?」

「ああ、何か問題ですか?」

「いえ、問題ないです」

 ミリーさんは慌てて処理をする。

「コウさん、今回の依頼達成で冒険者ランクがGからFに上がりました。おめでとうございます」とプレートを返してくる。受け取って確認するとFに変更されている。

 なんか簡単に上がったな。プレートを見つめていると、ミリーさんは笑顔で言ってくる。

「え~と、GからFに上がるのに依頼達成が二十件となっていまして、今回納品していただいた量ですと、依頼件数が達成条件を既に超えています」

 そういうことかと納得してギルドを後にし、夕暮れ亭へと向かう。

 夕暮れ亭に着き、小銀貨九枚を渡して三泊分キープする。これで少し安心だな。女将さんに食料品を売っている場所を聞き、そこへ行ってみることにする。

 言われたとおりに進むと閉店しようとしている店に着く。ここか。

 もう終わりらしいので手早く店内を見ていくが目当ての物が無い。

「何かお探しかい?」

 店のオヤジが聞いてくる。

「卵と凄く酸っぱい果物か何かが欲しいのですが。何かありますか?」

 と周りを見ながらたずねる。

「卵は朝に採れた物だが足が早いよ。それでも良いかい?」

「はい、それで大丈夫です」

「酸っぱい物か……リモンかスウならあるが」

 店のオヤジがレモンっぽい物と瓶を持ってくる。瓶の中身を確認するとどうやら酢だ。

「そのスウは酒を長期間ほっとくと出来る物だよ。まぁ、酒を放置してしまった物だから安くしとくよ」

「どちらもいただきます。リモンは六つでスウは一瓶でお願いします。卵は八つもらうとして、全部でいくらですか?」

「そうだなリモンは六つで大銅貨三枚、スウは瓶代合わせて大銅貨五枚、卵は大銅貨一枚でいいよ」

「合計で大銅貨九枚ですね」

 小銀貨一枚を渡し、大銅貨一枚のお釣りを受け取り宿へと戻る。

 鍵を貰って部屋に入ると早速マヨネーズを作る。結界でボウルを作り卵三個分の卵黄を入れる。ここで鑑定。

《卵黄…………まだ食べられる》

 と出たのでクリーンを掛けると殺菌済みと表示が追加される。その卵黄に塩、酢とリモン汁を少し入れてよくかき混ぜる。よく混ざったところで聖域で絞った大豆油を少しずつ足してかき混ぜていく。もちろん、結界で泡立て器を再現して無属性魔法で回転させていく。分離せずによく混ざったら完成だ。

 早速、パンを収納から取り出し、トマト、レタスを挟んでマヨネーズを掛けて食べる。

 あああ、なんということでしょう! 口の中がオアシスじゃああ。

 久しぶりに食べたマヨネーズは美味しかった。これは常備せねば。そういえばパンも少なくなってきたな。明日か明後日あたり焼くかな。


 翌日の朝はギルドに寄らずに直接採取と狩りに向かう。

 昨日とは場所を変えながら採取と狩りに取り組む。昼食の時間になるとまずは結界でかまを作りフライパンを熱していく。城塞都市に着く前に狩って解体したホーンラビットの肉を薄切りにしたものを塩、こしょうで焼く。焼き終わったらパンにレタス、玉ねぎの薄切り、トマトにマヨネーズを掛けて焼いた肉を挟んでかじく。

 ああ、いよ美味い。

 こうなると他の調味料や香辛料も欲しくなる。

 そういえばと日本での記憶がよみがえる。あれは就職して二人目の彼女の時かな。毎日、上司や取引先に飲みに連れていかれて、土日も釣り、キャンプ、バーベキュー、ハイキング、登山、サバゲーなどに連れ回されていた時のこと。その頃の俺は聞き上手だったらしい。連れ回してくる相手は多数いてそれぞれが色々な趣味を持っていた。その趣味のことを俺は嫌がらずに聞いていた。うんうんなるほどと、そのうちに酒好きをこじらせて酒造りにも詳しくなり、その延長線上にあるしょう作りについて聞いたことを思い出した。たしかこうじカビだ。

 鑑定があるから探せるかも。そしたら醤油が作れるかもしれん。ああ恋しいなぁ。

 えっ、二人目の彼女? もちろん、ほっとかれたからと言われて別れたよ。グスン。

 その後だな。あまり人の言うことを聞きすぎるのは良くないとか思い始めたのは……。まぁ、結局はそれからも随分聞いたのだけどね。

 そんなこんなで早く切り上げてギルドで換金を済ませ、周囲を鑑定しまくる。夕方まで変な目で見られながら鑑定しまくり、なんとかそれらしいカビ菌を見つける。

 ああ、これで出来るかも、と考えながら歩いていたら、またしても四人の男に囲まれる。

「おい、お前。大人しくついてこい」

「お断りします」

「あんっ? おい、舐めてんのか! あー?」

 はぁ、ホントメンドクサイメンドクサイ。と無視していたら、殴りかかってきた。

「舐めんじゃねぇ」

 もういいや、と囲んでいる四人の足元に土魔法で穴を開けて落とし、さらに土魔法で顔だけ出るように埋める。

 仕上げに結界で土をトントンと押し固めて出来上がりだ。遠目で見ていた人に衛兵を連れてきてもらう。

「なんの騒ぎだ!」

 二人の衛兵が来た。

 どうしてこうなったかを衛兵に説明している間も、顔だけ出して埋められている男達はえている。

「俺らはトルド商会の者だぞ! こんなことして後で吠えづらをかくなよ」

 それを聞いた衛兵が何か納得したようだ。

「事情は分かった。連れていくから穴から出してくれ」

 そう言われたので男達を魔法で穴から出すと、四人は衛兵に連れて行かれる。

 はぁ、と溜め息をついてから宿へと向かう。


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