第二章 城塞都市リンドルンガ (2)

 言われたとおり左端のカウンターに移る。

「買取か」

 いかついオヤジが聞いてくる。

「はい」

「じゃあ、ここに出せ。足りるか?」

「多分」

 収納からホーンラビットを六羽出す。もちろん、頭も。もう一羽は出さずに取っておく。

「おお、状態が良いな。体に傷一つねぇ。血抜きと内臓の取り出しも問題ねえな。魔石はねえのか?」

「あります」

 と六つ出す。

「よし、待ってろ」

 オヤジは裏に物を運んでいく。

「おお、状態も良いし角の欠けもねえな。少し色を付けて七千二百リル、小銀貨七枚と大銅貨二枚だな。良いか?」

 そう言われて答えようとすると、後ろから若い冒険者が怒鳴る。

「おい、オヤジ! 俺らが納品した時とだいぶ違うじゃないか」

「ああ? 文句あんのか? お前らのはこれだろ」

 ボロボロに刻まれたホーンラビットが机の上に投げ出される。

「おい、こっちを見ろ。これが同じとでも言うのか? 少しの金になっただけでもありがたく思え」と若い冒険者を睨む。すると冒険者はなぜか俺を睨みつけてからすごすごと引き下がる。

「悪かったな。近頃のやつはダメでよう」

 オヤジは悲しそうな顔をする。

 買取出来ない物でも買取っているのに文句を言われ、切ないのだろう。

「これからもよろしくお願いしますね」

 お金を受け取り、頭を下げると、おっちゃんは笑顔で答えてくれる。

「おう」


 ちなみにおっちゃんに聞いたところ、この世界の通貨はこんな感じだと分かった。

 鉄貨=一リル

 銅貨=十リル

 大銅貨=百リル

 小銀貨=千リル

 銀貨=一万リル

 大銀貨=十万リル

 小金貨=百万リル

 金貨=一千万リル

 大金貨=五千万リル

 白金貨=一億リル

 大白金貨=十億リル

 となる。

 おっちゃんには、お前そんなことも知らないのか、今までどこで暮らしてたんだと怪しまれるが、父母が物心つく前に死んでしまい、じいちゃんと二人で魔獣の森で暮らしていたと言ったら同情された。

 でもお願いだおっちゃん、バンバン背中をたたくのはやめてくれ。地味に痛い。


 受付のミリーさんのところへと戻る。

「あの……この辺で値段の割に良い宿はありますか?」

「そうですね。ここを出て左側の三軒隣に夕暮れ亭という宿屋兼食堂があります。そこでどうでしょうか? 安いですし設備もお値段の割には整っています。あと、一階にある食堂も安くてしいと評判ですよ」

 ニコリと笑顔で教えてくれる。

「では行ってみます。ありがとうございました」

 ギルドを出て少し歩くと、男三人に囲まれる。

「おい! お前! よくもクレアちゃんを泣かせてくれたな」

「そうだ! しかもクレアちゃんはギルドをクビだ! クレアちゃんが可哀想だろ! どうしてくれる!」

「責任は取ってもらうぞ!」

 冒険者と見られる若い男三人が俺を囲む。

「そうか、お前らはあの受付のファンか何かか?」

「そうだ! 文句あるか!」

「それは自由だ。しかしファンはお前ら三人だけか?」

「うん? もっといるぞ! さっきまで四人だったがな。おじづいて帰ったんだろう」

「そうかそうか、お前らも帰った方が良いのではないか?」

「なんだお前! 俺達をめているのか?」

「違う違う、そうじゃない。ここに来ていない奴は今頃どこにいるのかなと思ってな」とニヤリとする。

「そんなのは帰ったに決まっているだろう」

「ああ、なんだ気付いてないのか? 傷心のクレアちゃんは今頃……」

「あっ! そういうことか。俺は帰る。後は任せた」と慌てて走り去る。

 もう一人も何かに気付いた様子で、

「ああ、俺も行くわ」と走り去る。

「おい! お前ら待て」

 残った一人はそう言うがもう二人はいない。

「おい、どういうことだ?」

 最後の一人はこちらを向き、そう聞いてくる。

「それはな、最初からここに来てない奴は今頃、クレアちゃんと二人で甘い言葉で慰め……」

 俺が溜め息をついてからそう言い切る前に最後の男も走り去る。

 ちょろいな。このまま内輪争いでもしていてくれ。俺は宿へ行こう。

 すぐに夕暮れ亭の前に着いて中に入る。

「お食事ですか? それともお泊まりですか?」

 女将おかみさんと思われる女性から声を掛けられる。

「泊まりで一人です。空いてますか?」

「大丈夫よ。一泊小銀貨三枚だけど大丈夫かしら」

 そう聞いてくるので収納から小銀貨三枚を出す。

「丁度ね。では案内するわ」

 階段を上り二階の奥の部屋へと案内される。

「はい、これが鍵よ。失くさないようにね。水は裏に井戸があるから使ってね」

 女将さんはそう言って部屋を出ていく。

 部屋の中を見ると広さは四畳半くらいにベッドが一つと小さなテーブルと椅子が一つずつ。壁には魔導ランプが光をともしている。汚くはないがすごれいでもない。服と体にクリーンを掛けてベッドに転がる。

 少し硬いが久しぶりのベッドだ。落ち着く。このまま眠りたいところだが宿の食事も気になる。けれども懐が寂しい。今日は収納の中にある物を食べて、宿の食堂は明日稼いでからのぞいてみようかな?

 体を起こして収納から聖域で焼いたパンを取り出して食べる。飲み物はハーブでれたお茶だ。

 食べ終わるとカップにクリーンをかけて再び収納する。

 ベッドに寝転がると気が抜けたのか自然とまぶたが落ちてくる。


 翌朝、少し東の空が明るくなってきたところで目を覚ます。ベッドから出て軽く伸びをする。ああ、気持ち良い。

 うん、悪くない朝だ。

 収納からパンを取り出して一つ食べる。味気ないな。何か具とかマヨネーズとか欲しいな。バターでも良い。でも先立つ物が無い。稼がなくては。

 収納からコップを取り出して生活魔法の飲水を注ぎ一気にあおる。

「よし、いくか」

 一階に降りると女将さんが食堂の清掃をしている。

「お世話になりました。また来ます」

 鍵を返して宿を出る。

 うん、ホーンラビットの相場は分かった。あとは定番だと薬草とかか? ギルドで聞いてみるか。とギルドまで歩く。扉を開けてギルドに入ると既に多数の冒険者がいる。みんな若い。俺と同じ低ランクの冒険者なのだろう。

 昨日、受付してくれたミリーさんの列に並び受付を待つ。

 俺の番になる。

「今日はどうしますか?」

 そう聞かれたので依頼について質問する。

「質問なんですが、ホーンラビット捕獲と薬草採取の依頼を受けたいと思っていまして、受け付けていますか? それと、出来れば薬草の見本を見せてほしいのですが」

「街内の仕事ではなくてもよろしいのですか?」

「はい、大丈夫です」

「それでしたらホーンラビットと薬草採取については常時依頼となっています。ラビットは一羽ごと、薬草は同一品種十本で一依頼となります。特に手続きは要りません。薬草でしたらこちらです。こちらがヒーリ草で、こちらがリーラ草となります。どちらもヒールポーションの材料となります。採取の仕方ですが根は取らずに採取してください。根さえ残っていればまた生えてきます。これでよろしいでしょうか?」

「大丈夫です。ありがとうございます」

 受付を後にする。門まで歩くうちに、採取場所も聞くんだったと思うが、魔獣の森に近づけば見つかるだろうと門を目指す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る