第二章 城塞都市リンドルンガ (1)

 上空は快適だ。グリフォンが風魔法で風を制御しているので背中に乗っていても安心だ。そこでグリフォンから色々な話を聞いた。

 この森の名前は魔獣の森。この森に近づくのは禁忌とされている。それは何故なぜか。

 千年以上昔、この場所には国があった。そこで聖域の生命の実をめぐり争いが起こり、それに怒った神により滅ぼされて森にまれた。魔力の濃い聖域の周りにはランクの高い魔獣がかっしており、とてもではないが人族には手が出せない。それに神のたたりが怖い。

 それで手付かずのままになっていたが数十年前に森の近くに人族が城塞都市を築き、森の恵みを享受し始めた。

 それもありグリフォンは生命の実を食するついでに城塞都市の人族を含めて監視しているのだとか。

 その城塞都市の人たちは、滅んだ国の民のまつえいだという。その国の名前までは知らないと言っていた。他にも国があり争いが絶えないとも言っていた。人族は愚かだとも。

 時速三百㎞くらいの速度で三時間ほど飛んだところで、遠くに壁で囲まれた都市が見える。

《この辺で良いか? 近くまで行くとうるさくての》

 そう言って森の中へと降下。降りて挨拶をする。

「ありがとうございました」と言うと、

《またの》

 と言って飛んでいく。

 また会うの?


 森を見渡すと聖域や魔獣の森の奥とは違い木も標準的だ。何かホッとする。南に三十分ほど歩くと森を抜ける。遠くに城塞都市の壁が見える。そこまでは腰ほどの高さの草が続いている。

 ガサガサと草をける音とともに角の生えたウサギが飛び出してくる。すかさず鑑定。

《ホーンラビット(G)………食べられる》

 あああ、やっとGランクの魔獣だ! これだよこれ! これを待っていたよ!

 ウサギは俺を認識すると角を突き出し助走をつけてジャンプする。

 ガンッと音がしてホーンラビットが頭をふらふらさせている。

 ふふふ、結界完璧!

 すぐにホーンラビットを結界で囲み、風魔法で中の空気を抜いていく。するとしばらくして、もがいたかと思えばけいれんして動かなくなる。

 やった! 低ランク魔獣初捕獲!

 後ろ脚を持ち、下に穴を開ける。首を風魔法で切って水魔法で血抜きをする。丁度良い高さで後ろ脚を結界で固定して、風魔法の丸鋸を無属性魔法で回転させて腹をさばいて内臓を取り出す。内臓を取り出したら小さな魔石を抜き取り収納する。

 最後に穴を生活魔法の穴埋めで埋めれば終了だ。

 可哀かわいそうだけど、食うか食われるかの世界だからね。

 こんな感じでホーンラビットを七羽捕獲。二時間も歩くと城塞都市の門の前に到着する。すると上の誰かから声が掛かる。

「何用だ!」

 門の上から兵士が声を掛けているようだ。

「え~と、討伐した魔獣を売りたくて来ました!」

「そうか、待っていろ!」

 しばらくすると大きな門の横の小さな丈夫そうな扉が開き、兵士が二人出てくる。

「手を上げろ!」

 そう言われたので従って手を上げる。

「獲物はどうした?」

「はい、収納に入っています」

「ほう、収納持ちか」

 俺は二人の兵士に挟まれて中へと入る。そこにはもう一つ門と扉が二つあった。

 兵士に挟まれて壁側にある扉を通る。どうやら兵士の詰所のようだ。

「よし、そこに座れ」

 粗末な椅子に腰掛ける。

「少し事情を聞かせてもらう」

 二人の兵士よりも偉そうな人が現れて正面に座る。

「まずはどうしてここに来た?」

「えっと、獲物を売ってお金にしたいのと、出来れば仕事を探したいと思いまして」

「ふむ、どこから来た?」

「魔獣の森です」

「!! 魔獣の森だと!」

「はい」

「どうやってあんなところで暮らせていたんだ?」

「じいちゃんが結界を張って」

「結界? そのじいちゃんとは?」

「えっと、父母が物心がつく前に死んでしまい、祖父に引き取られて育てられました。ですが祖父は変わり者の魔法使いだったらしく、仕えていた貴族様のところを辞めて、私を連れて魔獣の森で結界を張り暮らしていました」

 俺はここに辿たどり着くまでに考え出したカバーストーリーを話す。

「してその祖父は?」

「一ヶ月前に老衰で死にました」

「そうか悪いことを聞いたな。食料とかはどうしていたんだ?」

「祖父の張る結界は大きかったので、内側に畑を作り、野菜や穀物を育て、魔獣を狩って食べていました」

「祖父が仕えていた貴族様の御名は分かるか?」

「いいえ、分かりません。死ぬ間際まで教えてはくれませんでした」

「そうか」

 取調官は目をつぶり考えこむ。しばらくすると、机の上に水晶を用意する。

「分かった、これに手を当ててくれ」

「はい」

 水晶に手を置くと青く光った。

「うん、犯罪歴は無いな。通常は入場税を取るのだが、今は持ち合わせが無いのだろう?」

「はい、ありません」

「では冒険者ギルドに案内する。誰でも無料で登録出来るから、そこで身分証を作れ。そうすれば獲物はギルドで売れる。その後にまたここに来て入場税を払ってくれれば良い」

「はい、ありがとうございます」

 頭を下げると、取調官は兵士に指示を出す。

「よし、お前。こいつをギルドまで連れてってやれ」


 兵士に連れられて大きな建物の前に来た。看板に冒険者ギルドと記されている。

「ここだ。手続きが終わったらまた門まで来るんだぞ」

 そう言って兵士は去っていく。

 ふと思う。看板を見て確信。普通に現地人としゃべったけど、おかしいよね。文字も読める。これは創造神のおびに含まれているのかな。

 まぁ、考えるのは後だ。色々片づけてしまおう。と扉を開けて冒険者ギルドに入る。

 左に酒場? 食堂? 前に受付。左後ろの掲示板に色々と紙が貼ってある。あれが依頼票とかなのだろう。

 受付に並んでいる者はいない。一番近い右端の受付にいく。若い女性が座っている。

「何か御用ですか?」

 微笑ほほえみつつ聞いてくる。

「登録をお願いします」

 と言うと受付の女性は途端に態度を変える。

「……冒険者に必要な魔力が何も備わっていない様子ですし、あなたみたいな頼りなさそうな子供が冒険者になろうなんて信じられないわ」

「誰でも無料で登録出来ると聞いていますが」

「では銀貨三枚で良いわ」

 まったく、たしか誰でも登録出来るはずなのに、身なりで決めつけた上に金銭まで不当に要求してくるのか……。

「魔力があれば良いのですか」

 そう聞くと鼻で笑われたので、前側だけ体表の結界を解除する。

「ヒィィィ!」

 女は椅子を後ろに倒して尻餅をつく。そこに、冒険者らしき男が近づいてくる。

「クレアちゃん、どうした?」

「お前! クレアちゃんに何をした!」

 男が俺の肩をつかもうとしたところで全周囲の結界を解除。辺りに濃密な魔力が発散される。

「ぐぅぅ」

 男は尻餅をつき汗をダラダラと流し始める。二階からバタンと音がすると階段をダンダンと踏み鳴らして男が一人降りてくる。

「何事だ!」

 と声を上げるので説明する。

「そこに転がっている受付の女性に登録をお願いしようとしたら、魔力が無いから登録出来ない、したかったら銀貨三枚払えと言ってきたので、お望みどおり魔力を解放したのですが」

「本当か?」

 隣の受付の女性に尋ねるとコクンと女性はうなずく。

「またお前か。今度何か起こしたらクビと言っておいたよな」

 転がっている女性をにらみ、男はいきをつく。

「クレア、お前は今日でクビだ。今すぐ出ていけ」

「そんな、私はトルド商会の娘ですよ。そんなことをしたらどうなるか分かっているのでしょうね」

 女は男を睨む。

「おいおい。たかだか辺境の商会が冒険者ギルドに何が出来ると思っているんだ?」

「ふんっ!」

 女はそう言ってこちらを睨みつつその場を後にする。

「おい、それとお前。もう魔力を引っ込めろ」

 そう言われたので体表に結界を再び展開する。すると周りはホッとしたような雰囲気になる。

「それで登録だったか? ミリー、登録してやってくれ」

 隣の受付の女性に声を掛ける。

「こちらへどうぞ」

 と言われて横に移る。

「はい」

「ではこの紙に必要事項の記入をお願いします。もし書けなかったら代筆もしますよ」

 ニッコリ笑う。天使か。

「いえ、大丈夫だと思います」

 ペンを取り、書き込んで渡す。受け取った女性は魔導具に紙を挟む。

「ではこちらの水晶に手を置いてください」

 そのまま水晶の上に手を置く。そうすると少し光る。

「もう良いですよ」

 と言われて手を離すと、銀色のプレートを渡される。

「ギルドプレートです。このギルドプレートにはコウ様の魔力が登録されており、コウ様しか使うことが出来ません。くしますと再発行に銀貨十枚かかりますのでお気をつけください。登録したばかりですので冒険者のランクは最低ランクのGです。後の細かいギルドのルールはこちらに書いてありますのでご確認ください。もし何か分からないことがあればお聞きください。よろしいですか?」

「大丈夫です。あと買取をお願いしたいのですが」

「一番左の買取カウンターで買取希望の品物をお出しください」

 ペコリと女性がお辞儀をする。反射でこちらもお辞儀を返す。こんなところは何かまだ日本人だな俺、とか思う。

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