第一章 魔獣の森 (5)

 今回は東の境界まで来てみた。結界から顔だけ出してみる。やはり結界の外は生き物の気配や音がする。にぎやかだ。

 探知魔法に引っかかる何かがこちらに向かってくる。のっそりとふてぶてしく現れたのは凶悪な見た目のいのしし魔獣。鑑定ではSSだ。勝てそうにない。

 全身は赤で背骨の部分が茶色。色合いからすると火魔法と土魔法を使うと思われる。前に伸びる極太の牙も凶悪そうだ。

 試してみるかと右手を結界から出して猪に向ける。土魔法を発動。猪の下に穴が開く。ドスンっと音がして猪が消える。すかさず穴を埋めて結界で上から押さえつける。

 すると埋めた穴が爆発。凄い音だ。中からプスプスと煙を上げて猪が出てくる。

 もう一度、開けた穴に猪を落とす。今度は水魔法で水をたっぷりと注いで凍らす。

 これでどうだ?

 またしても爆発して氷が飛散。中からたけびを上げる猪が出てきた。激おこだ。

 でも何やらヨロッとしている。アレだな、自分の魔法の爆発で傷ついたのだろう。

 よし、もう一度穴に落とすとすかさず水を満たして凍らせる。またまた氷が爆散。ヨロヨロしている。明らかにダメージが蓄積している。

 また、穴に落とす。こいつ簡単に落ちるな。水を入れて凍らせる。もちろん、氷は爆散。

 猪は立っているのがやっとのようだ。

 もちろん、猪を穴に落とす。水を充填して凍らせる。

 うん? なかなか爆散しないなと様子をみていると、しばらくして氷が爆散。

 猪が穴からてくるとバタンッと倒れる。ピクピクいっている。

 十分ほど様子をみるが、死んだようだ。体に身体強化を掛けて結界から飛び出し、猪を収納へと回収する。成功だ。

 すぐに我が家へと戻る。

 肉だ肉だ。

 我が家の前で猪を出す。ふふふ、やってやった。

 喉を風魔法の丸鋸で切る。水魔法で体内の血を抜く。あとはナイフで解体していく。腹を割いて内臓を傷つけないように取り出して穴に放り込む。

 皮を剥いでとりあえずクリーンを掛ける。

 肉を切り出しては収納へと入れる。

 念のため鑑定。

《レッドマッドボア(亜種)の肉…………食べられる(焼くことを推奨)》

 食べられる。鑑定どおりに焼いて食べよう。

 外で火を起こして肉を串に刺し、遠火でじっくり焼く。

 やばい、よだれが……。

 焼けたようだ。岩塩を適当に振り一口。

 う、美味い! 久しぶりの肉だというのもあるが美味い!

 ガツガツ食べる。あと四百㎏はあるな。当分は食べられる。

 あ~美味かった。


 昨日はラッキーだった。念願の肉にありつけた。でもまぁ倒せたのは実力ではないことも認識している。相手がおバカでこちらは安全なところからの攻撃。

 猪のランクはSSと高かったが、熊やゴリラの方が知能が高いように見えた。猪はか離れた場所で同じ種類の魔獣と争っていたのだろう。それも亜種だ。その場所では勝ち残り調子に乗りこの辺まで来た。それで俺にめ殺された。

 安全な場所を確保出来なければアレほど冷静には攻撃出来なかったと思う。本当にラッキーだった。

 今日は魔法の訓練をしよう。

 魔法で分かっていることは今のところ、二属性までの同時発動しか出来ないということだけだ。

 例えばお湯を作る時は水魔法と火魔法を使う。それらを同時に無属性魔法で加工して飛ばしたりは出来ない。風の丸鋸は風魔法と無属性魔法。火の矢は火魔法と無属性魔法。三属性同時発動は出来ない。

 これが本当に無理なのか、やり方や習熟度が足りないせいなのかは分からない。

 色々と試してみよう。

 無属性魔法の身体強化の要領で脳を活性化。そこで火魔法と水魔法を発動。お湯が流れ落ちる。

 あれ? 身体強化の要領で脳を活性化しつつ火魔法と水魔法の三属性の同時発動が出来た。どういうことだろうか?

 脳の活性化と関連があるのか? 今度は身体強化の要領で脳を強めに活性化。意識が明瞭になり五感が研ぎ澄まされた気分になる。周囲の状況がハッキリと、時の流れはゆっくりと感じられる。

 火魔法と水魔法を発動。いつもよりスムーズだ。ああ、出来るなこれ。無属性魔法を発動して火魔法と水魔法の球体を作り出して飛ばす。成功だ。

 なるほどな。認識が足りなかったのかな。

 さらに脳を活性化。うほーっ! 時間の流れが遅くなった気分で全能感が凄い。火魔法、水魔法、風魔法、土魔法を発動して無属性魔法で球体にして空中に浮かべる。出来た。だけどむずいな。

 五分間維持したところで解除。

 うわ~反動が凄いな。頭痛がする。毎日練習して慣れなければ。もしかしたらスキル化するかもしれないしな。頑張ろう。

 思わず生命の実を齧るとスーッと痛みが引く。そりゃそうか。

 これを何回も繰り返す。生命の実最高。中毒とかにならないよね、と少し心配。まぁ、食べれば中毒も治るか……。

 それから光魔法で光を屈折させて光学迷彩的なことを試したり、闇魔法で足音を消したり、風魔法で体臭を散らしたりと頑張った。


 そんなこんなでさらに一年が経ち十四歳となった。

 自分を鑑定。

《有元 航平(十四歳)能力…………火魔法、水魔法(水回復魔法)、風魔法(拡声魔法、盗み聞き)、土魔法(石化魔法)、光魔法(光回復魔法、光学魔法、浄化魔法)、闇魔法(消音魔法)、無属性魔法、時空間魔法、転移魔法、収納魔法、結界魔法、遠見魔法、鑑定魔法、探知魔法、思考加速、多重思考、錬金術(抽出)、機械魔法(旋盤、フライス盤、機械ハンマー)、鍛治魔法、剣術、生活魔法(クリーン、着火、ライト、送風、穴掘り、穴埋め、気分沈静、飲水、ポケット)……状態:良好……創造神のお詫び》

 色々増えたし探知範囲も半径十㎞に広がった。相変わらずレベルとかは見えない。だが念じたら、それぞれの能力の効果が詳細に分かった。生活魔法の気分沈静は興奮して眠れない時に掛けると気分が和らぎよく寝られる。ポケットは小物や小銭程度を出し入れ出来る。時間停止の機能はないし容量もかなり小さい。いざという時の小銭や身分証明書くらいなら入るかも。

 もう少し魔法を駆使して結界の外を見てみたいと思う。

 西と南はゴリラと熊のテリトリーだ。絶対に近づかない。猪がいた東に行こう。

 東の境界前で光学迷彩と消音を掛ける。身体強化も掛ける。多重思考と思考加速も全開だ。探知で警戒しつつ結界の外に出る。六㎞先に反応がある。バレないように近づいていく。

 いた! 茶色い猪だ。マッドボア(S+)だ。ふひひ、肉だ肉。

 猪の下に落とし穴。猪が落ちる。すぐに消音を穴の上に展開して音を遮断。水を穴に入れて凍らせる。五分経つが反撃はない……十分ほどが経った。

 ん?

 えっ?

 死んだ?

 氷を解除して確かめると、お亡くなりになった猪が穴の中で横たわっている。

 すぐに収納して転移で帰る。結界を越えることが出来ないので手前まで転移。すぐに結界内に入る。

 我が家の前に着くと猪を出して鑑定。

《マッドボア(S+)………死体(食べられる・美味しい)》

 サクッと水魔法で血抜きと解体。部位ごとに収納していく。今日は焼肉パァーリーだ。

 そういえば前回のレッドマッドボアの時にもあったけど、マッドボアの体内から石が出た。

 鑑定してみる。

《土属性魔石(AAA)》

 と出た。使い道は分からない。定番だと魔導具とか?

 今度はレッドマッドボアの物を鑑定してみる。

《複数属性魔石(火・土、S+)》

 という物だった。

 でもアレだ。何か簡単に仕留められたな。まさか俺、強いとか?

 ないない。相性と魔法のお陰だな。

 今後も肉は猪だな。美味いしな。安全第一だ。


 アレから半年。定期的に猪を狩っている。順調だ。

 今日も猪狩りだ。東の境界付近で探知を発動する。いたいた、猪だ。光学迷彩と消音を掛けて近づく。

 うん? 何かが探知に反応し、こちらに高速で近づいてくる。それも一直線だ。これは飛んでいる?

 上空を見ると何かが飛んでくる。鑑定すると……。

《ワイバーン(SS+)…………凄く美味しい》

 鼻水が出た。何やら俺を認識しているっぽい。チラチラとこちらを見ている。

 あ、こちらに突っ込んでくる。慌てながらも転移。猪もワイバーンを見て逃げる。待て! 俺の肉と思うがワイバーンが突っ込んでくる。

 くっ! お前のせいで肉が逃げたんだぞ!

 突っ込んでくるワイバーンの前に結界を展開。物凄い勢いでワイバーンは結界と衝突し、目がバッテンになって墜落した。すぐに駆け寄り、風の丸鋸を無属性魔法で高速回転させてワイバーンの首を切り落とす。

 それをすぐに収納して転移で結界の境界手前まで移動。無事に我が家へと辿たどり着く。

 とりあえずワイバーンを取り出して水魔法で血抜き。丁寧に解体していく。体の割に身が少ないな。肉と皮は収納しておく。魔石も取れた。

《風属性魔石(S+)》

 これも収納行きだな。

 夜はワイバーンを焼いて食べた。うん、凄く美味しかったよ。まだ肉は残っているけど、機会があればまた狩りたい。

 でもワイバーンの奴、なんで俺のいる場所が分かったのだろうか? 魔獣でも探知系のスキルが使えるのかもな。気をつけよう。

 魔力かな? 俺の体から発せられる魔力が探知された? その可能性はあるな。

 明日は、体から発する魔力を隠蔽出来ないか試してみよう。


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