第一章 魔獣の森 (3)

 それから一週間、無属性魔法の習熟に費やした。その甲斐かいもあって無属性魔法で作成した物を十二時間保持させることに成功する。

 ああ、これで寝ている間も大丈夫だな。強度もだいぶ上がったしな。

 条件付けが出来るならとやってみると、柔らかい結界を作成することに成功。ふふふ、ホント俺天才。

 マットレス要らずだな。枕も良いな。

 周りを少しの風だけ通す結界で囲み、柔らかい結界でベッドと枕を再現。良いではないか。季節に合わせて熱も通すか通さないか決めれば良いしな。

 快適快適。

 気持ち良く寝られるって最高。

 でも肉が食べたい。肉肉。

 光魔法の練習は無属性魔法の習熟度の影響か、一時間持つLEDをイメージした光源の作成に成功。土魔法は地面に深さ二十㎝、直径二十㎝の穴を開けることにも成功した。穴を開けた分の土は自在に操ることも可能だ。

 風魔法も扇風機程度の送風が出来るようになった。

 闇魔法だけは今のところ使い方が分からない。

 う~む、では時空間魔法の検証に移ろうか。

 まぁ、時空間魔法といえば収納とかだろう。時間停止とかならなお良いね。

 適当なトマトを使い、

「収納」

 ……。失敗。

 何がいけないのだろうか。イメージだな。イメージ。

 収納といえばアレだ。四次元ポ○ットだな。あのイメージでどうだろうか?

「収納!」

 成功だ。青い耳の無い猫型ロボット万歳だな。

 意識すると収納内の物が分かる。良いぞ。あの青い猫型のようにアレでもないコレでもないと迷わずに済む。

「取り出し」

 と言うと手にトマトが現れる。ふふふ。成功だな。

 あとは中で時間が停止しているかの検証だな。このままトマトを収納して様子を見よう。リュックも収納しよう。余裕だな。


 一週間が経過。収納内のトマトはみずみずしい。時間が停止しているか時間がゆっくり進んでいるのだろう。これでタイミングを気にせず収穫出来るな。

 うむうむ。いつも塩味だと飽きるな。気にしないようにしていたが、巾着内の岩塩は減る様子がない、というか使った分だけ回復する。

 これは神様特典か何かだろうか?

 まぁ良いか。ありがたい。

 だが肉が食べたいよ、神様。俺をここに送り出したのは神様だろう? じゃあ肉をくれ。

 ……ダメか。

 この日は中心部の農園? から外縁に向かって歩いていく。

 どこがこの森の端なのだろうか?

 二㎞ほど歩くと久しぶりに道のようなものが見えてくる。

 そこから外縁へと向かう。五㎞ほど歩いたところで何か薄い膜を通った感覚を味わう。すると生物の気配や音のにぎわいが体に押し寄せてくる。

 安全圏から出たのだな。

 辺りを見渡す。虫の声、野鳥の鳴き声などが聞こえる。

 和んでいると……、ズンズンと何かが近づいてくる。

 現れたのは体長五mの熊。腕が六本ある。胴体はさびいろ

 それがえる。

 ウガァァ!

 そのほうこうを聞いて硬直してしまった。あ、ヤバい。

 必死に逃げようとするも体が動かない。熊が迫る。迫る。ああ、これは死んだか。

 と思うが、横合いから飛び出してきたゴリラが熊に体当たりした。

 熊が転がる。それを見たゴリラがドラミングして吠える。

 ゴァァ!

 体高は五mで緑の体毛。背骨部分は茶色い体毛が生えている。イケメンゴリラだ。

 俺はとりあえず下がって安全な森の内へと入る。薄い膜を通り抜けるとあんする。

 そこからは怪獣大決戦! 熊とゴリラが魔力対戦?

 お互いに岩石を生成して周りに浮かべると、それをぶつけ合う。熊は火を、ゴリラは風の刃を出し合い、まるで映画のようだ。

 何かの拍子にゴリラがつまずき、しまったという顔をすると、熊が岩石を生成して飛ばす。それがゴリラへと当たり飛沫しぶきが舞う。

 熊が喜びの咆哮。そのままゴリラへと迫る。

 ゴリラ絶体絶命か? というところへゴリラの援軍。その数四頭。形勢逆転だ。

 熊は悔しそうに撤退。

 援軍に来た一頭のゴリラが戦っていたゴリラに近づくと傷をいやす。全身が緑で背骨の体毛だけが青いそのゴリラが手をかざすと、傷が治っていく。

 これが水魔法なのだろうか?

 傷を負っていたゴリラはこちらにチラリと視線をよこすが、他のゴリラとともに去っていく。

 うん、もうここから出ません。

 そういえばゴリラが使っていた風魔法。そう、風の刃。

 風魔法で掌に弱い風を起こし、無属性魔法で風を圧縮して飛ばしてみれば、再現出来るのではないか? 試してみる。

 風魔法で起こした風を無属性魔法で圧縮して制御しながら風を飛ばす。巨木に当たると傷が出来る。

 ふむ、ゴリラよりも威力は弱いが使えるな。風の刃が当たった巨木を見る。

 巨木の周囲を確認する。大丈夫そうだ。あっちか、と方角を確認。

 風の刃をまるのこにして無属性魔法で回転させる。

 キュィィィン。

 もう一度方角を確認。OK。巨木の根元に丸鋸を食い込ませる。次に斜め上方向から丸鋸で切ると、ミカンの房一つのように切れて取れる。

 その反対から根元に切り込みを入れていくと……。

 ギギギギィと巨木が倒れていく。上手く途中で引っかからずに倒すことに成功。

 すぐに枝を払って集める。枝といっても巨木の枝だ。太い。これらをカットしてまきにしていく。

 巨木を輪切りにしていく。五mから六mくらいの幅で切る。出来た。

 樹皮をがして水魔法で水分を抜いて乾燥させる。

 適当な大きさの角材へとカット。板材も切り出していく。

 カットした角材と板材を無属性魔法で浮かして移動させる。

 中心農園の近くを土魔法で整地。

 土魔法で四箇所に穴を掘り、その中に石を敷く。

 角材を無属性魔法で穴に打ち込み、土魔法で埋めて固める。

 風魔法で角材同士を接合し加工して組み立てていく。

 なんとか六畳ほどの大きさの骨組みが出来た。屋根は片流れとした。

 くぎで屋根に板材を取り付けて、細長い板材を屋根の下から貼っていく。一時間ほどで屋根が完成。将来は石で屋根を覆いたい。土魔法をもっと修練せねば。

 壁にも板材を貼り付けて窓の部分を加工。窓枠をつける。

 金具が無いので窓と玄関扉は引き戸とした。

 あとは椅子とテーブルを作成して適当に並べて置けば完成。

 木はまだまだあるな。ということで無属性魔法で旋盤を再現。皿とカップと箸などを削り出す。

 せっかくなので棚も製作。そこに木の皿やカップを並べる。一つのカップに箸やスプーン、フォークを挿す。

 ふむふむ、良い感じだ。

 そうだそうだと神らしき者が言っていた言葉を思い出す。

 時空間魔法は無属性魔法の派生だと。それであれば他にも無属性魔法の派生があるのではないか。

 では何が出来るのか?

 異世界の定番だと鑑定、探索、探知、採取、採掘、錬金術とかだろうか? 身体強化とかもそうかな。

 色々と試してみよう。

 まずは目に魔力を集めて採ったばかりのトマトを見つめて食べられるか知りたいと念じる。

 するとトマトの表面が細胞レベルで見えた。

 その状態で森の中を見ると遠くまで見える。これは遠見とか望遠とかになるのか。これはこれで使えるが今求めている能力じゃない。

 どうすれば良い?

 トマトに魔力をまとわせてみた。うん、何も起こらない。

 目と脳に魔力を集めてみた。これは何? と念じる。

《トマト…………食べられる》

 と表示される。

 今度は手に取らずにナスを見つめて念じる。

《ナス…………食べられる》

 と出る。

 この世界の名前も知りたいと念じる。

《ナス(メズ)…………食べられる》

 と表示項目が増える。

 今度は巨木を鑑定。

《聖域の木…………頑張れば食べられるかも?》

 どういう木なのか知りたいと念じる。

《聖域の木…………神が聖域に植えた木》

 と出る。

 ああ、ここはやはり神が創った場所なんだな。

 次は例の謎の実を鑑定。

《生命の実…………食べられる》

 生命の実とはなんだろう? 再度鑑定。

《生命の実…………あらゆる病魔を治し、あらゆる傷を回復する伝説の実》

 え? これってそんなにすごいものだったの。四次元ポ○ットというか、時空間魔法の収納に入れておこうと全て採取して収納に入れる。これで病気とか怪我も安心かな。

 もう鑑定は良いかと今度は魔力をなるべく薄く周囲いっぱいに広げるように放出する。頭の中で周囲の状況が分かるようにと念じると、あら不思議、目を閉じていても周囲の状況が分かるようになる。これは便利だ。あとは生物がいる場所でどうかだな。

 今日はここまでとしよう。


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