第27話 メンバー変更して
『再挑戦』
動画の冒頭には大きく表示される。パーティーメンバーは四人。村橋は怪我のため離脱、二人組のユーチューバーが加わっている。
ヘルメットに加えてN95マスクにゴーグルも着用しているため、カメラは普通にメンバーたちの顔を映す。
大空洞から再び進み、まずはネズミの死骸を探す。きちんと絶命を確認したわけではないが、与えた傷から考えれば生きているとは思えない。
「あれだな」
「うわ、マジかよー。よくこんなの殺せたっすね」
横たわるネズミを照らして軽く言うのは、反射テープを縦縞に貼っているケイだ。もう一人のカイトは横縞にしてキャラ認識できるようにしている。
佐々木と吉澤は「まあ苦労したわ」などと適当に合わせながら死骸から
ウエットティッシュで血を拭い、さらにブリーチ希釈液を使って消毒する。
「さて、こんなところでモタモタしてられないし、奥に行こうか」
「ドローンはもう使わないんすか?」
「せっかく買ったし使いたいんだけれど、電波がほとんど届かないからなあ」
広い場所があるかもしれないし持ってきてはいるが、狭い洞穴では効果が薄いため飛ばすつもりはないと言う。
「えー、無いんすか?」
つまらなそうに言うが、遠くまで探索に飛ばせないならば注意力が散漫になるデメリットの方が大きいと佐々木は反論する。
「どうしてもドローン使いたいなら自分で買っていよ。曲がり角の先を見る程度なら一万くらいの安いやつで十分だろ」
地下に航空法は関係がないし、重量や出力が大きい物を使うにしても国土省に届け出る必要すらない。厳密には違法になるが、改造して電波出力を上げてもそれを検出されることすらないだろうと佐々木は言う。
「いや、オレらおバカ系だけど違法行為を配信するほどバカじゃないんで」
「違法って言っても、本当に誰にも迷惑掛からないやつだからなあ。地下深くなんて、法律がそもそも想定していないんだよ」
「それでも騒ぐ奴は騒ぐからな。違法と分かってることはやらねえよ」
チャラい奴らだが、ケイとカイトの二人組は違法行為を堂々とやるつもりはないと言う。
「あ、そういえばササキさんって不法侵入してたっすよね」
「警察の人がいいって言ってくれたから良いんだよ!」
そういう問題ではないのだが、今のところ彼は訴えられていない。高校の施設管理責任者である校長がそもそも行方不明の一人ではあるのだが。
そんな雑談をしながら曲がりくねった洞穴を進んでいくと小さな部屋に出た。ぐるりと調べてみると、そこからはさらに三つの穴が伸びている。
「どうする?」
「オレ的にはこういう時は右からなんだけど」
「こういう時は、音を聞いてみるんだよ」
「酸素濃度に違いがあるかも見てみるか」
佐々木と吉澤は手早く機器を出して調査を進める。行方不明者の探索なのだから、人がいる可能性が高そうな道を探すのは当然だ。
「音はどこも聞こえないな」
「酸素濃度は真ん中だけ明らかに低い」
「じゃあ、そこから行くか。ロウソクも点けておくか」
「ああ、頼む」
五分もすれば、調査結果は出る。酸素濃度が低いところから行くのは、探索可能範囲が最も狭い可能性が高いからだ。
今後、探索チームは増えていく予定なので、どこまで探索が終わっているのか説明しやすい方が良い。
実際に若干の下り坂を進んでいくと、何も発見できないまま限界を迎えた。
「あ、ロウソク消えた」
「風か?」
「もう一度、点けてみれば分かる」
ライターで着火してロウソクを下ろしていくと、風に吹かれた様子もなく静かに消えてしまう。そんなことをしている間にも、ケイとカイトは無頓着に進んでいく。
「止まれ! って言うか戻れ、死ぬぞ!」
佐々木の腰より少し低い位置ではロウソクが燃焼できない程度の酸素しかない。吉澤が胸の辺りに付けていた酸素濃度計を下ろしていくとビービーと警報を上げる。
このまま下り坂を進んでいれば、数メートルで危険域に達する。この場ですら、屈んだり転んだりするだけで死亡してしまいかねない危険地帯だ。
「え? 何もないっすよ?」
「そうだよ、酸素も無いんだよ! マジで死ぬから戻れ!」
「えー?」
異臭も何も無いためか二人は暢気にしているが、佐々木も吉澤もそんな二人のために危険を冒すつもりもないらしい。この先は無理だと判断したらさっさと戻っていく。
「酸素ボンベとか必要になったりするのか?」
「いや、重くなりすぎだろ。それに、あの先に生存者がいるとは思えないぞ」
「とりあえず、張り紙しておくか」
『この先、酸素無し』
太いマーカーペンでそう書いた紙を、穴の入り口の右と左に一枚ずつ掲げておく。そうしておけば、佐々木らが右や左の穴を探索している間に別のチームがやってきても無駄足を踏まずに済むはずだ。
「おーい助けてくれ」
右と左はどちらに行くべきかと迷っていると、カイトと思しき声が聞こえてくる。
「何やってんだよ! 危ないって言ってるだろ、早く戻ってこいよ!」
「ケイが倒れたんだ!」
「良いから、お前一人でも戻ってこい! 救助者を増やすな! こっちだって余裕があるわけじゃねえんだぞ!」
叫ぶと吉澤は深呼吸を繰り返す。
「いや、こっちの方が良いだろ」
言いながら佐々木が取り出したのは四十五リットルの透明ゴミ袋だ。大きく広げて頭を入れると首で口を縛る
「これの活動限界ってどれくらいだと思う?」
「五分は余裕で持つだろ。息止めるんじゃ一、二分が限度だよ」
準備を整えると、二人は洞穴を駆け下りていく。途中で戻って登ってくるカイトとすれ違い、少し先へ進むとケイが倒れているのを見つけた。
担ぐために少し屈んだだけで、酸素濃度計が警報を発する。袋を被っているが念のために息を止めて二人はケイをまず仰向けにする。
そして上体を起こすと背中側から脇に腕を差し込んで肩に持ち上げる。
この状態で立ち上がれば、ケイの足は完全に宙に浮く
「急いで戻るぞ。まずは警報が鳴らなくなるまでだ」
一、二、と声を掛け合いながら百メートルも進めば足下に酸素濃度計を下ろしても警報が鳴らなくなる。
「脈はある」
「起きろ!」
呼吸が止まっているのに叫んで頬を叩いて目を覚ますならば苦労はない。
「くっそ、人工呼吸か」
「その前に、これでどうだ?」
吉澤がケイのゴーグルと自分のヘルメットを取っている間に佐々木はケイの腹や胸を押してやる。その刺激で呼吸を取り戻すことは偶にある。
「無理っぽいな」
仕方がない、と吉澤が人工呼吸を始める。互いの口を接触させることに抵抗を持つ者も多いが、目的は酸素を含む空気を送ってやることなので、マスクを着用したままでも構わない。
「おーい、しっかりしろ!」
声を掛けつつ二十回も息を吹き込んでやると、弱くはあれどケイの自発呼吸も戻ってきた。
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