第18話 マグナクロウと三年生
上級生のことは放っておいて、四人はさっさと先に向かって歩きだす。
狭い洞窟に座り込んでいる三年生たちが邪魔だが、「ちょっと通してください」と言って進めばぶつぶつと文句を言いながらもあけてくれる。
座り込みしている場所から進むこと約二十メートル。道幅が広がっていることに気づいて、先頭を歩く
立ち止まれば、自分たちの足音もなくなり、暗闇の奥からドスンドスンという聞こえてくる音も彼らの耳にはっきりと届く。
「なんかいるね」
何の音であるかは分からないが、少なくとも水が流れるような音ではない。
「敵の場所分かる?」
「いや無理でしょ。真っ暗で何も見えないって」
目を凝らしてみるが、阿知良の目には暗闇しか入ってこない。その奥で動いている何かは視認できていない。後ろの二人もまるで見えないようで、静かに首を横に振る。
「
『こっちに来い! って叫べばくるよ』
見えないならばと
「準備はいい?」
「OK」
「こっちに来い! こっちに来い! こっちに来い! こっちに来い!」
四人で調子を合わせて叫んでいると、ズンズンと音が近づいてくる。案内役の言う通り誘き寄せる効果があるようだ。
「
暗闇の中に動く陰を捉えた皇が引き金を引く。オレンジの線が微かな陰の中央に刺さり派手な音を立てる。
それでもマグナクロウの動きは止まらない。足音は少しだけ乱れるも、間違いなく彼らに近づいてきている。
「そこだ!」
ようやく阿知良も敵の姿を見つけると、即座に発砲する。相手のどこに当たっているのかは暗くて分からないが、ボギュンと変な破裂音とともに足音が止まる。そして、一呼吸の間の後にドウンと重く倒れるような音が響いた。
「やったか?」
「バカ! 何てことを言うんだ!」
「いや、だってさ」
思わず阿知良はお約束を口にしてしまい、皇に咎められる。その言葉を口にすると、敵が大したダメージを受けた様子もなく姿を現すものだ。優勢から劣勢へと転じるフラグであるため、厳に慎まなければならない。
「
『致命傷を受けているし放っておけば死ぬけれど、まだ生きているね』
「どれくらい放置したら死ぬの? 一分くらいなら待つけれど」
『一時間くらいかな』
「マグナクロウにとどめを刺さずに、今すぐに横を通り抜けることは可能?」
『上半身に近づかなければ大丈夫だね』
何度か質問を繰り返せば何をすれば良いのかは分かる。背後で三年五組の面々が「何したんだよ?」などとやかましいが、四人は無視して左の壁伝いに進んでいく。何と答えても質問攻めになるのは明らかだ。そんなのを相手していられるほど時間に余裕はないと、四人全員が認識を共通にしているのだ。
「うおあ!」
「まだ生きてるぞ!」
軽率な者はどこにでもいる。二年生四人組が先へ行ったのを見て安全だと勘違いでもしたのだろう。確認もせずにマグナクロウに近づきすぎて襲われていた。
「何やってんだか。動けないやつにわざわざ近づくなよ……」
「黙って余の後ろをついてこれば良いものを、何故わざわざハズレルートを行こうとするんだ?」
呆れたように言うが、誰も助けに戻るようなことはしない。マグナクロウは既に瀕死のはずだし、怪我をしたくなければ近づかなければ良いだけだ。
そんなことよりも、道の先を急ぐ方が優先だ。既に時刻は十三時。既に空腹でお腹が鳴っているのに、まだ一階層も進めていない。
少し足を速めて暗い道を進み、十五時半に九十九階層行きの階段に到着してやっと昼食の弁当を食べる。
「
『もちろんだとも!』
意を決しての質問に何故かやたらと元気のいい答えが返ってきて、神玲は短く嘆息する。
「どこで食糧を手に入れられる? 一番近いところを教えてくれ」
『九十八階層だね。森の木には栄養満点の梨が生っているんだ! アウストラロピテクス・ゴブリニスの好物だよ!』
「梨か。あまり好きじゃないんだけど、そんなことも言ってられないね」
軽く言って笑うが、九十九階層を抜けないとその梨にもありつけない。案内役に聞いてみると、最短ルートを通れば四時間程度で着くはずと言うが、途中にどんなトラブルが発生するかも分からない。
その次に食料を得られるのは九十五階層。基本的に三階層ごとに、生で食べられる植物を見つけられるようになっているとのことだ。
それ以外の階層でも、襲ってくる敵の中にも食べられるものはあると言うが、それはいずれも調理が必要であり彼らの食事にはなりそうにもない。
「食料を入手できるのは分かったけど、モタモタはしていられないね。食べたら行くよ」
「ねえ、トイレはどうする? ちょっとそろそろ行きたいんだけど」
「それはボクも思ってた」
お腹が空けば、用も足したくなる。生きていれば自然の摂理だが、案内役に聞いてみても
かと言って、一本道に糞尿を撒き散らして行く気にもならない。すぐ後ろから三年生もやってくるだろうことを考えると尚更だ。
「
『九十九階層に上がってすぐに分岐があるよ』
「じゃあ、そこまで我慢して」
言われずとも、トイレどころか隠れる場所すらないのだから我慢するしかない。
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