第17話 撃破

 人ならば吹き飛ぶといっていた案内役の言葉を目で見て理解して、四人とも口をぽかんと開けたままにしてしばし固まる。


「おいおいマジかよ……」

「どんな破壊力してんだよ。反動もなしに戦車砲みたいな威力してんじゃねえよ」

「あんまし触りたくないんですけど……」


 威力の高すぎる武器というのは扱いが難しい。誤射や暴発が大惨事を招く結果にもなりかねない。慣れない種類のものであれば尚更だ。


 安全装置の操作や、持ち方、構え方。取り扱い方について何度も繰り返し、二丁を持ち出すことに決めた。荷電粒子機関銃を持つのは阿知良と皇の男子二人で、神玲と余真紘の二人は実弾銃を持つ。


 ただし、いくつかの種類を試射してみて選んだ拳銃はベレッタM9だ。9mm弾は.357マグナムに威力で劣るとされているが、使いこなせない銃を選んでも意味はない。射撃姿勢すら知らない素人では、確実に狙った方向に撃てることが最大優先事項だ。


「んじゃあ、行くか」

案内役あお、この道をさらに行くと何階層まで行ける?」

『九十七階層で行き止まりさ』

「行き止まりまでに迷宮を出るのに有益なアイテムはあるか?」

白金プラチナ鉱床はあるけれど、迷宮を出るのに役立ちはしないと思うよ!』

「じゃあさっきの分岐まで引き返そうか」


 言いながらかみあきらは歩きだしている。その後ろに続くのは阿知良あちら。そして真紘まひろすめらぎと続く。


「まて、いるな」

「え? どこ?」

「まず構えて。右側の薮、不自然に揺れてると思わない?」

「左にもいるから注意ね。まず、一発撃ってみようか?」

「睨み合っていても仕方ないし、やってくれ」


 セーフティ安全装置を解除して神玲は藪に銃口を向ける。そして、カウントダウンの後に発砲した。


 銃声を合図にしたように、アウストラロピテクス・ゴブリニスが三匹、叫びながら飛び出してくる。そのうちの二匹は落ち着いてあたれば問題なく処理できる。


 一匹だけ飛び出してきた正面は迷う必要はない。阿知良が引き金を引くと、ゴブリニスの上半身は消し飛んだ。


 問題は、左から飛び出してきた二匹だ。どちらを狙うべきか、皇は一瞬だけ迷う。


「右から!」


 余真紘の言葉に、慌てて皇は引き金を引く。狙いは下に少しずれてしまっていたが、荷電粒子機関銃の圧倒的威力は地面と一緒に両足を吹き飛ばす。


 残りの一匹には余真紘の弾丸が襲う。パンパンパンと三発、人間ならば間違いなく致命傷となる至近距離からの銃撃だが、まるで意に介さないかのようにゴブリニスは突っ込んでくる。


『ゲッぱらァ!』


 何やら叫んで余真紘へと爪を伸ばすが、振り向いた阿知良の二発目の方が早かった。ゴブリニスは腰を吹き飛ばされて地面にに転がる。


「あっぶね」

「安心すんな、バカ!」


 大きく息を吐く阿知良に神玲が叱咤する。足を吹き飛ばされたゴブリニスはまだ息があり、恐ろしい形相で彼らを睨み必死にもがいている。


「これで死んでくれるかな?」


 神玲がゴブリニスの頭部めがけて発砲する。両手でしっかり構えて狙えば、二メートル程度の距離で外すこともない。


「えー、全然効いてなくない?」

「頑丈な奴だな。マジ化け物じゃん」


 二発撃って二つとも命中しているがゴブリニスは生きている。頭から血を流しているし無傷というわけではないが、やはり案内役の言うように9mm弾程度で殺すのは難しいようだ。


「少し離れてくれ」


 拳銃では気を引く程度の効果しかないことがわかった以上、無駄なことはしない。皇が荷電粒子機関銃を一射してゴブリニスの頭部を吹き飛ばす。


「グロすぎだわ」

「そんなキモいの一々見なくていい。さっさと行こう」


 もたもたしている時間はないと、神玲は歩きだす。実質的に、まだ一階層も進んでいない。これから百階層に戻り、改めて地上まで登っていかなければならないのだ。


 崖上の道を戻り、長い階段を延々と降りると九十九階層への道を進む。真っ暗なトンネルは右に左に曲がり、ときには折れながら続く。分岐がほとんどないが、傾斜もあり楽な道とは言い難い。


「止まれ! 誰だ⁉」

「そっちこそ誰だ⁉ どこに隠れてる?」


 突然、声がトンネルに響く。いきなりな誰何すいかに、阿知良は答える前に問い返す。


「オレはおう公博きみひろ。三年五組だ」

「二年二組の阿知良あちらかおる、ほか三人だ」

「良かった、敵じゃないんだね」


 神玲はそう言うが、全く安心したという表情はしていない。むしろ、いっそう険しく眉間に皺を寄せる。


「一応、気をつけて。敵の可能性もある」


 記憶を読み取るような怪物の可能性もあるとして、最大限に警戒しながら折れ曲がるトンネルを進む。

 それでも、曲がり角まで来たら向こう側から案内役の青い光が漏れてきて微かに安堵の息を漏らす。


「ここで何をしているんですか?」


 そんな疑問が出てくるのは当然だ。一クラス全員、四十人が洞窟の中で座り込んでいるのが自然なことと思う者はないだろう。


「この先に化け物がいやがって、通れねえんだよ」

「化け物? こんなところで、のんびりしていて大丈夫なんですか?」

「大丈夫だ。アレの図体がでかくて助かったよ」

「あー、なるほど」


 状況を理解し、阿知良は面倒臭そうに返事をする。


 実際面倒臭い事態だ。神玲や皇も互いに目配せをして軽く肩を竦めるくらいだ。


案内役アン、ここから数十メートル先に動くものがあるが敵か? その名を教えよ」

『五十メートルくらい先にいるのはマグナクロウだね。その名の通り、巨大な爪が自慢の敵だよ』

「マグナクロウの手前、もしくは奥百メートル内に他の敵はいるか?」

『いないよ』

「マグナクロウに気付かれずに通り抜けることは可能か?」

『まず無理だね。マグナクロウは眠ることがないし、耳も良いからね』


 分からないことは全て案内役に聞けば良い。神玲が質問を繰り返していると、王公博は唖然とした表情でそれを見ている。


「なんでお前のそれは答えてくれるんだよ⁉」

「誰のでも答えてくれるでしょ。質問の仕方が悪いだけっすね」


 ズルイぞと言わんばかりの上級生だが、阿知良はばっさりと切り捨てた。

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