第16話 武器を求めて

 機関銃までの道は、案内役に詳細な説明を求める。言葉を選んで質問してやれば、罠や敵が潜む位置まで教えてくれるのだから便利なものだ。


 このまま地上に出てしまうのではないかと思えるほどにやたらと長い階段を登り九十八階層に着くと、そこは鬱蒼と茂る森だった。ピーピーチチチと何かが鳴く声も聞こえてくる。


案内役アンよ、荷電粒子機関銃を取りに行くには、どう進むのが最適なのだ?」

「このまま、真っ正面に進めば良いよ! こっちは狭いからね、横に行こうとすると落ちちゃうよ!」


 九十八階層の中で、この道は崖の上に位置しているらしい。踏み外すと三十メートル下に転落すると言われて神玲は口元を歪めるが、道幅は十メートルはあるようで綱渡りほどの危険があるようにも見えない。


 必要以上にビビる必要はない、と自分に言い聞かせるように胸を張ると森の奥へと足を踏み出していった。



 彼らの足が止まるまでに、そう長い時間は掛からなかった。正面方向から飛んできたつぶてが皇の顔を掠める。


「な、何だ? 敵か?」

「前だ皇ッ!」


 皇は思わず礫の飛び込んで音を立てるやぶへと視線を向けるが、それは悪手だ。両手に石を持った二体の毛むくじゃらが飛び出してくるのを見て、阿知良は慌てて前に出る。


 ガッ! 

 ゴッ! 


 毛むくじゃらが投げた石は、阿知良の持つステータスプレートで弾かれる。案内役が絶対に壊れないと言っていたのだ、こんな投石を防ぐのに使った程度では傷すらつかない。


「うらぁ!」


 投石後直後の動きが鈍ったところに皇の回し蹴りが炸裂する。毛むくじゃらは素早く転がってその威力を殺すが、その動きがもう一匹の邪魔をする。


 押しのけるように跳躍し、もう一匹の方は後ろの女子二人に狙いを定めるが、その顔面に余真紘のステータスプレートが直撃した。円盤投げの要領で一回転しての投擲は、女子高生にできる最大威力の攻撃の一つだ。


 毛むくじゃらは体勢を崩し、そこにダッシュからリュックを振り回す神玲の一撃が横から決まる。


「ぎぇにぃぃあ!」


 着地して吠え声とともに顔を上げるが、そこにもう一匹の毛むくじゃらの足を掴んで振り回す阿知良が襲いかかる。


 激しく叩きつけられた二匹は体勢を立て直すべく飛び退り、崖の下に消えていった。


「助かった……のか?」

「おい案内役ナビ、今のサルはここに登ってくるのにどのくらい時間がかかる」

『サルじゃないよ。アウストラロピテクス・ゴブリニスだよ! 一度落ちたら、登ってくるまでに十分は掛かるよ!』

「よし、さっさと進もう」


 神玲の言葉に、一同は足を早めて森を進む。道は曲がりながらも分岐はなく、虫や蛇から逃げながら一時間も進んでいれば岩山に辿り着いた。


「ここに荷電粒子機関銃とやらがあるのか? 入り口はどこだ?」

『右側に回って合言葉を言うんだ』

「合言葉は何だ?」

『ホーッホッホ。教えてもらえると思っているのですか?』

「何だと⁉」

「分かった」


 案内役の言葉に阿知良は怒りの言葉を上げるが、神玲は冷静だ。「ホーッホッホ。教えてもらえると思っているのですか」と何度も繰り返しながら岩山を右へと回り込んでいく。


「おい、なんか開いたぞ」

「入り口みたいだね」

「本当にそれが合言葉なのかよ……」


 岩山に開いた穴は、縦二・五メートル、横一・五メートルほどのまっすぐな長方形だ。壁は岩ではあるものの百階層や階段のトンネルのようなゴツゴツしたものではなく、磨かれた墓石のようにツルツルとしている。


 数メートル進むと、入り口が音もなく閉まり天井に明かりが灯る。


「何これ?」

「武器庫かよ⁉」

「なんか色々あるね。この銃とか撃てるのかな?」

「人に向けるな。っていうか、持つときは銃口は常に下に向けて。危ないから」


 余真紘が無造作に持ったのは、棚に飾るように置かれていたコルトパイソンだ。弾丸が入っているかも分からないものを安易に振り回すなど皇が注意すると素直に棚に戻す。


「それ有名な銃だよね44フォーティフォーマグナムってやつだっけ?」

「いや、コルトパイソンは357マグナムな。防具着けてない人間なら殺せるけれど、クマの射殺とかは無理らしいぞ」


 先ほどの毛むくじゃらに有効であるかと案内役に聞けば、ダメージは与えられるという回答しかなかった。殺せるかと質問を改めてみても、急所に命中させれば可能性があるという程度だ。


「せいぜい牽制にしか使えないってことだね」

「本命の荷電粒子機関銃とやらはどこだ?」

『それは奥の部屋さ』


 案内役の言葉に従って壁の一部を押すと、シュインシュインと音を立てて隠し扉が開く。潜ってみると、壁はタイル張りになり、床には毛足の短いカーペットが敷かれている。


 向かって右手の壁には機関銃と思しきものがずらりと並んでいる。全て同型のようで、皇がそのうちの一つを手に取る。


「どうやって使うんだろう? 安全装置はどこだ? マニュアルとか無いのかな」

「あ、これそうじゃない?」


 余真紘が見つけたのは小さな棚にある冊子だ。開いてみると持ち運び方や構え方まで図示されている。


「弾数は四十だって」

「無駄撃ちはできないな。でも、試し撃ちは必要だろ」


 威力が分かっていないと使えないとして、皇は部屋を出て森に向けて銃を構える。引き金を引くとオレンジに光る線が走り、当たった木の幹が弾けるように消し飛んだ。

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