第12話 『二条高校沈没!? 行方不明者を探しに行きます』(2)

 薄暮のなか多くの人が声を掛け合いながら行方不明者の痕跡を探しているところを、佐々木貴史は迷わずに進んでいく。


「校舎があったのはこの辺のはずです。まずはこのあたりで音を探してみます」


 ミニスコップで深さ三十センチほどの穴を掘り、軽くマイクを埋める。そしてスイッチを入れてボリュームを上げていくと、バンバンと何か叩いているようなと音が聞こえてきた。音のリズムは一定ではなく、探索に歩き回っている人たちの足音であるようには思えない。


「何の音だこれ?」


 もしかしたら土が崩れている音を拾っているのかとでも思ったのだろう。土を手で押し固める。圧をかけるとガザガザゴリゴリと砂利が擦れる音が入るが、バンバンという音は変わらずなり続けている。


「何か聞こえた?」


 そんな様子をみつけて、先ほどの作業服の警察官がやってくる。


「何か叩いているようにも聞こえるんですけどね。足音、じゃあなさそうなんですけど」


 言いながらヘッドフォンを渡してやると、警察官もしゃがみ込んで音に集中する。


「ちょっと皆さん歩くのストップしてもらって良いですか? 音がわからないんで」


 大声を上げると、ライトで照らしながら歩き回っていた者たちは足を止める。


 しかし、聞こえてくるバンバンドカドカという音は変わらない。


「ちょっと場所を変えてみましょうか」

「いや、その前にもうちょっとだけ深くしてみよう」


 警察官が立ち上がって「おーい」と手を振ると、警察官と思しき数人がやってくる。ついでに先ほどまで重機を操っていた土木も近づいてくる。


「何かありましたか?」

「いや、ぼくは詳しくないんだけど、地面の下ってこんな音が聞こえてくるものなのかな?」

「ちょっといいですか?」


 地面の下についてはプロフェッショナルであるという自負もあるのだろう、ヘッドフォンを受け取るのは土木作業員だ。警察官がそれに異を唱えないのは、聞いてみても判断できる自信がないためだろうか。


 だが、その男もヘッドフォンを受け取ってみると眉間が寄ってくる。


「なんだこれ? 足音……、じゃないか。うわっ!」


 聞こえてくる音にガリガリゴリゴリと別の音が突然混じり、土木作業員は声を上げてのけぞる。


「何の音だ?」

「大当たりだよ! ここ掘ろう!」

「待って待って。まずマイクの故障の確認。それと別の所でも音聞いてみる。最低三か所で調べないと、位置がわからないです」


 音の原因がマイクの故障であるならば、慌てて掘る意味はない。


 掘り出してみたマイクがガリガリとノイズを拾わないことを確認すると、十メートルほど離れた場所で音を聞く。

 なお、マイクを埋める穴を掘るのは、大きなスコップを持った土方の男たちだ。プロの手にかかれば五十センチほどの穴はあっという間にできあがる。


 さらに、正三角形の頂点を取るようにもう一か所。一か所だけでの観測では音の発生源の位置も方角もも分からない。三か所で観測してはじめてアタリをつけることができるためだ。


「ここが一番大きい。次があっち!」

「じゃあだいたいこの線で、ここから向こうを掘ればいいのかな」

「そうですね」


 警察官と掘る位置を確認して、指をさし他場所をショベルで軽く掘って溝をつける。その後の作業はショベルカーだ。号令が飛び、作業員たちはすぐに動き出し反射材付きカラーコーンやポールが並べられていく。


 生徒および教職員、あわせて千人ほどが行方不明となっているのだ。当然のごとく、その捜索は急がれるべきである。警察も消防もその作業の邪魔にならないように少し離れた場所に引き下がる。


 みるみるうちに通路や作業場所が明示されて、ショベルカーがやってくる。いくつもの投光器で煌々こうこうと照らされた地面にショベルが入っていくと、佐々木貴史も動き出す。


「近づきすぎるな、危ないぞ」


 掘っているところを撮影しようとしていると、案の定というべきか注意される。


「すんませんっす」

「ここからこっちは入らないでください。事故起きますんで」


 その指示に従わねばならないのも警察官も同じだ。工事現場では彼らは素人であり邪魔者だ。ガッコンガゴンと作業が行われている間は、他に何らかの痕跡がないかを探しまわる。


 そして三十分後


 大きく表示されて画面が切り替わる。ショベルカーが空洞を掘り当てたらしく、作業を一旦中断して大声で中に呼びかけている。


「いるぞ! 人の声だ!」

「今通れるように掘るから、できるだけ離れてて!」


 穴の奥に注意を呼びかけてからショベルカーでの作業を再開する。深く掘り下げるとともに、穴から人が出てこられるように大きく口を広げる。


 早送りで見守っていると、五分ほどでショベルカーが離れていく。


「おーい、出てこれるか?」


 呼びかけてみると、何か人の声と思しき音が返ってくる。穴の中で反響しているのか、何を言っているのかは聞き取れない。


「光を向けてやった方が良いんじゃないですかね」


 佐々木貴史はスマホの光を向けてみるがそれでは弱すぎる。投光器を一つ穴に向けてやると、中から聞こえる声が大きくなったようだ


「こっちだ! 出口だ!」


 今度ははっきりと言葉が聞こえてきた。


「おーい、聞こえますか? 焦らなくて良いですので。ゆっくり出てきてください」


 出口に人が殺到して転倒事後が起きたり、最悪の場合は穴が崩れて埋まってしまうことも考えられる。同じ言葉を何度か呼びかけていると、男子生徒が一人、穴からい出てきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る