第11話 『二条高校沈没!? 行方不明者を探しに行きます』(1)

 翌朝、朝六時にYouTubeにひとつの動画が投稿された。

 チャンネルは〝ささきたか4〟つまり配信者は佐々木貴史だ。


「えー、平岸市に空いた大穴。ニュースで見た方も多いと思いますが、消えた二条高校はワタクシの母校なんですよね。教師や生徒はどうなってしまったのでしょうね、本当に心配です」


 空の明るさを見るに、撮影されたのは夕方。影のつき方を見れば南を向いていることが分かる。フェンスの向こうにはグラウンド、大きすぎて分かりづらいがそこに巨大な穴が空いていることが分かる。


 穴の向こう側では重機がいくつか動いており、穴の底へ降りる道を作っているようである。


「ワタクシは今二条高校に隣接するお宅、こちらワタクシの小中学高校の同級生なんですけどね、そちらにお邪魔しています。あ、おばさんお久しぶりです」


 ぴーーーーー


 佐々木貴史が本名で挨拶したためだろうか、電子音が入る。出てきた奥様の顔にはボカシ処理がされている。


「事故の様子はご覧になりましたか?」

「いやね、見ちゃいないのよ。だって、すごい揺れたじゃない? テレビの取材でも聞かれたんだけどさ、ご近所さんたちとも話をしたんだけど、地震来て外を見るってしないでしょ。食器棚とか焜炉こんろとか、だいたい主婦だったら台所の方が気になるじゃない」


 まあ、そんなものだろう。今にも倒壊しそうな廃墟が隣接しているとかでもない限り、ぐらりと揺れて心配するのは家の中だ。テーブルの上の物が落ちたりして、ふと違和感に窓の外に目を向けたら高校がなくなっていたという。


 動画で配信するべきことが少ないためだろう、主婦の話は短く終わり道路からの映像に切り替わった。時間は少し飛んでいるようで、影が長く伸びている。


「いや、マジやべえなこれ。何をどうしたらこんなんなるんだよ……。とまあ、それはさておき、ここに残っているのは体育館の残骸です。ステージ側の端が少しだけ残ったようです」


 周囲を確認するようにカメラが動き、歩きながらの動画が続く。そしてフェンスが切れて低い柵となったところから侵入した。


「これ、違法です。不法侵入なので真似しないでください」


 分かってるならやるなとコメントが付くのは必至だろう。言い訳としてはお隣の幼馴染が二条高校の生徒でありとても心配であること、そしてただの野次馬ではないことを挙げる。


「さて、主目的の一つ。ちょっとまだ工事の音がうるさいんですが、やってみましょう。何をするかというと、地中の音を聞いてみる感じですね。使うのはこのマイク。いつも配信のときに使っているUSBマイクです。これを地面に埋めます。そのままだと壊れちゃうので、防護用にコンドームを被せてあります」


 言いながらリュックの中から取り出したマイクには既に薄いゴムが被せられている。園芸用ミニスコップでザクザクと穴を掘ると、静かにマイクを埋める。


「はい、埋めました。音を聞いてみましょう」


 マイクのスイッチを入れてボリュームをいじるとドンドンガンガンと聞こえるが、これは明らかに工事音だ。穴の向こうではまだ重機が一生懸命に穴の底へと降りる道を作っている。


 転落したクルマに関しては救助済みだが、高校生たちは依然として行方不明のままだ。これから穴の底の地面を掘り返して捜索救助に当たる予定となっている。


「人の声や、助けを求めるような合図は聞こえないですね。うーん、工事と音の確認とどっちが優先かって言ったら、工事だよね。救助を求めている人がいることが分かったのなら、頑張って掘らなきゃいけないし」


 いくら救助や捜索目的と言ったって、優先順位的にも聞き入れられることはないだろうと佐々木貴史は溜息をつく。


 そこから動画は加速し、一六倍速できゅるきゅると進んでいく。穴を深く掘ってみたりもう別のマイクを埋めてみても聞こえる音に特に変化はないことがテロップで表示されているうちに、工事の人だろうか、作業服を着た者がやってきて速度が元に戻る。


 それとともに「警察が来た」とテロップが表示される。


「ちょっと君、何してるの?」

「あー、済みません。生徒の声や何か合図でも聞こえればと思ったんですけれど」


 作業服の警察官はしかめ面に非難めいた口調であったが、佐々木貴史が地中からマイクを掘り出すと表情も口調も変わる。


「何か聞こえた?」

「いやあ、工事の音しか聞こえませんね」

「もう少しで工事終わるから、下降りてやってみる?」

「え、良いんですか?」

「騒ぐだけのマスコミとか野次馬は本当に大迷惑なんだけどね、真面目に捜索する方法を考えてくれてる人なら協力してもらいたい。現状、何がどうなってるのか何の手がかりもない状態だからね。まあ、ボランティアでということでね、君の名前聞いて良い?」


 なんか知らんけど許可が出た


 画面にそう大きく表示され、シーンが切り替わる。周囲の様子から察するに、穴の下に降りたのだろう。カメラが動くと、ライトに照らされた土壁が見える。


 作られた坂道から重機も降りてきているが、現在は動いていない。何かの痕跡がないかと端から順にライトで照らしながら探している最中のようだ。

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