第10話 闇の中で

 死の苦しみの後、真っ暗な空間で阿知良は目を覚ました。胸部を突き破ってステータスプレートが飛び出てくるといっても、即死するわけではない。「ステータスオープン」と唱えてから意識を失うまででも十秒ほどかかるのだ。その間の苦しみたるや、ただ事ではない。


「どこだよここは? あの世ってことはないんだろ?」


 暗闇の中で阿知良は不安そうな声を上げてみるが、返事はない。代わりに、青白い火が右に左に灯り、まっすぐ列をなして炎はいくつも増えていく。その先にはいくつもの巨大な像が並んでいる。


阿知良あちらかおるよ、死んでしまうとは情けない」


 闇の奥から大塚明夫を思わせる低い声が聞こえてくる。そのセリフはまるで有名なコンピューターRPGを思わせるが、阿知良はまだ生き返っていない。


「そなたには選択肢がある。冒険をやり直す、もしくは止める。この二つから十秒以内に選べ」

「は? やり直すか止める? 止めるとどうなるんだ?」

「残り、五秒」


 謎の声は阿知良の疑問など意に介さずに残り時間を告げる。時間切れとなった場合にどうなるのかも定かではないため、阿知良は慌てて叫ぶ。


「や、やり直す。やり直すので頼む。生き返れるんだろう?」

「人が生き返るなど、あるはずがなかろう。迷宮ラビリンスに入った時点のそなたが複製されるだけだ。そなた自身の死は覆らぬ」


 その言葉とともに、阿知良の前に映像が現れる。そこには、五分ほど前の教室を出て行こうとする彼の姿があった。


 映像の中の阿知良は、廊下を駆けていき先行していた仲間に追いつくと驚きながらも説明を聞いている。


「ほれ、すでに五分前のおまえが動きだしている。現世に行くのはあちらだ」

「あ、阿知良あちらは俺だ!」


 強がって大声を上げてみるが、謎の声は取り合わないし映像の向こうに届きもしない。「ステータスオープン」して絶命したと説明された阿知良が顔を引き攣らせながら自分の死体を突いている。


「くっそ……、マジかよ。ぬおあああああああ!!」


 絶叫を上げながら阿知良は闇に消えていった。

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