第4話 再生

「痛った……、何、これ?」


何かに躓いたのかと余真紘が足下を見ると、その足首には死んだはずの余真紘の指が食い込んでいた。


「は? なんで⁉ なんなのこれ⁉  なんで余が?」


死んだ自分自身が転がっていれば驚き慌てるのも無理はない。その手が自分の足を使っていれば猶更だ。


「どういうことだ、案内役アン? は死んだんじゃないのか?」


常識から逸脱しているにもほどがある。ホラー映画でもそうそう見ない光景にかみあきらがヒステリックに問いかける。


『死んだらリスタートかゲームオーバーのどちらかを選べるよ! コンティニューは無いからね、リセットして最初からやり直しさ!』


「さっきから何なんだよ! 余は死んでなどいない。ここにいるだろ!」


甲高い声を上げて否定するが、彼女の足下に転がっている死体は間違いなく彼女自身のものだ。本人がどんなに否定しようともそれは覆らない。たとえ死体の方がニセモノであると主張しても、そんな証拠を示すことはできない。


「ええとだよ。つまり死んだら、記憶もリセットされるってことか?」

『そのとおりさ!』

「どの時点になる?」

『君たちの場合だと、案内役が与えられたところさ』

「セーブポイントみたいなのはないのか?」

『そんなのありませ〜ん!』


案内役の回答はふざけているとしか思えない。怒りに任せて思い切りひっ叩いてみても、ふよふよと戻ってくるだけだった。


「くそ、マジなんなんだよこれ」

「死んでもやり直せるなら、まだ良くねえか?」

「地獄が終わらないんだとしたら、どうするよ?」


すめらぎの楽観論はあっさりと否定される。無事に地上に帰ることができなければ、暗闇の中をさまよい続けることになってしまう。


「とにかく、ここで話をしていても埒が明かねえ。調べられるだけ調べてみようや」

「そうだね。まずはこっちのからかな」

「余になにするつもりだよ。」

「持ち物検査。少なくとも服は複製されてるだろ? 他は?」

「まて、余の身体に触るなヘンタイ!」

「この状況で欲情しねえよ……」


苦笑いをする阿知良あちらすめらぎを押しのけて余は死体のポケットをあさる。女子としては男子に自分の服がはぎ取られる様子を見せられるのは我慢ならないようだ。


「ぜんぶあるね。ポケティに、スマホ、髪留めの予備もある。」

「スマホ増殖可能なのか!」

「じゃあ、うぬ、死んでみる?」


思いがけない結果に阿知良は声を上げるが、余はいたって冷静だ。リセットしてやり直せるとはいっても、別の自分が復活するだけだ。今の自分は苦しんだ上で死亡するのは、未だに余真紘の死体が転がっていることから明らかだ。


「ああ良いよ。やってやる」


覚悟を決めて阿知良は服を脱ぎだす。


「なんで脱ぐんだよ⁉」

「破れたり、血で汚れたりするじゃん? 次の俺に説明頼むな。じゃあ、いくぜ。ステータスオープン!」


女子陣は目を背けて文句を言うが、阿知良はお構いなしだ。パンツ一丁になって死の呪文を唱えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る