第6話 協力ですわ
落ち着いた私たちを見てアロンとロイはゆっくりと話し始めた。
「お嬢さま、ご無事ですか?」
「お嬢、もう大丈夫だ」
「ああ、ありがとう二人とも。でもどうして?」
「悪りいな、お嬢、遅くなっちまった。まあお嬢の完璧な町娘風な恰好が原因だな」
「え? あの完璧な変装が?」
「マジで言ってんのか? おい、ミレナ、お前ちゃんとお嬢に伝えとけよ」
「は、はい、もうしわけありません」
「まあそう言うな。ご無事で何よりでした。あ、馬と御者も無事ですのでご安心下さい」
改めて感謝を伝えると二人は照れくさそうに笑う。
そこでロイが私に尋ねてきた。
「なあお嬢、お嬢はこの国をどう思う?」
「どう? とは?」
「おいロイ、今はまだ」
「だけどよ、どうせ聞くことになるぜ。なら早い方がいいだろうが。お嬢、すまねえ、俺たち二人はミレナにある程度の事情は聴いているんだ。その上で聞いている。お嬢はこの国についてどう思う?」
アロンもロイも真剣だった。
私が感じたことを素直に伝えることにする。
「私は、何も知らないのです。屋敷にある歴史書は読みました。それなりに勉強はしています。でも、今日、町に出て初めて民の暮らしを目の当たりにしました。私は、私は自分の領地の事さえ知らなさすぎます。だから知りたいのです。この国をもっとよく知って、それから、これから何をするべきか考えようと思うの」
「お嬢様」
「なるほどなあ。やっぱりお嬢はすげえなあ。普通の貴族の娘だったら絶対に言わないセリフだぞ」
「ロイさん! 失礼ですよ!」
「ああ、わりいわりい」
「いえ、本当のことです。それに、あなたたちがいなかったら、私は何もできなかったでしょう。本当にありがとう」
「お嬢様、これから話すことはお嬢様の夢に関係することかもしれません。心してお聞きください」
アロンがそう前置きをして話してくれたのは、この国の現状についてだった。
聖王国は建国から七百五十年を過ぎ、各領地では領主が好き勝手に振舞い重税を課す領地、民を奴隷のように扱う領地、建国当時の聖王国法は各領地で守られずに形骸化しているところもあるらしい。そのせいか年々民の不満は高まっていて、さらに悪いことに国王が病に臥せっていることも拍車を掛けているという。
これまでの聖王国の歴史の中にも反乱は何度か起こっている。しかしそれはどれも小規模ですぐに鎮圧されてきたし、今回もそうだろうと誰もが思っている。
しかし、今聖王国で起こっている不満の渦はこれまでとは違い、長年降り積もった塵に一気に火がつく、そういった空気があるのだそうだ。
「では反乱はやはり止められないのでしょうか?」
「起こっていない反乱を止めるのは至難の業かと」
「お嬢、どこから火が起こるのかわからないんじゃ止めようがねえ」
「そうですわね。今日の町の様子をみて、ロイさんに止められて、私は思い知らされましたわ。自分がいかに無力なのかということを」
「お嬢様……」
「ミレナ、心配しないで。アロンさん、ロイさん。私に協力していただけます?」
「もちろんでございます」
「ああ、もちろんだ」
「ありがとうございます。この領にもまだあなた方と同じように反乱を防ごうとしている人がいるはずです。その人たちと協力していきましょう」
「お嬢様、もしよろしければ、お嬢様のお名前を使わせて頂いても宜しいですか?」
「ええ、構いませんわ。私の名などいくらでも使ってください」
「ありがとうございます。それと、お嬢様にお願いがあるのですが」
「なんですか? 遠慮なく仰ってください」
「お嬢様には嫁入りまでにこの領を立て直していただきたいのです」
確かに、確かにそうだ。
今この領は荒れている。
ならば私のやるべきことは一つだ。
民のために尽くす、ただそれだけなのだ。
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