第5話 知らなかったですわ

 仕方なく引き返すことにしてなんとなく気まずく二人と別れることになった。

 そして迎えの馬車に乗り帰路に就く。


 道すがらミレナにどうしてロイはああも私を止めようとしたのか、と聞いてみた。

 

 するとミレナは苦笑いしながら答えてくれた。


 この国には身分制度があり、平民と貴族に分かれている。

 そして平民の中でも格差がある。まず最下層にいるのは孤児たちだ。彼らは生きるために盗みもするし人を殺すこともある。だから私たちも彼らとは関わらないようにしている。


 次に犯罪を犯した者たちがいる。これは奴隷として売買されるか、鉱山などで働かされているらしい。これもあまり関わりたくない。


 最後に犯罪者予備軍となる。これは所謂ならず者と呼ばれる人たちのこと。彼らは窃盗や強盗などを繰り返していて、いずれは捕まって殺されるだろう。


 そういった人が集まってできたのが裏社会だ。そこでは暗殺や密輸、人身販売まで行われているという。

 つまりは表では生きていけなくなった人が集まる場所なのだそうだ。


 まったく知らなかった。


「ではロイはそこから傭兵になって今があるということなの?」

「そうですね、お嬢様にはもしかすると一生分からないことかもしれませんが、ロイはロイでものすごく大変な思いをしてきたんだと思いますよ」

「ミレナ、あなたは? あなたはどんな生き方をしてきたの?」

「私はただのメイドですよ」

「ミレナ」

「ほーら、お嬢様! そんな顔しない! 大丈夫ですよ、私はちゃんと幸せですから」

「そう? ならいいんだけど」

「さあさあ! お屋敷に帰ってお茶にし、うおおわああああ!」

 突然馬車が揺れ動きが止まる。

 ミレナは私に覆い被さりながら外の様子を伺い、御者に話しかけるが返事はない。

 どうやら馬がいないみたいですとミレナが小声で囁く。


 しばらくすると扉が開き男が入ってくる。


「よお、お嬢さん達。ちょっとお話ししようぜ」

「おいおい兄貴ぃ、俺にもやらせてくんねえかなぁ? こんな上玉なかなかお目にかかれないぜぇ」

「へえ、確かに美人だな。いいだろう、俺はこっちの女を抱く。お前はそっちだ」

 男たちはそれだけ言うとこちらに手を伸ばしてきた。


 ああ、あの時のようだ。あの処刑された時の民が私を見る目だ。


 するとそこに大きな影が降り立った。

 アロンとロイだ。


 ロイは男の一人を殴り飛ばすともう一人の男はアロンが取り押さえる。


 ロイは細身なのにものすごい力だ。

 アロンはそのまま男の首を片手で締め上げている。

 あっという間の出来事だった。


「お嬢、無事か?」

「お嬢様、ご無事ですか?」

 二人が同時に尋ねてくれたが、私は二人の顔を見た瞬間、涙を流していた。

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