第4話 進めないのだわ
「ミレナ、すごい人ね! 人がたくさんいるわ!」
「そうですねえ。あまり興奮すると迷子になりますから気をつけて下さいね」
「ミレナ、あの人たちは何をしているの?」
「ああ、屋台ですよ。食べ物を売ってるんです」
「へえ〜、美味しそうな匂いがするわね」
今日はお父さまにお許しを得て、ミレナと二人でお出かけをしている。
「あ、ロイさーん、アロンさーん!」
「よおミレナ、どうしたんだ今日は、えらいまたきれいなお嬢さんをっておい!」
「ロイ! あ、失礼しました。私はアロン。騎士団に配属されております。こちらはロイ、傭兵団の一員です」
「あら? 騎士様と傭兵団のかたがご一緒に?」
「はい、なんだかこいつとは気が合いましてね、たまにこうして町で飲んだりしております」
ミレナが二人を紹介した後、私も挨拶をした。
ちなみに今日の私は町娘の服装だ。髪も後ろで一つにまとめている。
ミレナに用意してもらって、化粧も薄く施した。
完璧な町娘、どこからどう見ても完璧な町娘だ。
「なあお嬢」
「おいロイ! なんて言い方だ、気をつけろ!」
「いや、だってよ、これあれだろ? 町娘風に変装してお嬢様が町を見て回るってやつだろ? ミレナも念押ししたろ? お嬢様本人は完璧な町娘だって思ってるはずだから言葉使いとか気にするなって」
「いや、しかしだな」
アロンは大柄で筋骨隆々、短く切りそろえられた黒髪はとても清潔感があって好感度が高い。
ロイは細身で長身、筋肉質だけどすらっとしていてとてもバランスが良い体つき。
それに顔立ちがとても整っていて、少し無精髭があるのもまたワイルドで素敵。
その二人がなんだかよく聞こえないけど言い争っている。
「あの、それでなんでしょうか?」
「いえ、その、本当にその格好で町に出るのですか? 危なくありませんか?」
「え? どういうことですか? 完璧な町娘では?」
「その、いくら町娘風とはいえ、あまりにお嬢様が綺麗すぎるというか」
「はあ?」
「っていうかお嬢様、その言葉使いだと町娘じゃないのが一発でバレます」
「じゃあどうしたらいいの? 私はこの言葉使いしか知りませんけれど」
「黙ときゃあいいんじゃねえか?」
「あら、ロイさん、意外と賢いですわね」
「お嬢、それは褒めてるのか?」
「もちろんですわ」
「はっはっは! お嬢様最高!」
ひとしきり笑われたあと、アロンが今日の目的を尋ねる。
「それで? 今日は何を目的に町に?」
流石に反乱がなぜ起こるのかを知るため、とは言えないけど、本を買いに来たんだととりあえず誤魔化す。
本屋を見た後、路地を歩いていると気になる人たちが目に留まる。
「あら? あの方たちは?」
「おっとお嬢、ここから先は進んじゃだめだ」
ロイが止めるのを聞かずに進もうとするとアロンに腕を掴まれて止められた。
でもあの人達が気になって仕方がない。
何より、あの男の人の目がとても印象的だった。
まるで獲物を狙う猛禽類のような鋭い瞳。
「お嬢、ここから先はお嬢が知っちゃいけない世界だ」
「あら? なぜですの?」
「それも含めて、知っちゃいけない。もう少し大きくなったら見えてくるかもな」
「ロイさん、あなたも変わらない年齢だと思いますけど」
「まあなあ。だがお嬢、あんたと違ってオレはあっち側で生まれて育ったんだ」
ロイに気圧されてこれ以上は話もできなくなった。
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