第3話 嬉しくないわよ

「お嬢様! どうされたんですか? 何か悩みでも? あれですか、お腹がすいたとか、勉強したくないとか?」


「ミレナ、私になにか悩み事がありそうだという事を察知するのは素晴らしいことですけれど、理由がなさけなさすぎませんか?」


「ですがお嬢様、お嬢様の仮病は天下一品ですよ?」

「ありがとう、ミレナ。嬉しくないわ。あのね、前世で処刑されたのはラスロメイ家での出来事なの。だから処刑を回避するためにエディンガー家を嫁入り先に選んだの。これで良かったのかしら?」


 幸いにも我が家は公爵家なのでそれなりの蔵書はある。そう、私の処刑を回避する方法を探すためにまずは歴史を調べようと思ったのだ。


 聖王国は今から約七百五十年前、オルドゥアズ教団の神官エルキーポ様が神の啓示を受け大陸での権勢を確立、それ以降ニニラカン大陸ではオルドゥアズ教の教義に基づいて法が定められ、民は生きている。


 その教えが絶対であり、その法を守ることが善とされている。

 もちろん例外はあるけども、それが当たり前のこととして誰もが信じている。


 歴史書には聖王国建国から現在までのこのニニラカン大陸の歴史が書かれていた。

 一通り歴史を学んだところで現状の把握だ。


 どうして反乱が起こってしまうのか。前世の私は反乱が起こる前も起こってからも何も知らなかった。


 そんなのはごめんだ。


 もっといろいろなことを知って、見て、聞いて、その上で私の判断が間違っていたのであれば処刑されるのも納得できる、かもしれない。

 何も知らず、ただ殺されるなんてありえないわ。


 お父さまに少し反乱の兆しはないのか尋ねてみたけど、、あまり詳しい話は聞けなかった。

 お母さまは相変わらず体調が悪く、寝込んでいるらしい。


 しかもお父さまは最近私が急に勉強を始めたものだから心配しているようだ。

 娘が勉強を始めて何を心配することがあるのかよくわからない。


 でもこれは譲れない。

 だって、死ぬわけにはいかないもの。

 今度こそ生き抜いてみせる。

 そのために、とにかく知識が必要だ。

 今は本を読み漁り、ひたすら調べなくてはならない。


 ミレナの淹れてくれたお茶を飲みながら一息ついているとふと思い出す。

 あの時、私を殺せと叫んでいたのは民たちだった。

 今も前世でも城下に住む民たちと出会った事などないというのに。

 なぜ彼らは見たこともない私にあれだけの悪意を向けることができたのだろう?


「ミレナ、私、町に行ってみたい」

「え? 町ですか? どうかなあ? やめておいた方がいいんじゃないですかねえ?」

「どうして? ミレナは町に?」

「ええ、お休みの日は町に出かけることもありますけど」

「じゃあいいじゃない、連れて行って!」


「えー、うーん」

「お願いよ、ミレナ。私どうしても知りたいことがあるの。それを知るためには実際に見聞きしないと」

「わかりました。お供します」

「ありがとう!」

 ミレナは渋々といった様子だが了承してくれた。


「いいですかお嬢様、絶対に私のいう事を聞いてくださいよ! 絶対です! 単独行動も禁止です!」

「ミレナ、私がそんなに信用できないの?」

「はい! とっても!」

「ひど!」


「仕方がないですね、ではお忍び用の服を用意しましょう」

「ありがとう」


「あ、それと護衛の騎士を連れて行きましょう」

「え? 騎士?!」

「騎士と言ってもさすがに鎧がちがちだと目立ちまくってお忍びになりませんから騎士の若手の護衛です。まあお嬢様のお顔は割れていませんから大丈夫だとは思いますが念のためです」

「わかったわ」

 こうして私の初めての外出が決まったのだけれど、まさかあんなことになるとはこの時は思ってもみなかった。

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