第59話 太一との話
「……ここを、どうやって見つけたの?」
あの部屋から連れ出されながら、椿は自分が閉じ込められていた場所が、見た目からすると普通の一軒家にしか見えなくて驚いた。
周りの景色は、前に千紘が逃げ出したところと同じ発展具合だった。田舎すぎもせず、都会すぎもしない。
まさかこんな場所だったかという驚きと、自分を閉じ込めるために用意した執念に恐怖を感じた。知らず知らずのうちに、身震いしてしまう、
「千歳が手を貸してくれたおかげだ」
「千歳が?」
千歳の名に椿は驚いた。
1人で見つけられたとは思っていなかったけど、千歳が手伝うのを千紘が受け入れたことにだ。自分の知らない間に、兄弟仲がどんどん改善されていて、嬉しくもあり寂しくもあった。
しかし、今は感謝が一番大きかった。
「そっか。千歳にもお礼を言わなきゃ」
「そうだな。千歳がいなかったら、間に合わなかったかもしれない。……無事で良かった」
千紘は先ほどの光景を思い出して、悲痛な様子で顔を歪めた。ナイフで刺されそうになっている状況でも、目を閉じて受け入れていた椿。
間に合わなかったら、椿は死んでいたかもしれない。そう考えるだけで、指が微かに震えてしまう。椿に気づかれないように、必死に隠していたが。
「……ごめん」
しかし椿は、千紘の恐怖を感じ取る。
あの時は、彼に会えないまま死ぬ覚悟をしていた。希望が潰えて、助けが来るなんて奇跡を信じられなかった。
そんな瞬間を、千紘は見ていた。
自分がその立場だったら、諦めてしまった彼を許せなかっただろう。だから椿は謝った。
千紘は、すぐには許すと口に出来なかった。椿の諦めぐせは、自身が彼をさらった時にも見ていた。
最初は抵抗していても、最後のところで諦める。諦めが早く、自分の命を大事にしない椿の思考を、近いうちに矯正する必要がある。手遅れになる前に。
教えずとも自分で直してくれればいいのだが、それは難しいだろうと千紘は期待していなかった。
「その話は後でな。椿は少し車の中で待っていてくれ。智村と一緒に」
「千紘は?」
「奴と話したいことがある。それが終わったら、すぐに戻ってくるから」
「でも……」
それが必要なことだとしても、椿は千紘と太一が話をするのを不安がる。
主に太一が暴走しないか、千紘に害が及ばないかという理由で。
「ちゃんとボディーガードはつける。向こうを拘束した状態で話す。それなら心配ないだろ」
「うん、気をつけて」
「分かってるって」
見送りつつも不安そうな椿に、千紘は頭を撫でてなだめる。
家の中へと入っていく千紘の後ろ姿。
大丈夫だと言い聞かせながら、椿は智村の待つ車に乗り込んだ。
♢♢♢
車のドアが閉められる音を背中で感じ、千紘は歩みを早めた。
長く待たせると、椿が我慢できずに中へと入ってこようとするのかもしれない。その時は、智村に絶対止めるようにと命令してあるが、万が一もある。
椿は突拍子のないことをしでかすから、目を離せられない。
さっさと用件を済ませてしまおうと、目的の部屋まで急いだ。
部屋には扉がなく、その前で部下待機していた。千紘に気がつくと、強く頷く。
「すでに拘束済みです」
「ありがとう。暴れられたりしなかったか?」
「不気味なほど静かです。まるで抜け殻のような」
「そうか。これから話をするから、そのまま待機していてくれ」
「かしこまりました」
椿にはボディーガードをつけると話したが、なるべく2人だけの状態で会話をしたくて、部下には距離を置いた場所で立っていてもらう。
気味悪そうに中に視線を送っていて、よほど太一が嫌なのだと伝わってくる。
その気持ちが、千紘にはよく分かった。
「おお、随分と仰々しいな」
拘束といっても手錠をかけるぐらい。そんな考えに反して、太一はかなり念入りに動けないようにさせられていた。
手錠、足枷、二の腕辺りで上半身を、膝を折りたたんで太もも辺りで下半身をベルトで巻いていた。目隠しもされているので、自由に動かせる場所は口だけだった。
耳は塞がれていないから、千紘が来たことは分かっているはずだ。
しかし何を考えているのか、見えないにも関わらず一点に顔を固定したまま動かない。あえて千紘の存在を無視している。そういった様子だった。
千紘は近くに倒れていた椅子を起こし、汚れを手で払うと座る。
太一の正面、1メートルほどの距離だ。
「初めまして、でもないか。俺は見たことがあるし、そっちも同じだろ。憎しみがこもっているから、よく覚えているんじゃないか?」
千紘が話しかけても、返事はおろか反応も示さなかった。それに気にすることなく話を続ける。
「認めたくはないが、俺とお前は似ていると思うんだよな。椿に惹かれて、椿に相手がいても諦めきれず、気持ちを伝える前に暴走する。ああ、でも椿から聞いた話だと、犯人だと思わせないようにしてヒーローになろうとしたんだって? 俺と同じやり方じゃ勝算がないから、趣向を凝らしたみたいだが……上手くいかなくて残念だったな」
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