一人と一人
「鈴原仮?幽霊も物思いにふけるんだな」
柳龍一が目の前にいた。柳龍一が俺を見ている。
柳龍一が俺に話しかける。柳龍一が俺を見て表情をコロコロ変える。
「お前の言う思い出話を聞いていて思うんだが、やっぱり私と誰かを人違いしてるんじゃないか?」
柳龍一が言う。人違いだなんてそんなわけない。だってお前は柳龍一だろう。それなら人違いじゃないよ。俺は柳龍一に話しかけたかったんだ。俺はずっと柳龍一に話しかけたかったんだ。
「だってお前が話す思い出話、私はひとつも聞いたことがないし、まるで私も知っていて当然のように話すが私はお前?と生きていたお前?とろくに話した覚えがないんだよな」
そうだよ、ひとつも話してないんだからそうだよ。ひとつも話せなかった。ひとつもできなかった。俺の話を知らないくせにふんふん頷いて聞いて俺の話すことを生返事で「へ~そうなんだ」と流すお前のことも今初めて知ったんだ。俺がお前にたくさんたくさんたくさん俺のことを話したら、俺たちが友達だったことにならないかな?なんてバカなことを思っているんだ。
「今は毎日くだらない話してこうやって惰性で暮らしてるのも楽しいけど、その相手って本当に私でいいのか?と思うわけ」
柳龍一じゃなかったらほかの誰でも一緒だよ。お前で間違いないよ。
この世で一番美しい男。俺の心残り。
「お前、成仏とかしなくていいわけ?」
柳龍一は何を話していても美しかった。俺はこの世で一番美しい男の耳に俺の思い出を話して聞かせた。
理不尽な俺の勝手だったのに、柳龍一は強く拒むこともなくはいはいと惰性で頷いて流していたようだったが、そのくせきちんと話は聞いていて、たまに俺の好物を皿に分けて供えたり線香を立ててくれたり湯呑に水を入れておいてくれたりした。
「お前ってそういうやつだよな、だから好きなんだ」
「私は人違いだと思うけどなあ…本当に申し訳ない限りなんだけど」
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