第13話 家宅侵入RTA

「え? マスコミが騒いでる? いつものことでしょ、放っておけば」


今朝、ヒカリから昨日の放送での問題発言を取り上げて色々な週刊誌や報道機関が僕の裏どりをするべく騒いでるという情報を聞いた。


「このままではうちの防衛装置を破られるのも時間の問題かと」

「だとしたらバカだよね。報道の自由は家宅侵入も許されると本当に思ってるんだもん。僕が誰で、どんな発明をした人かまるで理解しちゃいない。キング達が突き返して来たアビスからウチへの帰還スクロール、まだ生きてるんだぜ? そして直接送り返すこともできる。こっちに帰ってくるには僕の許可がいるけどな」

「マスコミはその情報を知りませんからね」

「だって言ってないもん」


言わなきゃわからない? 想像力が足りないんだよね。

常に何か考えてる人と、脊髄反射で情報に飛び乗る人との差ってそういうところだよ?


「では放っておいても問題ないと?」

「一応学校に通わせてる大塚君が心配かな?」

「あの子はああ見えて賢いし立ち回りは上手いですよ?」

「それは相手が同じ土俵で戦ってくれる時に限るよ」

「と言いますと?」

「暴力やそれ以上の権力者には卑屈になるよ。社長には建前上逆らった記憶はないし」

「あ、確かに!」


当時を思い出したのか、ヒカリが胸の前で手を打った。


「とは言え、度を越して来ない限りはこちらも動きようがないね」

「あらかじめ釘を刺しておきますか?」

「辞めなさい。相手は報道と撮れ高のためなら修羅にもなれる人でなしだよ? そんな得ダネ、食いつかないわけがない。なので配信でそれとなく宣伝しておこう」

「宣伝ですか?」

「うん。自宅内に違法な手段で侵入しようとした人は、もれなくアビス深層にご招待! まだ誰も映像記録を持ち帰れてないから、マスコミも興味が湧くんじゃないかと思って」

「でもそれ、帰れませんよね?」

「帰れるよ?」

「帰れるんですか?」

「そりゃ帰れるよ。どのような理由で家宅侵入をしたのか洗いざらいテレビの向こうに正直に話してさえくれたら、僕は許すよ」

「相手は社会的に死にますけどね」

「そうだね、人間に戻すのは別途料金をいただくけど」

「それはそれは……社会復帰もままならないですね」


そう言いながらもヒカリは嬉しそうにニコニコする。

胸のつっかえが取れた。溜飲が下がった。そんな顔だ。


「というわけで、雑談配信始めていきます」


<コメント>

:どんなわけだ

:唐突すぎる

:前回の配信でマスコミが騒いでますよ

:自宅特定班もこれにはニッコリ


「自宅はとっくに特定されてるよ。だからと言ってうちに違法な手段で侵入するのは辞めておいた方がいい。取扱注意の薬品の宝庫だし、それを取得しようとしたらもちろん防衛装置が働く。僕は一応止めたからね?」


<コメント>

:泥棒にアピールですか?

:家宅侵入RTAはじまた!

:でも防衛装置がどんなものか、私気になります!


「本当にやめておいた方がいいって。世界のSランクがもう二度といきたくないと言った場所といまだに繋がってる転送スクロールが展開されるから」


<コメント>

:あ……

:はい詰んだー

:オリハルコンの採掘場か!

:逆にそれ欲しさに凸する馬鹿が出そう

:あれ時価いくらだっけ?


「フェニックスの素材よりは価値あるよ」


<コメント>

:フェニックスが億だから

:おいおいおい、億万長者だよ!


コメントでは思った通りの憶測と裏読みでの誘導が始まった。

事実を話さない、場所を特定しない。都合の悪い情報は伏せられたままで煽るだけ煽る。

小学生の大塚君のお子さんが正義の裁きだと実の親に刃物を向けた世論が、今度は我が家に向けられた。

マスコミ達も情報に踊らされている。さて、ここからは誰が先にアビス深層に誘拐されるかRTAだ。


「マスコミの皆さんも興味本位で凸しないことをお勧めします。本当に危険ですので。流石に常識があるなら家宅侵入をヨシとはしないでしょうが、念の為に釘を刺しておきます」


<コメント>

:お金欲しさでやると人間性を失うのか

:オリハルコンを売り捌けばワンチャン

:金を失ってまで行く意味とは?


「もちろん、送った以上は帰って来れます。けど僕は家財を守るための自己防衛で送っていますので、帰って来て治療しろは通用しません。治療するなら別途料金を請求します」


<コメント>

:今北産業

:なになに? 家宅侵入すると治療するほど痛い目あうの?

:その上で治療費分稼げるかは自分次第な場所に飛ばされる

:モノがオリハルコンだからなー

:国が動きそう

:オリハルコン!?

:世界中の鍛冶屋が涎を垂らして欲しがるお宝だよ

:行くなよ? 絶対に行くなよ!

:俺ちょっと用事思い出したわ

:俺も、有給とってくるわ


「採掘のスキルは持ったか? 命を捨てる準備はOK? 人間性喪失RTA! オリハルコンをとってくるまで帰れま10! 治療費は別途請求!」


<コメント>

:当事者が煽るな

:ノリはいいよ

:ユーチューバーとしては正解

:ちなみに治療費はおいくら万円なんです?


「状態によるので、いっそそのまま殺した方が早いまである。その後エリキシル剤の投与での復活。社会復帰は絶望的だね」


<コメント>

:いや、草

:誰もやらんわ、そんなの

:……シテ……コ……ロシテ……

:これが今日の錬金配信ですか?

:欲に勝てるものだけがこの配信を視聴しなさい

:金欲しさに働いてる人にそれは無理


「ちなみに防衛装置は窓に石投げる、壁にスプレーで落書きする、近所で悪い噂を流しても発動するから気をつけてね!」


<コメント>

:ネガティブキャンペーン封じ完璧やん

:誰も悪口言えねーとかディストピアやん!

:井戸端会議もダメ?

:人の口に戸は建てられない悪習を完璧に封じてて草


「ちなみにウチの子にも防犯ブザーがわりにそれつけてるから、取り組むのも容易いと思ってたらうっかり発動するかもね?」


<コメント>

:うぉおおおおお、あぶねえええええ

:お巡りさん、この人です

:特定しました!

:特定はやい!


そんなわけで釘刺し配信はこれにて終わり。

自宅凸する人が一人でも諦めてくれたらいいなぁくらいのものである。


しかしヒカリが玄関先で不審な物体を見つけたと報告して来て物騒な世の中になったなとも思った。

その上で、どうもその持ち主はうちの子に並々ならぬ感情を抱いていると推察。


なんと隠しカメラは室内のあらゆる場所に仕掛けられており、防衛装置の裏を突かれたか、身内の犯行ということになる。

一体誰が?


と思ったところですぐに答えは割れた。

思い当たる人物は一人しかいないからだ。


「大塚君の息子さんかな?」

「よく明菜ちゃんと一緒に錬金術してますもんね」

「年頃とは言え、やり過ぎだよね?」

「ですね、プライバシーの侵害です」


満場一致でカメラは取り外してアビス深層に送った。

人類で初めての映像化。

そこに映るのは果たして生に執着する亡霊か。

はたまた欲丸出しの亡者か。


どちらにせよ、違反者には等しく罰を与えるいいきっかけになったと思う。

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