第14話 解明! アビス深層攻略法

「あの、ごめんなさい! 僕、間違ってました!」


翌朝、顔面蒼白で大塚君の息子が罪を自白しに来た。

アビスの最下層に乗り込んだ亡者の姿を見て正気度を大きく消失したのだろう。

はたまた自分もこうなるのではないかと身に摘まされていたか?


僕はシャドーボクシングよろしく腰の入ったパンチで空を切る。

それを目を瞑って体を硬くしながら秋生君は受け入れる覚悟をした。

そう身構えなくたって殴りやしないよ。

殴られても仕方がないって罪の自覚はあるようだね。


「なるほどね、不届者は君だったか。こんなものが出てきた時、僕たちは犯人にキツイお仕置きを考えてた」

「どんな処罰でも受けます! でも明菜さんには言わないでください!」

「それを決めるのは僕で、君じゃない。裁判になったら犯人の言い分は通らないよ。君はそれだけのことをしたんだ」

「そう……ですか」


ガックリとうなだれ、罪をようやく認めたように諦めの境地に。

色々遅いが、まだやり直せるか。


「だが、そうだね。このカメラに写ってる内容次第では叙情酌量の余地があるかどうかを判断する。君がただうちの子の姿を見たいくらいなら許してあげてもいい。しかし男女の一線を越えると言うのならこちらにも言い分がある」

「ヒェ」


今の僕の顔はそんなに怖いだろうか?

こんなにニコニコしてるのに、秋生君は萎縮してしまった。


「と、言うことでヒカリ、中身確認お願い」

「少し中を確認するのが怖いですね」

「大丈夫だよ、な?」


秋生君の肩を叩いて一緒に動画を閲覧する。

すると出るわ出るわ、思春期男子のオカズがたんまりと。

玄関の他にもトイレ、洗面所、リビングで色々な表情を浮かべる自由奔放な大塚君が映されていた。実の親とはいえ、流石にこれはギルティでしょ。


「悪いけど秋生君、警察にご同行願おうか」

「ち、違うんです! トイレは仕掛けた覚えがなくて!」

「今更言い逃れできると思ってるのは残念だな」

「本当なんです! それよりもこっちを見てください!」


映されたのはアビス深層。そこにはよくわからない存在が人間の服を甘噛みしてる映像があった。きっとマスコミ関係者だろうね。だが残念なことに、帰還する意思ごと無くしてしまったようだ。Sランク探索者でも匙を投げる場所に一般人が行けばこうなることくらい理解できないもんかね。


「これは……随分とまたグロテスクだね」

「実はこれが見えるようになったから、僕もこうなるんじゃないかって気がして」

「謝りに来た?」

「はい」

「でも罪は認めたところでその罪は消えないって知ってた?」

「うっ……僕も、同じ目に遭うんでしょうか?」

「流石にそこまではしないよ。けど、無罪放免でも居られない。分かるよね?」

「何をすれば良いんですか?」


物分かりのいい子は嫌いじゃないよ。

そういい含めて、僕はカメラに写った映像を買い上げた。



「はい、と言うわけで偶然にも手に入れた画像を見ていただいてるわけなんですが」


<コメント>

:唐突がすぎる

:画面がずっとモザイクかかってるの何?

:モザイク画面見るとモヤモヤする


「実はうちのセキュリティに引っかかる、あるいは直接その場所にオリハルコンの採掘をしに行った方がちらほら写ってます。モザイクはですね、ちょっと人の形を維持できていないので保険でかけています。覚悟の準備はよろしいかな」


たっぷり間をおいて、モザイクが剥がれていく。

一般通過村人はまだ来ていないが、薄ぼんやりとした世界で、何かが蠢いているのがお分かりいただけるだろう。


<コメント>

:これマ?

:ほんまモンの地獄やん

:アビスとかよう言うたな

:金のためにこの場所に乗り込むとか正気の沙汰じゃねぇ

:金は目的じゃなくても、送り込まれる人が居る、と?


「行くなよ? 絶対行くなよ?」


<コメント>

:今すぐセキュリティを解除して! 役目でしょ!

:お、誰か犠牲者出た?

:犠牲者いうなし

:セキュリティ破る時点で加害者なのに被害者ヅラは草


「セキュリティの解除はしません。僕は散々忠告したのに、従わないあなた達が悪いんです。とはいえ、僕も鬼じゃありません。帰還用の転送スクロールもご用意してるので、謝罪用カメラの前で、なぜ我が家のセキュリティを破ろうとしたのか、洗いざらい吐いたら家の前に返してあげます。あ、本名と所属事務所も一緒に提示してください。再犯防止のために管理しますからもちろん会社の方に慰謝料の請求も合わせて送らせてもらいます」


<コメント>

:言ってることエグくて草

:晒しあげやん

:それ、社会的に死ぬやつでは?

:むしろそれだけで生きて帰れるんなら安いほうだろ

:送り込んだ側はオリハルコン持って帰って来いぐらいに思ってそう

:それ以前にオリハルコンの採掘ってそんな簡単なの?


「さぁ? 僕現物しか見たことないから、どこにあるかとか知らないな」


<コメント>

:この人ほんま……

:人間辞めてるSランク探索者が匙投げる場所だぞ?

:《ガイウス》崖の上にあるんだが、上がろうとするだけで頭痛に悩まされる

:《トール》採掘熟練度50以上で成功率30%以下

:《キング》頭痛の後にボディが異形化するから気をつけろ

:採取班きちゃ!

:想像以上の地獄なんだがそれは……

:頭痛って何?

:《ガイウス》降りる時はなんともないが一定の高さに上がると異形化する呪い

:地獄って呼ばれる所以よな

:二層でも手足が動かない呪いなのに深層つったら


「おっと、通り過ぎました第一村人。まだ人間の形が残ってましたね」


<コメント>

:モザイク推奨住民やめろ!

:これ帰ってきても現場復帰できないやつだろ

:オリハルコンだけ奪われて捨てられそう

:人間がモンスターになるとこんなに醜くなるんだ!

:まだ意識があるのかな? カメラに寄ってきたぞ

:意識なんてとっくになくなってた!

:甘噛みしてくるやん

:これ、こうなるって知ってて送り込んでくるやつやばいな


「僕はやるなよって言ったんだけどね」


<コメント>

:唯一の選択肢は、オリハルコン狙わずに謝罪一択か

:《ガイウス》でも出口は崖の上にあったぞ?

:《トール》採掘場のすぐ上っすね

:《キング》二回くらいの異形化は覚悟しないとな

:は?

:草

:崖登ってる時に頭痛で意識持ってかれるのやばいでしょ

:落下不可避!

:異形化って跳躍力とかも上がる感じ?

:《キング》手足は伸びるぞ

:《トール》俺は目が異形化してモンスターの来訪を察知できるようになった

:後天的な能力だと思えばワンチャン

:ねーよ、スリーアウトチェンジだボケ!

:待って、モンスターも居るの?

:聞いてない


「そりゃダンジョンだし、いるでしょ」


何言ってるんだろうこの人たち。オリハルコンの採掘場の危険性が呪いだけだと思った? 普通にやばいモンスターも生息してるよ。


「送ってこられた素材で使えそうなのは今のところ無かったけど……どこかに送ったほうがいい? カチカチスライム君で封印してるんだけど?」


<コメント>

:絶対した方がいいですよ!

:そのモンスター倒せなきゃ安心してオリハルコン持って帰れないじゃんか

:本当だよな

:《ガイウス》オリハルコンはそいつの好物だから持っては歩けないぞ

:おい!

:持ってるだけで狙われるのかよ!

:待て、でも出口はすぐ上だ、イケルイケル!

:《トール》その真上がそいつの巣なんすよ

:詰んでるじゃねーか!

:はい解散!

:キング達はどうやって持ち帰ったんだよ


「モノは僕が事前に渡してたポーチに直接入れて、あとはキングがヘイト取って、ガイウスとトールで追い払ってたって言う流れを聞いたな。九死に一生をそれこそ数ヶ月間頑張ってくれて感謝の限りだよ」


<コメント>

:《トール》俺たちも一応ドーピングアイテムや万能武器ありきでの戦闘だったっすけど、無手ではやりたくないっすね

:《ガイウス》本当にな

:《キング》こいつの依頼はもう受けたくないが、こいつ以外の依頼は問題外だ

:人類には早すぎた素材だったか

:待って! じゃあ突撃したら帰れないの?

:だからいくなって何度も釘刺してるところ

:《キング》いくなって言われてたのに行ったのか……(呆れ)

:帰りのスクロールあるって聞いてたから

:そこに至るまでが茨の道って話聞いてたー?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る