第8話 しおりんコラボ3

命の冒涜が最低条件であることを告げたら、全員が黙り込む。

錬金術の底の深さに誰しもが恐れ慄いたのがよくわかった。

それでもしおりんさんは前を向く。それでこそ同士。

僕は賞賛しながら迎え入れた。


死ぬのが怖くて錬金術師がやってられるかってんだ。


「それでは次の質問、良いでござるか?」

「いいよ」

「では、熟練度100から先のオススメレシピを教えて欲しいでござる」

「おすすめと言ってもね。既存のレシピは何があったっけ?」


随分と自分で開発したレシピが多くて、世間一般の情報が曖昧になっている。

そこにあれがあれば新規勢はもっと取り込めるのにと思うこともしばしばあるくらいだ。


「それが、世界錬金術師は秘匿を貫いて何一つ出してこないのでござるよ」

「何一つ? じゃあ僕がエリキシル剤のレシピを公開したのって?」

「異例のことでござるよ」

「それじゃあ足踏みをせざるを得ないわけか」

「成長は常に自分の限界と共にあるとかなんとか言ってはぐらかすのでござる」

「赤ちゃん言葉で?」

「バブバブ言ってたでござる」


<コメント>

:この上から発言www

:150から下は猿でもできるって言い放ったからな

:そこまでは言ってない

:言ってるようなもんやろ


「ならとっておきのがある」

「おお!」

「制作難易度110。カチカチスライム君だ。材料は三つ! 祈るだけ!」


<コメント>

:最後のフレーズだけで急にしおりんの目から光がなくなったのがわかる

:祈るって言ったらあれしかねーべ

:もうこの人融合ありきの錬金術しか言ってこねーぞ

:マンドラゴラ錬成する人だから

:レインボースライムコアも祈るだけって言ってたからな


「何を言う。100から先は本当に手探りだから、手がかりがあるだけで儲け物なんだぞ?」

「逆に成功か失敗かはっきりするでござるな。よし!」

「素材はスライムコア(青)10、ローパーの体液100、塩1で中級融合だ」


<コメント>

:塩isソルト?

:ローパー君から余計な水分取ろうとしてる?

:何も知らないスライム、生き残りRTAを仕掛けられる

:逃げてー、超逃げてー


「そんな安い素材だけでいいのでござるか?」

「ちなみに塩はこのサイズね」


テーブルの上にお徳用(1kg)を乗せる。紙袋に入ってるしっかりした包装の。


<コメント>

:これ、スライムもローパーも干からびるんじゃね?

:テーブルサイズのものだと思ってました!

:カチカチじゃなくてカピカピだわ

:水は! 水は追加しないんですか?


「量がそれになっても一回の素材費用は2000円で済むのでは?」

「成功が5%だからね。100万使って成功しないこともザラ」

「それくらいなら払えるでござるが……ああ、つまりここから先はこの規模の金額消費がザラなのでござるな?」

「その精神力が血肉を肥やし、極上な素材へと進化する」

「熟練度150までに楽な道のりはないと」

「楽々できるなら逆に教えて欲しいとは僕は思うよ」


<コメント>

:そりゃそうよ

:世界のSランクも専売特許は秘匿だもんな

:そりゃすぐに追い抜かれたら悔しいし


「僕は周りに赤ちゃんが多いから、早く自分の足で立って意見の交換をできる人材を増やしたい。そのための強力なら惜しまないよ」


<コメント>

:世界のSランクを赤ちゃん扱いはやめて差し上げろ

:バブー

:だう!

:いなない、いなない

:リスナーの赤ちゃん化が激しいの草

:どうせ錬金術師だろう

:だう?(錬金術師以外がここに来るのはどんな目的で? と言う顔)

:圧縮言語やめろ!


「と、錬成の難しさはさておき、出来上がり品を先に見せよう」

「気になってたでござる」

「これは砂糖と塩によって液体化したり、凝固したりする代物だ」

「砂糖はどこから出てきたのでござるか?」

「そう言う性質のものだ。これはすごいし画期的だが、対抗策を取られるとすぐに無力化されてしまうので世に出すべきかどうか恐れてたが、最近乱暴に扱われる配送業に向くのでは? と配送専用の緩衝材として扱うようにしてる」

「あ、あの青いのそうでござったか!」

「ダンボールを開けるときに蓋に仕掛けた塩が散布されて液体化、空気に触れてボール状になる。一度変化したら元の凝固機能は失われるが、再生方法はまた別にある。けどそれは成功してからにしようか」

「あの繊細なポーションが無傷で瓶も割れずにどうやって運ばれてきたかと思ったら、そんな仕掛けがあったんでござるな!」


<コメント>

:配送業も大変なのよ

:だからって取り扱いを雑にしていい理由もないけどな

:どこも人手不足だし

:機械化しろよ、とは思うが

:若いのはみんな探索者になるし

:組合から組合にモンスターの素材移動させるのだけでも大変

:誰か転送装置作ってくれ


「無くはないが、人は運べないぞ」


<コメント>

:あるのかよ!

:この人なんでも作るな

:あるんだ、転送装置!

:なんで、発表、してくれないの!


「なんでも何も運送系のお仕事全般奪うことになるからだよ。明日からもう来なくていいって言われたらどうにもならないでしょ?」

「ちなみに制作難易度と素材の方は?」

「錬金術熟練度140、魔導具技師熟練度150、鍛治熟練度150。制作難易度160で、素材は立体魔導力学のスクロール、純ミスリル塊500、純オリハルコン塊200、賢者の石を入れて上級融合で祈るだけ!」


<コメント>

:は?

:は?

:は?

:なんそれ

:今日一番頭おかしい条件出てきたわ

:あれ? ミコト様錬金術師一本じゃなかった?


「ん? 僕は錬金術師だけどジョブはサードまで開拓してるよ。まず錬金術で100まで開拓してから鍛治を取得。錬金術200、鍛治100でサードが開放して魔道具技師を取得した。今現在は錬金術250、鍛治199、魔道具技師150だけど何か?」


<コメント>

:さらっとフォースジョブまで目に見えてるのどうなのよ

:そうか、熟練度100まで上げるとセカンドジョブが取れるもんな!

:いや、草

:この世の中にセカンド持ってる人間がどれだけいるのかって話よ

:《神籬ホトリ》あの、聖さん。それは聞いてないです

:ホトりんも涙目

:《神籬ホトリ》は? 泣いてませんが?

:ミコト様ー、ホトえもんがいじめるよー


「泣かしたお前が悪い」


<コメント>

:辛辣ぅー

:この夫婦、関係ない情報に対して塩対応するところそっくりだよな

:似たもの夫婦じゃん

:末長くお幸せに爆殺!

:爆殺すな!


「えー、何やらコメント欄が騒がしいようですが無視します。それで議題は何でしたっけ?」

「転移装置が作れるか否かだったでござるな」

「理論上は可能。けど実行するだけで一本の道を開拓するだけで兆はかかる。うちの素材回収班からはもう二度とやりたくないとお叱りの声をいただいた。オリハルコン製の武器作ってあげたのに、酷いよね」


<コメント>

:あの3人が今も世界で輝けてる理由がその武器のおかげか

:その武器の素材を自分たちで調達しに行かされた結果だぞ?

:何作るか伝えてなかったのか?


「伝えたよ。僕の研究施設にあるスクロールと、彼らのマジックバッグの中のスクロールをつなげるための仕掛けだと伝えた上で仕事を任せてる。彼らはお金より現物の武器やポーションの方が喜ぶからね」


<コメント>

:絶対お金の方が嬉しいぞ

:あと休暇

:おまけに頭のおかしい依頼をしてこない依頼主とかな


やだなー、適材適所の契約なのに。

それにこっちから無理難題押し付けたことなんて一度もないのに邪推がすぎるよ。電話だとラグがあるから直筆で「無理だよアホ」と直接罵倒された事はあるけど。

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