第6話 しおりんコラボ1

前回の配信の後、ハイテンションのしおりんさんから連絡が来た。

どうやら前回渡した薬品を飲んで何かを掴んだようだ。


「み、み、み、みミコト様! あれあれあれれれヤバ、やばいですすす!」

「ようこそ、こちら側へ。世界が広がって見えたでしょ?」

「フヒ、世界はあんなに輝かしくててて、ひへへへへ」


ちょっとやばい状態になってるので、話半分で話の方向性を決める。

僕もこの状態の時に難しい話はできない。

一つのことをやると決めたら、そっちへの集中力は無限に湧き出るが、副作用で多動症に近くなる。

自分のやりたいことだけ優先して、他はどうでも良くなる。

そんな状態で電話なんてしたら、目も当てられない。

僕はその薬の理解者だから良いけど、それ以外だったら警察への通報待ったなしだろう。


なのでゆっくりと言葉を急かさずに内容をまとめて聞いてみると。


「コラボですか?」

「う、うん。ダメ? やっぱダメかなー、ダメだよねきっと」

「別に大丈夫ですよ。特別に急ぐ要件もありませんし。いつもコメント欄でやりとりもしてます」

「え、良いの!? ふひ! やば、嬉しくてにやけちゃう」


大袈裟だなぁ。顔を突き合わせて錬金術を見せ合った仲なのに。

テレビだって一緒に出演したしね。


「でしたらこの日なんてどうです?」

「ちょっとその日は拙者の都合が。来週の水曜日はどうでござるか?」

「僕はその日授業参観日があって、その週の日曜なら」

「拙者もその日空いてるでござる」

「じゃあその日で」


お互いに都合の良い日を確認してコラボ日を決める。

電話を切り、今日のノルマを終えた。


「渡部さん、はなんて仰られてました?」

「うん、今度コラボしませんかって。そのお誘い」

「よくあの状態からその言葉を引き出せましたね。私にはお手上げです」

「あれを理解するのはちょっとしたコツがいるんだ。正直その症状に一度掛からなければ要点を得ないのも仕方ない。言いたいことが頭の中から溢れ出る状態だからね」

「聖さんじゃなきゃ解読不能ですよ、あんなの」


あんなのとか言われちゃってるよ?

まぁ勤続時代の僕もあんなの扱いされてたからなぁ。


「それと、10倍希釈した意識拡張ポーションの反応はどう?」

「とてもダンジョン内で使えないそうです」

「だろうね」

「知ってて渡したんですか?」


ヒカリが目を丸くして驚く。

そんなに驚くほどのものだった?


「僕のためのドーピングアイテムだからね。動くことを考慮してない。そう言う意味でまだ体が遅く感じる程度のしおりんさんの意思拡張ポーションは受け入れやすいんだと思う」

「差がわかりませんが」

「僕のは脳内からやりたい事がドバドバ溢れてその洪水の中で意識を保つ奴で、彼女のは時間が間延びする感覚を体験できる奴。方向性が全然違うよ」

「なんの覚悟もなしに使うと絶対悪影響出る奴じゃないですか、それ」

「そう言ってるんだけどねぇ……リスナーはしおりんさんのポーションに毛が生えた程度の認識で受け取るから困る」

「言葉って難しいですね」

「本当にね」


同じ言葉を話してるのにまるで伝わらないんだもん。


「あ、そのカメラ。今度の授業参観日の奴ですか?」

「わかる? それまで配信はお休みして扱い方を勉強してるんだ」

「あれ、でもその日……聖さん学会での発表がありましたよね。エリキシル剤の、ようやくお眼鏡にかなったって喜んでいませんでした?」

「え、今月だっけ。来月とかじゃなかった?」

「ほら、今月です」


ヒカリが通知書を持ってくる。本当に今月じゃん。


「なんてこった!」

「どっちみち、聖さんは顔が知られてるので学校中がパニックになること請け合いです。明菜ちゃんの勇姿は私がバッチリ記憶してきますので、聖さんは学会でエリキシル剤を世に知らしめてきてください」

「なんか急にやる気なくなってきた」

「ポーション飲みます?」

「そんなのじゃ騙されないぞ」


ゴクゴク飲んでたら気分が良くなった。

ノルマも終えたし気持ちよく眠れた。

翌日からは学会に向けて大忙し。

来月からだと思ってたからなんも用意してなかった。


無事学会は終わり、くたくたになった僕を癒してくれたのは大塚君が真面目に授業してる風景だった。どうして目の前から写せるのか、そこは気にしたらダメだよね、絶対。


「おい、見んじゃねーよ! 俺の授業風景なんて見て何が楽しいんだ?」


大塚君が顔を真っ赤に染めてカメラを奪い取り、デッキからUSBデータを引き抜いた。画像が砂嵐になる。


「えー、別に隠すことないじゃんね?」

「そうですよ。何か恥ずかしいことでもあるんですか?」

「特にないけど、この格好で見られるのは慣れてねーんだよ!」

「お、こっちには大塚君の息子さんも居るね」

「同じクラスだったんですね!」

「は? お前ら知ってて仕組んだんじゃないのか?」

「そんなわけないでしょう、偶然ですよ偶然。いやー、青春してますねぇ」

「本当にね」


だなんてことを思い出しながらコラボ当日にしおりんさんに振ったら。


「初手惚気乙です」


だなんて塩対応で返された。

コメントも独り身に厳しい対応だと言われた。

前回既婚者だと伝えたはずなのにおかしいよね。

子供がいるなんて聞いてない?

養子とったって話も結構流したと思ってたんだけど。


「そんなわけで初コラボ回です。しおりんさん、今日はよろしくお願いします」

「よろしくでござる」

「そう言えば以前から気になってましたが」

「この口調でござるか?」

「ええ、テレビではされてませんでしたよね?」

「偏向報道は怖いので猫を被ってるのでござるよ。TPOをわきまえた結果でござるな」

「なんかご苦労様です」

「この業界にいれば、自ずと猫の被り方にも年季が入るのでござるよ」


そんな年季の入り方、したくないものだ。


「それでは質問コーナーと参りましょうか」

「実は質問したいメモがこれくらいありまして」


ばさりと用意された紙束。

広辞苑くらいの分厚さを誇り、絵、これ今日中に答え切れるかなと言う雰囲気を感じさせる。


<コメント>

:人を殺せる分厚さ

:ミコト様、答え切るまで帰れま10する?


しないよ。愛する家族が待ってるんだ。

定時に終わらせるべくサクサク行こう。


「第一問、効率のいい採血方法をお聞かせください」

「賢者の石の素材の?」

「はい! 熟練度はまだまだですが。当たり前の様に求められるレシピが出てくるので」

「そんなもんはない。次」


<コメント>

:ないんかい!

:増血剤使って健康的な食事するだけとか何年かかるんや

:普通熟練度150まで上げたら守りに入るで

:そこから冒険できる人がどこまでいるのか


「僕はできたので君たちも頑張って」

「そんなー」


<コメント>

:(´・ω・`)そんなー

:(´・ω・`)そんなー

:(´・ω・`)そんなー

:いつものミコト様だった

:錬金術のことになると急に雑になるよな

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