第22話〝槍込聖〟の一大決心

大塚君の蘇生は成功とは言えず、ただ復活したはいいものの、だいぶ変わってしまった。

突然のことに僕や番組スタッフはてんやわんや。生放送中だからってここまでのアクシデントは想定してなかったらしい。

流石に僕もびっくりしたよ。


結局今日の番組は放送事故扱いとされ、途中で打ち切りとなった。

死人こそ出なかったものの、死傷者を出したのだ。

被害者の病院輸送や、加害者の留置所送り。

そして流血沙汰の後処理である。


本当だったらこんな不名誉な日にすべきではないと思うが。

この日の為にずっと準備してきたのだ、無駄にすべきではない。

僕はヒカリちゃんに残念会をしようと申告し、了解をいただいた。


「随分と雰囲気のあるお店ですね。高かったんじゃ?」

「うん、結構な値段だったよ。本当は番組を大成功で終えた後に来る予定だったけど、ああなっちゃったでしょう?」

「ああ、やっぱり」

「そしてこう言うものも用意させてもらいました」


小さな箱。中にはもちろん指輪が封じられている。

ヒカリちゃんはびっくりしたような、期待したような顔。

ずっと待たせてしまっていたから、その分の埋め合わせを供するつもりだ。


「まずは食事を楽しもう。結構お高いワインも頼んであるんだ」

「うふふ、はい」


なんだかんだ食いしん坊な所を見抜かれているので、ここで告白してくれないのか、だなんて言われなくてよかった。

彼女はムードを優先するタイプだからね。デートコースや告白タイミングなんかが幾度も脳内シミュレーションを経て完璧に仕上げてる。

だから今は焦らしに焦らしまくるのだ。


美味しいご飯、美味しいお酒。

僕たちはいい年だからこのあとカラオケなんていかず、ちょっとお高いホテルで小休止。

夜景の綺麗なホテルで、プロポーズした。

返事はOK。

10年前からずっと待ってましたよと詰られ、その埋め合わせとばかりに一夜を過ごした。


お互いに忙しい身だから避妊はして。

ただ、男女の関係になった事実は拭えない。

流石に一線を超えた後にヒカリちゃん呼びは失礼かなと思い、呼び捨てに。

ヒカリの方は僕を改めて名前で聖さんと呼んだ。

ずっと先輩呼びだったもんね。ちょっとだけ新鮮な気分だ。


そんなわけで僕は彼女と無事結ばれた。

挙式などは式場を一緒に探してる所。

そこで、話題になったのが大塚君だ。

あんな体になっちゃったのもあるが、あのまま児童施設送りになるのはあまりにも無責任だ。


テレビやマスコミにとっては死亡したのに生き返った奇跡の人扱いだろうし、僕にとっては経過観察したい対象でもあった。


だから引き取って養子にしないかと提案すると心配したような顔をされた。

ヒカリは彼と僕の関係を懸念していた。

正直、僕は彼が居てもいなくても関係ないと思っている。

何度脳内シミュレーションをしても結果は変わらない。

偶然その場所にいた同期くらいの関係だ。他の二人も同様に。

そんな感じの話をしたら、彼女は心底同情したように溢した。


「それ、本人聞いたら絶対怒りますよ? ライバルですらなかったって……大塚さん、可哀想」

「えー、理不尽」

「まぁ、聖さんらしいですけど。でも本人は応じてくれますかね? 養子縁組」

「そこは君の得意の勧誘術で。どっちみち預かったら君に頼ることになるし、ね?」

「そうですね、ずっと妹が欲しいと思ってたんです。いっぱいお粧しさせちゃいますよー」

「その調子で頼むね。それと、三人で暮らすには今の場所は狭いので、引越しします」

「おー、聖さんてば大胆。新居ですか?」

「ゆくゆくは子供も欲しいしね。大塚君にはその礎になってもらうとして」

「なんだかんだ聖さんて鬼畜ですよね」

「え、そうかな?」


だって彼、もう自立したいい大人でしょ?

子供扱いされたら絶対嫌がると思うし、自分のことを自分でやれるとなったら絶対家出すると思うし。

だったらそれまでに子供ができた時のノウハウを学ばせてもらってもバチは当たらないと思うんだ。その分衣食住では困らせないんだし、それくらい僕たちに経験させてくれてもいいじゃんね。


取り敢えずは養子縁組の手続きと、マイホームが決まるまでの間に僕の方でも新しい事をしようと考えていた。


時は流れ、番組放送から10日後。

大塚君は無事槍込家の容姿となった。

ヒカリの手を引いた時はすごい怯えた表情だったけど、一体何吹き込んだの?

でも僕の顔を見たらいつもの大塚君になった。君はそうでなきゃ。

僕は今後の方針をヒカリと大塚君に聞かせ、そして新しい事業に配信者を加える。


配信者と言っても今まで通りのVチューバーではなく、顔出しのダンチューバーと言うやつだ。

ダンジョンチューブ。ダンジョンができた時に、ダンジョン内の出来事を外に向かって配信していこうと出来た配信サイト。

そこの錬金術師系統の新規参入だ。


特に今、エリキシル剤の発表と賢者の石についてたくさんのお便りをいただいてる。ヒカリに守られっぱなしのひじり君やミコト様ではチャンネルに迷惑をかけてしまうので、ここらで顔出し配信するべきだろうと考えてのことだった。



<錬金先輩のバズレシピ__初めましての雑談配信vol.1>


「あーあー、聞こえますか? こんにちは。今話題の人、槍込聖です」


<コメント>

:はーい

:聞こえてますよー

:ウホッイケメン

:ひじりくんの中の人や!


「どうもどうも、初めての人は初めまして。テレビをご覧の方は久しぶり? 本日はですね、テレビで顔見せもしたことだし、ちょっと表に出すのも憚られるような、個人的な研究成果を出していく系の配信でもしようかなと。まぁ、そう言う趣旨です」


<コメント>

:ミコト様としての活動辞めちゃうのー?


「今のところ辞めるつもりはありません。ただ、正直向こうではあまり語れない錬金術のあれこれを語れたらなと思います」


<コメント>

:それって……賢者の石とかもですか?

:テレビで見ました!

:あれってマジなの?

:テレビ的なやらせだと思ってた

:O氏が刺されたの含めてやらせ

:生だろ?

:あれってどうなったんですか?


「そのことも含めて今回は質問に答えていくよ」


<コメント>

:ぶっちゃけエリキシル剤が本物かどうかが気になります


「あれねー、まだまだ改善の余地があるので流通はまだまだ先だね。僕がそれを量産するのは無理なので、みんなが頑張って辿り着いてね。もちろんレシピの公開もするよ。ただ最初の難関は賢者の石の製作になると思う」


<コメント>

:生産頼めない系かー


「僕も可能ならしたいんだけど、貧血待ったなしだから作れる人が増えるのが一番なんだよね。なんせ一度の錬成に熟練度150の人の血液を50ml使うんだ。ちなみに成功率が1%だから、ムキになってやるとすぐ失神するよ。用法要領を守って錬金してね!」


<コメント>

:血!?

:私、今までひじりくんの血が入ってるポーション飲んでたの!?

:そんなこと言ったら他のポーションなんてスライムのコア入ってるぞ

:そうやん

:でも血かぁ

:必要だからってたくさん欲しいとはならんね

:増血剤で増やすことも可能なんですよね?


「可能だけど、超むくれるのでお勧めしない。僕が大手製薬に勤続時代、潰れたガマガエルのような体型だったのは血を抜きすぎて無理をしたのと、増血剤で無理に血を増やしていたためだ。自分の中では研究の為……だけど周囲から見たら怪しい研究に見えたらしい。あの時の僕は、ちょっとどうかしてた」


<コメント>

:流石のミコト様だった

:もう経験済みとは

:お身体大事にしてください!


「他にも思考加速系ポーションとか、並列思考ポーションとか服用してたね。妙にテンション高くてラリってる状態になるから同時服用はマジでお勧めしないよ。まぁ、週2万のノルマこなすでもない限り目にすることもないけどね」


コメントからは驚きの声。


これだ。僕の中でできる錬金術の普通と、一般人での常識。

これが思いのほかズレているとヒカリから申告を受けたので、そのすり合わせが僕の中で今最初にやっておくべきことだった。


その後は雑談を交えてエリキシル剤の研究発表とその派生品の薬品の販売。

配信を終えた後のアーカイブは想定外の伸びを見せたんだよね。


まさか初配信で登録者数が神籬ホトリを超えてしまうとは予想だにしてなかった。

発表したレシピがまずかったかな。


僕が発表したのは徹夜明けのむくんだボディをスッキリさせるポーション。

むくみとりポーションの開発理念とその効果、レシピだったのだが、思いのほか女性リスナーが食いついた。


ヒカリが「多分みんな欲しがると思いますよ」と言うから発表したら、この有様である。


発表後、彼女からは「ようやく自分が一般の錬金術師から逸脱してるって気づきましたぁ?」とのお言葉を頂き、合点がいった。

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