第21話〝槍込聖〟の奇跡の御業
突如乱入してきた大塚君との錬金術バトル。
「槍込ぃ、よくもやってくれたな? 観念しろよな?」
開口一番の怒声。ただ、彼は僕が見えないのか、周囲を見回していた。
一見しなくても不審者だ。
彼は今、この番組が全国中継で生配信されていることを知っているのだろうか?
多分、知らないのだろうなぁ。
「お久しぶり、大塚君。その後、大手製薬の方はどう?」
「誰だお前!」
僕を指差し、大目玉。興奮してるのか、警戒も大袈裟だ。
「誰って君が名指しで任命した槍込聖本人だけど?」
「替え玉か! だってあいつはもっとブヨブヨしててチビで、ハゲで、社会不適合者だったろ!」
酷い言われようだ。でも何も間違っちゃいない。
ヒカリちゃんに拾ってもらえなければ僕は他人からそのようにみられていた。
だがハゲていた事など一度たりともない。
それは他の不名誉な噂についてきた尾鰭みたいなものだ。
事実無根である。
「頑張って痩せたんだ。このままじゃいけないってヒカリちゃんに気づかせてもらったんだよ。君は?」
「俺は最初から全てが優れていた! 付け焼き刃で俺に勝てると思うなよ! 槍込ぃ!?」
それは容姿に関しての言葉だろうか?
ヒカリちゃんを見つけては威嚇する大塚君。昔から彼女に執着してたもんね。
なんでか僕に付き纏ってたから、矛先を僕に向けてきたような気もする。
「それでは、今日のゲストは今最も話題の錬金術師! 槍込聖さんです!」
番組の画像ではシルエットとモザイクで隠された僕がしおりんさんの横へ腰掛ける。互いに緊張してるが、周囲からの熱狂的な黄色い声がうるさすぎて逆に緊張が解けた。
「すごい人気ですね」
「有難いことです」
「本日は顔出しOKとの事ですが?」
「いつまでもぬいぐるみの中に入っていたままでは、信用は得られませんから」
画面中央に、大手製薬のポーション部署主任、辞職後に神籬ホトリの錬金術チャンネルのひじり君を務める、などの経歴がテロップで流れる。
最後の方にヤリコミノミコトの中の人、とも追加されていた。
何度かCMに入り、視聴率が報告される。
こういうのって常套手段なんだな。26%まで引っ張り上げてから、僕の顔は全国区に映った。黄色い声がスタジオの外からも聞こえるほどだ。
視聴率の上がり幅に手応えを感じるスタッフたち。
僕は笑顔が引き攣っていやしないか心配である。
トークの事はしおりんさんに言われた通り、錬金術のことを考えてたらどうでも良くなった。
軽く談笑を終えて、今後の錬金術師業界を盛り上げていきたいですねと意気込みを語り、いよいよイベント開始。
素材は番組側が全て用意してくれた。
自ら持ち込んだ素材はNG。
しかし自分の血や髪の毛を使う事は許可されたので、僕は真っ先に賢者の石作成に取り掛かった。
みんながポーション制作に時間を費やしてるところ悪いけどね。
「おおっと、槍込選手、明らかに他の選手とは異なることをしているー!? これは一体なにをしているんでしょうか?」
「賢者の石を作っています。基本的に熟練度が低いと成功しませんので、注意が必要ですね」
「すいません、わたくし錬金術には疎いもので、賢者の石がどう言ったものかよくわからないんですが」
「そうですね、これは錬金術の命題とも言える到達点の一つです。錬金術の基本は等価交換ですが、これは制限こそあれど無から有を生み出す品。そう思っていただいて結構です」
「あの、ポーション制作速度の勝負なのに、そんなものを作っている余裕はおありなのでしょうか?」
「いえ、ポーションなんて目を瞑ってても作れるでしょ?」
「はぁ……」
僕の言葉に、明らかに大塚君としおりんさんのこめかみに血管が浮いた気がしたが無視。
僕は賢者の石を作り上げてから、ポーション制作に入る。
まずはエクスポーション。
賢者の石は成功率上昇アイテムだ。これを入れて融合すれば、成功率5%の壁を貫通できる。
まずはエクスポーションを品質Sで10本。
手慣れたものだ。特に驚きも何もない。
それを融合する場面を大塚君は、無能の浅知恵と笑った。
成功率が5%しかないとわかっているからの嘲笑だ。
が、錬金釜から取り出された品を見て、目を剥いた。
「インチキだ!」
「大塚選手はそう言ってますが?」
「実はこの錬金釜を扱う融合は、成功率が5%しかないのです。錬金術師界隈では、安易にこれを使うものは愚か者とされています」
「ですが、成功したように思えます」
「はい、こちらは成功しました。ですが普通失敗する可能性の高い融合を何回も立て続けに挑戦する人を世間ではどう思われますでしょうか?」
「ギャンブラー、ですか?」
「その通り。錬金術の中でも生粋のギャンブルがこの融合なのです。なんせ成功するまでに幾つもの素材を無に帰してきた極悪非道のスキル。ですがこの5%の壁を貫通して安定して100%を叩き出せるギミックがあると知ったら?」
「私なら飛びつきますね」
「でしょう? 僕が先ほど作った賢者の石は、その夢物語を実現させるお手伝いをしてくれます。なお、これの成功率は一律1%です」
「では失敗確率99%を潜り抜けて手に入れた本当の奇跡の賜物なのですね! そんなのをぶっつけ本番で成功させる槍込選手! 他の選手達は劣勢かー!?」
アナウンサーは僕を色眼鏡で見ず、一挑戦者として番組を盛り上げるべく他の選手への煽りを上げる。
「さぁ、ここからは確実に成功する融合でじゃんじゃんポーションを複製していきますよぉ! あまり弱いものいじめもよろしくないので、100本までとしましょう、まずはポーションですが……」
ここから先、司会者や番組スタッフ、黄色い声をあげていた観客達全てが息を呑む。無から有を生み出す秘術、錬金術。
明らかに素材の量と釣り合いの取れない量がその場に出現し、最後の最後に見たこともない真っ赤な秘薬が生まれた。
エリキシル剤。
人間には試した事はないが、死者蘇生をもたらす秘薬だった。
今回の番組出演は、この秘薬のお披露目会も兼ねていた。
だからって効果を見るために誰かを殺すわけにもいくまい。
なのでこれは番組に提供し、勝手に調べていただく方針だった。
だがこれに非を唱えたのは大塚君だった。
ポーション制作速度の勝負なのに、明らかな規約違反。
エリキシル剤を作るなんて聞いてないとギャーギャー喚き立てた。
おかしいよね、これだって世界に出回ってないだけでポーションの一部だ。
特殊効果で死者蘇生ができるってだけで、回復薬の類を出ない。
流石に量産は僕の命に関わるので遠慮願いたいが、レシピの提供ぐらいはするつもりだった。
大塚君はまだ納得がいかなかったのか、茶番だのやらせだの、よくわからないことを喚き立てた。
会場内からはブーイング。
そして小さな影が飛び出して、刺された。
何回も何回も、執拗なほど刺される。
普通にパニックだが、運のいいことにこの場には錬金術師界の権威が揃っている。脈があればいくらでも再生が可能だ。
しかし、あまりにも大量の血が出過ぎた。
これはもう死んでるんじゃないか?
そんな悲鳴が上がった頃、僕は大塚君だったものに駆け寄り、先ほど作ったエリキシル剤をかけた。
もし彼が死んでいなくても、体力、精神全回復の脅威的な効果で五体満足になるはず。そう思ったが、全く違う形で効果が出てしまった。
その後、番組は打ち切りとなり、番組内で死傷者が出た時点で次回も延期となった。
その日、大塚晃という男は死んだ。報道陣は番組中の凶行を面白おかしく脚色して世に放った。
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