第10話〝槍込聖〟は質問に答える
ヒカリちゃんと同居してから、日がな一日引き篭っての錬金生活は終止符を打った。
彼女はプロポーションを維持する為に適度な運動を心がけており、僕の方もそれに付き合っている。
朝起きたらランニング。身体に負担をかけすぎないように適度に休憩して、5kmは走ったり歩いたりする。
ぽっちゃり目の僕にはキツイが、こんなに朝早くから何か作業をする事は初めてだった。最初こそ行きたくない日もあったが、ここ数日は自発的に起き出して動くようになった。今はもう少し走れる距離を伸ばしたい。
そんな願望が強くなる。
せめてヒカリちゃんの横に並んでも遜色ないようにしたいよね。
運動を終えたらシャワーを浴び、栄養面を整えた食生活。
配信は午後からだ。
お互いに働いてないが、貯金だけはあるのでまだ保っている。
貯金が尽きる前に特許申請したポーションが世に出回るように手配したいところだ。
言っちゃなんだけど、まだまだ業界からの信用が無いからね。
ヒカリちゃん的には何か策があるみたいだけど、ヒモな僕は今日も自分のできることをした。
「はいはーい。こんにちは、こんばんわ、おはようございます! 錬金術師系Vチューバー神籬ホトリと!」
「ムッムー!」
「助手のひじり君の錬金術チャンネル。本日もやっていきますよー」
「ムー!」
画面内で流れるBGM、舞台セットは全てヒカリちゃんが操作する。
僕は言われたことだけをやるだけだ。
「では最初にお便りを紹介していきたいと思います。えーと、会社勤めのMさんからですね。いつもご視聴ありがとうございます。それでは本題、ホトりんは錬金術師の事情に明るいようですが、実際に高品質のポーションを作ることは可能ですか? との事です」
<コメント>
:あ、それ気になる
:ホトりんの答えも気になるけど、ミコト様の回答も気になる
:やめとけ、絶対に理解不能だぞ
:それは草
「そうですねー、高品質がどのランクに寄るか次第ですが、ポーションの品質Sでしたら作ることは可能です」
<コメント>
:すげ
:え、それまじの話?
:俺、熟練度60だけどいまだにポーションの品質Cだぞ
:普通はそんなもんよ
:ミコト様の凄さに注目言ってたけど、実はホトりんも凄い?
「私はミコト様の足元にも及ばない存在ですが、まぁこれくらいならばなんとか。品質を上げるには、素材の品質がSであることが最優先事項です。素材の品質で全てが決まりますね。もちろん錬金術師の熟練度もそこに加味されますが、素材、中間素材の品質が悪ければ私でも品質Sは難しいです。ミコト様ならどうです?」
ボワンと煙が上がり、熊のぬいぐるみがたちまちクマ耳をつけた神様になった。
この状態の時は僕の所感を述べていいことになってる。
「あー、それね。一個一個作るのはすこぶる効率が悪いんだよね。だから裏技がある」
「そう言えばミコト様、前世ではノルマおかしかったですもんね」
<コメント>
:前世は草
:中の人は元会社員か
:そりゃ野良でここまで独学なんかいねーだろ
:それでも名前売れてないってことは……
:やめて差し上げろ
:どこかで損益被ってたんやろな
:ホトりんが拾わなきゃずっとひじり君状態だったわけか
:明日は我が身で身に摘まされる
「そうかな? ワンオペで週20000はちょっと無理すれば行ける」
「普通は無理してもいけません!」
「えー、ドーピングありだよ? 行けない?」
「ちょっと私の常識とは違いますね」
「そんなー」
<コメント>
:ファッ!? 週2万ワンオペ? 嘘やろ!
:ごめん、ちょっと何言ってるかわからない
:品質は? やっぱりCで妥協ですか?
「僕は妥協が嫌いなので、全部Sです。それが僕の唯一のアイデンティティ」
<コメント>
:おい、品質Sの安定供給先って……
:大手製薬か?
:嘘だろ
:流石にガセ
:でもポーションは5000までしか卸されてないだろ?
:他の15000どこ行ったんだよ
「それは言えないんだ、ごめん。良くも悪くも僕の研究成果の礎になってるよね」
<コメント>
:その量を週単位で作ってればそりゃ熟練度上がるわ
:実際裏技があるって話だろ?
「うん、これに気づいてる人って少ないと思うけど、ポーションの類って水増しすると、その水増しした際に量の大きな方に軍配が上がるトリックがあってね、品質は落ちるけど安定供給できるんだ」
<コメント>
:つまり、どう言うことだってばよ
「例えば作ってみたものの品質Fで販売には向かないエクスポーションがあったとするよね?」
<コメント>
:待て待て待て
:まさかそこに品質Sポーションを混ぜるのか?
「その通り。だいたい比率は6:4くらいかな? 6割は品質の低い方で、4割が品質が高い方。この黄金比で混ぜると、品質が変動する。元の数値が低いほど、数値の高さに引っ張られる仕組みなんだ。実験結果でFにSを混ぜるとCになるらしいことは判明した。詳しくは教えてくれなかったけど、同じ量を求められた事から実験は成功ってことだよね」
<コメント>
:でもそれじゃあSを20000本ワンオペで作れる理由にならないですよ?
:そうじゃん
:あくまでもこれは俺らの質問というより、お便りへの回答だろ
:そっか
:ミコト様にコメント対応能力なかったわ
:そうだぞ、錬金術師としてのスペックは高いけど対人能力は皆無だから
:可哀想だろ、それ以上は失礼
「本当に失礼だよね。まぁワンオペの時はエクスポーションの品質Sを上級融合で1本から50本に複製して、同じ要領で作ったポーションの品質Sで水増ししたのを詰め替えただけだから。知ってた? エクスポーションにポーションを入れると数が10倍に増えるんだぜ? この原理は僕もいまだによくわかってないので深く聞かないでほしい」
<コメント>
:水増しが水増しになってなくて草
:品質Cのノルマ達成するのに品質Sを用意する時点で矛盾
:嫌味かよ
:質問! 10倍に増えるのは品質が違っていても可能ですか?
「品質は合わせた方が無難。というか、僕が品質S以外を知らないので、誰か実験してみて」
<コメント>
:嫌味パート2
:ご本人は無自覚なんやろな
:これはハブられますわ
:生き方が圧倒的に下手くそ
そこ、余計なお世話だよ。
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