第8話〝望月ヒカリ〟は度肝を抜かれる

先輩から手渡されたレシピのコツ。

私はこれを見る時いつも緊張に手が震える。


え、これ発表していいの?

世界初じゃない?

誰か特許取ってたりしない?

念のために特許申請しておくか。


そんな心の弱さが私の会社で扱う製品全てに現れている。

正直、特許は取れても扱える人が先輩しかいないので生産ラインには載せられない。

そういう代物ばかり。


リスナーの多くは熟練度10の壁を越えられずにいる。

先輩がおかしいのだ。涼しい顔して制作難易度50のものをポンと渡してくる。

今の先輩の熟練度を尋ねてみたところ『210だけど?』と帰ってきた時は心臓が飛び出るところだった。


先輩の世間知らずっぷりは相当なものだ。

世界に名だたる偉人の中に放り込んでも平気な顔して研究してそう。

少なくとも相手の熟練度に萎縮することはなさそうだ。


「皆さんこんにちは、初めましての方は初めまして錬金術系Vtuber神籬ひもろぎホトリと!」

「むー!」

「助手のひじり君で行ってる錬金チャンネル! 実は今日は皆さんに幾つか告知があります」

「むむ!?」


<コメント>

:ひじり君かわいい

:またしても何も知らないひじり君

:前回の配信は神でした!

:さすがホトリたん


「褒めても何も出ませんよ。告知の第一弾は、ひじり君の新衣装です!」


<コメント>

:草

:ひじり君のおでかけバージョンとか出てくるのか?

:幼稚園ルックを期待しても?

:みんな適当言うな

:そうだぞ


「じゃじゃーん! 実は助手のひじり君は、私の崇拝する神様、ヤリコミノミコト様でしたー!」

「むむ! ……って喋れる?」


<コメント>

:とんでもねー爆弾仕掛けてんじゃん

:性別がわからない声帯してるもんね、ひじり君

:熊の頃の名残が耳に残ってるのがいいね!

:こっちのお姿も可愛いですよ!


「あーあー、どうも。なんかこの姿で顔を出すのはちょっと照れるし、たまに変なことを言っても気にしないようにして」


<コメント>

:ヤリコミノミコト、対人恐怖症か?

:一匹狼のような疎外感を感じる

:ひじり君の時は愛され系キャラだったのに

:このギャップ差よ!


「ミコト様は実は凄腕の錬金術師なんですけど、この通り人付き合いが苦手でして、目下世間に注目はされてないお方です。自信がつくまでは助手として頑張ってもらうつもりでしたけど、ここ最近のコツの抜き出しに容赦のなさが加わってきましたので、いっそご自身で説明していただこうかと登場してもらいました」


<コメント>

:錬金術師あるあるやね

:なまじ腕がいいと嫉妬の対象にされるからな

:まじ居場所がなくなる

:それ!

:ひじり君はピュアなのね


「うん、まぁそんなとこ」


<コメント>

:この返事のやる気のなさよ

:錬金術漬けで疲れ切ってるまんま俺らなの笑う

:ミコト様は今どこまでの制作難易度をお作りになられるのですか?

:あ、それ知りたい

:制作難易度10を下に見てるって時点で50?

:案外100かもよ?

:まっさかー

:国内で唯一の錬金術師でも100は行ってないからwww


「これ、言っちゃっていいの?」

「言っちゃってください」

「んー、じゃあ240?」

「あれ、また上がったんですか?」

「エリクシールが成功したからね。お陰様で」


<コメント>

:は?

:は?

:は?

:は?

:は?


「それってまだ世間で発表されてませんよね? 死者蘇生の効果がある代物ってことでよろしいですか?」

「実験に使ったマウスは復活したよ?」


<コメント>

:は?

:は?

:は?

:は?

:は?


「とりあえず数日呑まず食わずで餓死させて、散々傷をつけた状態から五体満足で復活したから、体力と精神の回復も確認したね」

「おぉ、でもやり過ぎです」

「そうかな? ポーションだってマウス買うお金がない時は自傷してでも効果確かめない?」

「普通はそこまでしませんよ」

「僕はしたんだよね」

「なるほど……つまり私たちに足りないのはがむしゃらなまでの探究心であると?」

「たぶん」


<コメント>

:は?

:は?

:は?

:は?

:は?

:これまじ?

:ガセにしたってやり込み具合が人外のそれ

:だからヤリコミノミコトか

:納得

:ヤリコミがすぎて神にまで昇格してるんか

:やってることは悪魔だけどな

:前回紹介してもらったコツでポーションの品質がCまで至れました!

:おお、おめでとう

:このチャンネル、神チャンネルじゃね?

:実際に神様が降臨してるしな

:いや、そう言うことじゃなく


先輩がエリクシールを作ったことがある。

レシピを発表したことで、このチャンネルは瞬く間に注目された。

そしてそのレシピを使って模倣した人たちは、大勢失敗したことをSNSに流した。


「実際にこれ、成功可能なんですか?」

「すべての材料を、中間素材に加工、品質Sにした状態で上級融合にて5%で祈れば」

「あの、ごめんなさい。聞き間違えですか? 錬金術師界のゴミオブゴミ、融合を使うって聞こえたんですけど?」

「君の耳は悪くなってないよ。融合、それも熟練度200で覚える上級融合を必要とする。だから作れるのは熟練度200からかな?」


じゃあ無理でしょ。

一生誰にも再現できないのを発表したところで誰も得しない。

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