第7話〝槍込聖〟のお手伝い
ヒカリちゃんの独立は、起業という面ともう一つ、自由な立場での配信という形だった。
僕のお仕事は概ね、言われたレシピを高い品質で作り上げること。
作り上げたレシピのコツを教えるなんてものだ。
僕は凝り性なのでそこに独自のアドバイスを入れたりするが、そういうのはあまり世間ウケしないようでレシピ発表系は難しいのだと痛感する。
それにお手伝い人形のひじり君(熊のぬいぐるみ)はもしかしなくても僕の体格から取ってる?
なんてね、邪推しても仕方ないか。
「先輩、見てください! 前回の配信、結構好評みたいですよ」
「お、どれどれ」
最近彼女の距離感がバグってるのは気のせいか?
僕に体当たりするようにタブレットを持ってきて、顔を突き合わせて動画を示した。
確かに錬金術のジャンルではなかなかの数値だ。
しかしマイナージャンルもいいところなので、探索者の配信と比べたらどんぐりの背比べも良いところか。そんな指摘をすると、彼女は決まって頬を膨らませた。
「先輩って上ばっかり見るんですね! もうちょっと周りを見ましょうよ?」
「ごめん」
「いいんですよ。それって常に上を目指してるから言えるんですよね?」
「そんなつもりはないんだけど……」
「でも!」
人差し指をピンと立てて、僕のほっぺは空気を抜かれた。
「先輩から見たら私のレシピや私の配信に送られるコメントはレベルが低いと思っていませんか?」
その質問に、僕は回答できない。
「無言は肯定と受け取りますよ?」
「横暴だ!」
「横暴で結構。実際、自分でも程度の低いことをやってる自覚はありますから」
「じゃあどうして……」
どうして程度の高いことをしないのか?
それを言い出そうとした時、彼女からじっと見返されてハッとする。
世間の目は、異端分子を排除する。
だから目立たないように、森の中に隠れて異端具合を隠すのだ。そんな感情が込められていた。
「まずは順を追って。リスナーのレベルを底上げしていきたいですね」
「どのレベルまで?」
「先輩の崇高なお話についていけるまで、です」
「それは何年かかるの?」
苦笑し、同期の大塚くんでさえ理解できなかった僕のレシピ群を思い浮かべる。
実際にこれは画期的だ! そう思って発表したレシピ達は彼らの手に渡ってから評価されずに塵紙となった。
そのあと不思議と彼らは慌ただしく活躍し始めた。
僕のレシピが認められたのならいいけど、彼らは決まって僕のレシピは関係ない。自分たちのレシピが認められたのだ、思い上がるな! と口にした。
欠損回復や、意識拡張ポーションなんて学会クラスだろうにね。
なぜもてはやさないのかわからないよ。
だから僕は自分の世界に閉じこもって、誰にも関わりあわないように生きてきたつもりだったんだけどね。
気がつけばクビになってたし、後輩のヒモになっていた。
情けないったらありゃしない。
男だろ、そう発破をかけるが、重たい体は腰が上がらない。
流されるままに生きてきた。これからもきっと、そうなのだろう。
「ん、そのキャラは何?」
そこで新しいキャラの発注書を見つけた。
ヒカリちゃんのVは神籬ホトリという神様を崇拝する巫女ファッションの女の子だ。けどもう一人は明らかにその対となる神を模したような衣装で、性別は不詳の神秘的な存在だった。似合わない熊耳をつけてるところが唯一のチャームポイントか。
「あ、見つかっちゃいました? これはですね。先輩です」
「僕? 僕はひじり君の中の人でしょ? 二役やるの?」
「いえ、ぬいぐるみに封印されてる神様って設定です。ひじり君は能力を制限されてる状態ですね」
「あー、そういう系? 巫女なのにぬいぐるみを助手にしてるのはおかしいと思った」
「そういう系です」
不思議ちゃんか!
ニコニコしてるヒカリちゃん。
ほんと前の会社でも美人で有名だったもんなぁ。
どうして僕なんだろう?
そういえば僕とヒカリちゃんが仲良くしてるのを知ってから大塚君がちょっかいかけてきた気がする。お前には不釣り合いだ! 今すぐ望月さんを解放しろ!
だなんて僕が悪い男みたいにいうんだ。
まぁ世間一般では僕と大塚のどっちが好みの男性像なのかは比べるべくもない。
「まぁ、大丈夫。それで、その状態のキャラ名はなんてつけるの? ひじり君のままではないでしょ?」
「実はもう決めてまして……ヤリコミノミコトって」
「まんまじゃん! まんま僕じゃん! ヤリコミノミコト、封印バージョンがひじり君って! まんま僕だよね?」
「はい」
あー、もう可愛いなー。その笑顔ずるいよ。
何も否定できないじゃん。
「でもですね、先輩の高度なレシピは助手が言うのと神様が言うのでは世迷言かそうじゃないかがハッキリします」
「つまり僕が新しい解釈を入れたレシピを発表するときに都合よく封印が解けるの?」
「お、流石ですね! そんな感じで行こうかと」
「僕の為にヒカリちゃんはどうしてそこまでしてくれるのさ?」
「恩返し、じゃダメですか?」
「僕、君に恩を与えたことあったっけ?」
「ありましたよ!」
全く覚えてないんだけど。どれだろう?
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