第6話〝大塚晃〟の思い込み
クソクソクソクソ!
一体どうしてこうなった!?
俺がどうしてこんな手を煩わせられる!?
槍込のバカが勝手に会社を辞めたお陰で、俺達はノルマに追われていた。
社長は現場を知らないから簡単にものを言う。
一つの部署に50人。
だからノルマも週に5000とした。
一人100個。一日15個品質Cの商品を作れば良かった。
しかしそれは槍込の品質Sポーションがあったから可能だった。
品質Fの低品質エクスポーションに、あのポーションを混ぜれば品質Cとして偽装出来ていた。
製作難易度80のレシピであるエクスポーションは、作られるものが限られている。この中で唯一作れるのは俺か、部下の峰君ぐらいだ。あとは中間素材の制作にかかりきっていた。
そのうちの何人かはポーション制作部署に回された。
正直、今まで散々ポーションを舐め腐っていたのでポーションそのものは作れるが、品質をあげようとすれば失敗が多発した。
今になって高品質は難しいだなんて泣き言は聞きたくない。
誰でもできるんだろう? だったらさっさと高品質を作れ!
ちなみに俺も挑戦したが、せいぜいCが精一杯だった。
俺が参加すればポーションのノルマは終わるが、自分の部署を優先した。
「主任、たった二人で週5000は厳しいです」
「だがやるしかないんだ! 今までできていたんだからな!」
槍込はたった一人で二万を捌いていた。
あいつにできて、俺にできないわけないんだ!
俺はエリートなんだからな!
今更できませんは通用しない。そう言う社会だ。
他人の失敗を両手をあげて喜ぶ連中の巣窟だ。
自分はうまく立ち回れているつもりでいたが、ここにきてこんな目に遭うなんて!
つい先週、昇進祝いで浮かれたばかりだ。
祝ってもらって有頂天になって、調子のいいことも言った。
だからできないとは言えないのである。
「鷹取、お前のところのスタッフを回せ!」
搾取仲間の部署に行っては、催促をして回る。
「無理だ。俺のところだって品質の悪い万能薬しかできてないんだ! お前の方が熟練度は高いんだぜ? 大塚」
「くそーーー!!」
罵り合い、怒号が研究室に響き渡る。
いつもならスタッフを誘って優雅にカフェでもしていた頃だ。
どうしてこうなる?
槍込のポーションさえあれば……そこに自分たちの出来の悪いポーションを混ぜるだけでノルマは終わるのに……どれだけ待ち望み、何回部署に顔を出してもあいつの姿は見当たらなかった。
当たり前だ。あいつはもう会社を辞めている。
あいつが自分から辞めるなんて絶対に言わない。
そう教育してきたからな。
だからどうしても引っかかる。
あいつがどうやって錬金術を諦めたか。
それだけが疑問だった。
そこでどこかで聞いたことのある声が聞こえてきた。
部下の峰君のパソコンからだ。
『初めましての方は初めましてー! 新人Vtuberの神籬ホトリでーす。今日はですねー、これ! ポーションの品質上昇のコツなんかをお伝えしていきます。では助手のひじり君! お手伝いよろしく』
『ん!』
そこでは装飾過多のアニメ調の女が、よく通る声で錬金術を題材にしたおままごとをしていた。本職の人間が、そんなお遊びによく向き合えるな、と侮蔑の視線を送った。
「おい、何を聞いてる? 遊んでる暇はないぞ?」
「息抜きくらいいいでしょう? それにこの人、錬金術に精通してて結構有益な情報を拾えるんですよ。主任は見てないんですか?」
「そう言うのは大袈裟に言ってるだけだろ? 俺は姿を隠して話す奴が嫌いなんだ」
「まぁ、良いですけど」
峰君も無理に取り合わないと決めたのか、話を切ってイヤホンに耳を傾ける。
完全に休憩モードだ。
俺の方は今日のノルマをなんとかこなす。
品質は総じてD。ここまではできるんだ。
Fだった頃に比べて努力の限りをしてもこれだ。
だがCにしようとするには明らかに素材の品質が悪すぎた。
「おい! ポーションは出来たか!」
ポーションの品質Sさえあれば!
そう言う気持ちでポーション部署に通う。
スタッフは全員ぐったりしていた。
ノルマはそこまでキツくはないが、品質を揃えるのが大変だと言わん顔だ。
お前らはいったい今まで何を学んできたんだ? と小突きたくなる。
なんとかノルマは終わっていた。
が、品質Cに混じってDやE、Fなんかも混ざっていた。
BやAはもってのほか。Sなんて探したところでみつかりもしなかった。
それもそのはず、品質Sなんて市場には流れてこないのだ。
たまたま作れる職人が同期にいた。
そいつの仕事を奪って自分の出世に使った。
全て槍込聖がいたから出来たことだ。
己は所詮この程度であると言われた気がして、怒りが限界を迎えた。
ガン!
壁が軋むほどに叩きつけられた拳に、ポーション部署のスタッフ全員が萎縮する。俺は自分を棚に上げ、第二の槍込聖育成計画を実施した。
そんな才能、在野に転がってるはずもないと知りながら。
何かに縋ることしかできずにいた。
「たかがポーション一つ満足に作れないで何が不満だ? 元の部署に戻りたければ品質Sくらい出してみろ!」
そう叱咤して、俺は部署へと蜻蛉返りした。
部下の峰くんは定時だからと退社していた。
くそーーーー、仕事が終わってないんだから残れよーーーー!
これじゃあ俺が帰れないだろーーー!
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