第5話〝望月ヒカリ〟の野望
あれは今から13年前。
私が両親の反対を押し切って三流大学の探索科を受けた時のことまで遡る。
当時の私は向こう見ずで、人の善性を信じ切った先で裏切られた。
新歓コンパでよくしてくれた先輩達は、最初こそちやほやしてくれたのに、イレギュラーの出現と同時に囮にされ、私は命の危機に瀕した。
そこで私の命を救ってくれた相手が先輩、槍込聖だった。
「あれ、こんな場所にどうして人が?」
「助けてください! 私、置き去りにされて!」
イレギュラーであるミノタウロスはAランクに相当するモンスターだ。
まだ駆け出しもいいところのEランクには荷が重く、中でも可愛さだけでパーティメンバーに参加した私はお荷物もいいところだった。
だから囮にされた、助けてくれと叫んでも、どこか他人事のように惚けるばかり。変人の類か? 気づいた頃にはミノタウロスがすぐ背後まで迫ってきていた。
「ねぇ、今僕この子とお話ししてるんだけど。静かにしてくれる?」
「ブモォオオオオオオ!!」
もちろん会話が通じることなんてことなく、握りしめた棍棒がその人に向けて抜き放たれた。
躱すことなく、ポケットから出した何かを投げつける。
そのあと私をうつ伏せに倒して身を伏せた。
カッ!
眩い閃光がダンジョンの小部屋を焼き尽くしたあと、大量の爆発音が聞こえた。
あんなに近距離で爆発を受ければ私の体は砕けてもおかしくないというのに、不思議と無傷のままでいられた。
「よし、やり過ごしたな」
煙が晴れたあと、男の人が立ち上がって周囲を見回す。
「もう大丈夫だよ。起き上がってきて」
「え? ええ……」
そこは手を差し伸べてくれるところではないのか?
そんな気でいたがなんとなく察する。
彼がひどく女性と距離をとっていることに。
先ほどミノタウロスが乱入してくる時も、どこか遠くから声をかけてきた気がしていたが、どうも気のせいではなかったらしい。
「あの、助けてくれてありがとうございます!」
「うん、それは何より。じゃあ僕はこのあと採掘あるから。一人で帰れる?」
?!
話が理解できずに聞き返す。
「あの、私ここにくるまでお荷物で、全然足手纏いで」
「それは僕に関係ないことだよね?」
「でも、私のジョブは錬金術で、戦闘には全く役に立たないんです!」
そう言うと、その人は顎に手を乗せて訝しんだ。
「え?錬金術師が戦力外とか何言ってるかわからない」
「だって! ポーションしか作れませんし、戦闘スキルとか持ってませんから!」
それは散々身に摘まされてきた事だ。
サークルの先輩はモンスターを傷つける力、傷を癒す力、攻撃をいなす力を持っていた。ポーションは確かに傷を癒すが、品質ばかりは魔法と違って安定しない。なのでダンジョンを巡りながらのポーション製作でメンバーからすっかり信用をなくしていた。
だと言うのにこの人は、錬金術師が戦えるみたいに言う。
「ええと、僕も錬金術師だけど普通に戦えてるよ」
「どうやってですか!?」
私はその日から、今まで見たこともない錬金術の深淵を見せてもらった。
「え、こんなレシピ知らない」
「まぁ、僕が見つけたやつだし」
なんて事のないように、語る。
「あれ! 私の炸裂玉、先輩ほどの威力出ません!」
「ほかの人と比べた事なかったからなぁ……もしかして熟練度が関係してるのかな?」
「じゃあいっぱい錬金すれば威力上がりますか?」
「かもね」
先輩はどこかよそよそしくて。私がそばに行っても他人のふりをした。
私と一緒にいるのが気に食わないとかそうじゃなく、ただ女性を苦手としてるようだ。
私は全然気にしてないのに、やっぱり私は避けられてる感じがしてならなかった。
それが悔しくていっぱい綺麗になって誘ったのにより距離を取る。
それは私にいつか振り向かせてやると言う目標を掲げさせた。
でもそれ以上に、あれから錬金術を打ち込んでるのに全く先輩に熟練度が追いつく気配がない事。
興味本位で聞いた時、耳を疑った。
「え、熟練度? 最近90になったとこだよ。おかしなことを聞くね」
世界最高峰と謳われた魔導具技師、ローディックが熟練度120としてもてはやされたと記憶に新しい。
御歳60で至った領域。そこに土足で踏み込んだ期待の新人。
それが私の先輩像だった。
………だと言うのに、勤続時代の先輩は一切の才能を開花させることなく、同期の研究員に搾取されていた。
誰も彼もが先輩の凄さに気づかない。
いや、気づいていてそれを奪い取っているのだ。
容姿が悪いのはそんなに問題だろうか?
清潔面も、確かに悪い。第一印象は少しお近づきになりたくない風体だ。
でも先輩が作るポーションは誰よりも品質が高く、弊社は『品質』の大手と業界で持て囃された。
その成果だけを奪った同期研究員を私は許さない!
だからこれは大手製薬と、同期研究員に向けての復讐だった。
もちろん、先輩の手を煩わせはしない。
相手が勝手に自滅するように仕向ける。
その計画は、すでに進行していた。
あの会社は先輩のポーション製作速度で成り上がっていた。
そこから先輩を引き抜いた時点で、復讐の80%は済んでいた。
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