第2話


 庭を挟んだ縁側から、初老の女が顔を出した。


 私が軽く会釈すると、間もなく玄関から女が出てきた。


「すいません……」


「はい」


「つかぬことをお尋ねしますが、この辺に髪の長い少女はいますか?」


「この辺て、この坂を下りたとこにですか?」


「ええ。……たぶん」


「たぶんて、どう言うこと?」


「実は……」


 私は急いでケータイを出すと、例の画像を見せた。


「この子なんですけど」


 女はエプロンのポケットから取り出した眼鏡をかけると、私が指差した箇所を凝視した。


「こ、これは、りっちゃん!」


 女は目を丸くしていた。


「りっちゃん?」


「私の同級生よ」


「いえ。……少女です」


「だから、驚いているのよ。りっちゃんは40年も前に亡くなってるもの」


「エーッ! この写真、昨日撮ったんですけど」


「……お盆が近いから帰ってきたのかしら」


 女はりっちゃんを懐かしむように、遠くを見ていた。


「あ、よかったら、お茶でもどうですか? りっちゃんの写真もゆっくり見たいし」


 そう言って、女は柔らかい笑みを浮かべた。




 麦茶を頂きながら、児島さんの話を聴いた。


「なかなかの別嬪べっぴんさんでね。勉強もできたけど、性格もよかった。優しくて、みんなから好かれてた。……あれは、40年前の今時分。両親が留守だった。――




 ――庭の見える居間で白いワンピースのりっちゃんが死んでいたのを、帰宅した父親が発見したの。乱暴されて、首を絞められて殺されていた」


「エッ! 殺されたんですか?」


 予想外の展開に私は驚いた。


「……え」


 児島さんは、ため息まじりの返事をした。


「誰に殺されたんだろね――」


「えっ! 犯人、捕まってないんですか?」


「検挙率ナンバーワンと称される割には、日本の警察は大したことないね。……40年も前じゃ、もう犯人を捜せないだろうな……」


 児島さんは残念そうに項垂うなだれた。


「児島さん、一緒に犯人を捜しませんか?」


「エッ! 捜す?」


 児島さんが目を丸くした。


「りっちゃんが私の撮った写真に写ったのは、きっと、犯人を捕まえてほしいからではないかと。児島さんの話を聴いて、そう思いました。だから、私と児島さんを会わせた。そんな気がするんです」


「……そうかも知れないね。けど、どうやって捜すの?」


「同級生だったんでしょ?」


「ええ。幼馴染みで同級生」


「だったら、りっちゃんについて知ってることを全部教えて」


「よっしゃ、分かった!」


 児島さんは、決心するかのように、力強くうなずいた。




 児島さんの話をメモると、電話番号を教え合って腰を上げた。


「あ、そうだ。今日は花火大会があるんだわ。一緒に見に行かない?」


「見たいのは山々なのですが、これでも主婦の端くれなんで、夕食の支度をしないと」


「そう? 残念だわ。いつでも遊びに来てね」


「ありがとうございます」




 帰りの電車の中で、児島さんの話を書き留めたメモ帳を開いた。


・りっちゃん=戸田律子

・美少女

・勉強もでき、性格もよかった

・優しくて、皆から好かれてた

・40年前の8月×日、14歳の時に暴行され、殺される

・死因は首を絞められたことに因る窒息死

・現在入院している児島さんのご主人もりっちゃんの同級生




 暴行されたと言うことは、犯人は男。この、同級生という活字が気になるな。美少女なら男子生徒にモテモテだろうし、その中の誰かが抑えきれない感情のままに事に及んだ可能性もある。


 しかし、犯人が捕まってないと言うことは、全員にアリバイがあったのだろう……。


 アッ! 肝心なことを聞き忘れてた。


 りっちゃんの両親はその後どうしたのだろう……。

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