第32話:神殿見学
ホウオウさんの案内で神殿の中に入ると、天井の高い広々とした空間が目に飛び込んできた。
きっと火を纏った鳥の姿のままでも暮らせるようにと、意図的に神殿の天井を高くしているに違いない。
その分、人の姿で移動するのは大変だと感じるほど、見た目以上に広々とした構造になっていた。
「外観を見た時も思いましたけど、意外に綺麗なんですね。妖精と王族しか入れないと聞いていたので、失礼ながら、手入れが行き届いていないものだと思っていました」
「俺は綺麗好きなんでな。もっとも、大したことはしていないが」
そう言ったホウオウさんは、口からフーと炎を吐いて、床に落ちていたであろうホコリを燃やしていた。
「不要なものを浄化している。これくらいは造作もないことだ」
汚らわしいものは浄化したいという、職業病みたいなものかもしれない。
ホウオウさんは汚れが気になるみたいで、ホコリを見つける度に炎を吐き、何度も神殿を浄化していた。
襲われた時には気づかなかったけど、その炎に金色が混じっているので、浄化の炎を出しているんだろう。
炎から熱を感じないのも、神殿の中が綺麗なのも、外観が真新しい印象を抱いたのも、浄化の力が宿った炎によるものだったのだ。
もしかしたら、燃やしているのもホコリではなく、小さな瘴気や邪気なのかもしれない。
ホウオウさんが雑巾で掃除している、とかじゃなくてよかったよ。ピカピカになるまで磨いていたら、危うく妖精のイメージが崩れてしまうところだった。
妖精さんの仕事は大変なんだろうなーと思いながら、ホウオウさんの後をついていくと、一つの部屋に案内される。
床に魔法陣が描かれていて、煌びやかな炎に囲まれたその場所は、神聖な気で満ちていた。
「この部屋に各地で発生した瘴気や邪気を集め、浄化作業を行なう」
「ほえ~……」
「おおー……」
思わず、エマと一緒に感嘆の声が漏れ出てしまう。
安易に部屋に入ってはならない……というより、神聖な場所すぎて、足が踏み込めないような印象だった。
私の心が邪な気で満ちていないことを願うばかりだ。
「ホウオウさんは、毎日ここで浄化作業ばかりされているんですか?」
「毎日様子を見に来るが、常に浄化しているわけではないぞ。今日みたいに外で散歩して、気を休める日もある」
「鳥の姿で散歩するにしては、随分と庭が小さいですよね」
「無論、近場で済ませるようにしているが、結界の外にも出るぞ。たまには、大空を飛び回りたくなる日があるからな」
「ほえ~……、そういう形でストレスを発散されているんですね」
「油断すると闇に引きずり込まれるからな」
きっと私が思っている以上に厳しい仕事なんだろう。
祀られるほどの妖精が息抜きするなんて、考えてもみなかった。
「今度はボクも息抜きに付き合ってあげるよ」
「お前は自分が遊びたいだけだろ」
息抜きしか考えていない妖精もいるみたいだが。
浄化の部屋を後にして、ホウオウさんが次の場所に案内してくれると、そこには大きなお風呂が二つもあった。
一つは、日本にもよくあるヒノキのお風呂。もう一つは、水深数メートルはあるほどの大きなお風呂である。
きっと火を纏った鳥の姿まま、お風呂に入って身を清めたいんだろう。お湯に浸かったら、火が消えないのかどうか気になるところだ。
そして、エマとノエルさんがお風呂に入らない生活をしていたくらいなので、どれだけこの施設が優遇されているのか、よくわかる。
こういった大浴場は珍しいのか、エマがシルフくんと一緒に近づいていった。
「思ったより熱い。……うん、普通に熱い」
「ホウオウのじいちゃんと一緒に風呂は入らない方がいいよ。絶対に熱い湯にしてくるんだから」
火の妖精だから、熱いお風呂が大好きなんだろう。
この神殿を建設した人たちは、ホウオウさんにのんびりと暮らしてもらおうと、頑張って建てたに違いない。
「とても豪華なお風呂ですね」
「自慢の大浴場だからな。ここで毎日の疲れを癒すことが、最高の幸せなんだ」
「ああ~、わかります。お風呂に入るとスッキリしますもんね」
「ああ。寒い時期に入る朝風呂もたまらんぞ」
「急に親近感が湧いてきましたよ。そういう感覚は人に近いんですね」
シルフくんも感覚は人に近い部分が多いし、きっとホウオウさんもそういう感じなんだと思う。
「ちなみに、火を纏った鳥の姿のまま湯船に浸かったら、どうなるんですか?」
「別にどうにもならんぞ。湯が水蒸気になり、部屋の湿気が高まる程度だ」
どうやら纏っている火は消えないみたいだ。自分の意思で浄化の炎にしたり、普通の炎にしたり、もっと特殊な炎にしたりできるのかもしれない。
魔界の炎とか出きないのかな、と思ってしまうあたり、異世界で中二病が発症した気がする。
さすがに大浴場を堪能させてもらうわけにはいかないので、その場を後にして、神殿見学ツアーが再開した。
最初こそ誤解があったものの、なんだかんだでホウオウさんは私たちを受け入れてくれている。
神殿で過ごす妖精の生活を見せてくれて、エマと一緒に楽しませてもらっていた。
「他にも、寝室や客室はもちろん、食堂もあるぞ。まあ、寝室以外は滅多に使わないスペースだがな」
そう言ったホウオウさんに案内されたのは、広々としたものの、やけに天井の低い食堂だ。
いくつも木で作られたテーブルと椅子があるのは、大勢の人が過ごすような形で作られている。
鳥の姿ではなく、人型で過ごすことを前提……というより、人間が使うことを想定しているように思えた。
「王族しか来ないはずなのに、大きな食堂やいくつもの客室があるんですね」
「神殿を建設した時の名残だ。当然ではあるが、ここは俺が建設したものではなく、当時の民の手で作りあげたものだからな」
「ほえ~……。それはどれくらい前の話なんですか?」
「そうだな。もう三千年ちかく前になる、か。あの頃はまだ結界も張っていなくて、大勢の者が出入りしていた。よくここで飲み食いしていたものだ」
当時の人たちは、こんなにも大きな神殿を建てたいと思うほど、ホウオウさんを敬っていたのか。
その影響もあってか、ホウオウさんは神殿に一人で暮らし、この国を守り続けている。
結界があるから仕方ないとはいえ、昔は多くの人と親交が深かったと聞かされると、何とも言えない気持ちになってしまった。
ホウオウさん、寂しくないのかな。大きな役割を果たしているだけに、さすがに……本人には聞くに聞けないや。
でも、今日は少ないながらも、私たちがいる。
ホウオウさんの信仰者とは言えないけど、気心知れたシルフくんも一緒なら、楽しい時間を過ごせるはずだ。
よって、私はホウオウさんに一つ提案をしてみることにする。
「せっかく大きな食堂があるのなら、一緒にごはんを食べませんか? 実は、ホウオウさんと打ち解けるために、貢ぎ物を用意してきたんですよね」
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