第18話:ノエルさんとエマに服を買ってみた
午前の営業が終わると、我が家の台所ではとても華やかな光景が見られている。
昨晩のうちにネットをポチポチして、ノエルさんとエマの私服を注文しておいたら、早くも届いたのだ。
サイズを確認するために、早速、二人に着替えてもらっていた。
「見てみて、あなた~。胡桃ちゃんに買ってもらったのよ」
「よかったな。相変わらずノエルは何を着ても綺麗だ」
付き合い立てのカップルかよ、と思いつつも、言い返す言葉が見つからないほど、ノエルさんは綺麗だった。
大人っぽい黒のロングスカートと爽やかな白のトップスに身を包み、清楚な女性でありつつも、色っぽい。嫉妬するのがおこがましいと感じるほどには、美人だった。
一方、チェック柄のミニスカートと黒のトップスに身を包むエマは――、
「クマさんのスリッパ……!」
自分で子供だと言い張るだけあって、クマさんのスリッパに目を輝かせている。
あまりの可愛さに、クマさんのスリッパを抱きしめて喜ぶ姿さえ絵になるのは、ちょっとだけ悔しかった。
張り合っても仕方ないことだけど。
エマはどんな服でも着こなしてしまいそうな可愛さを持っているため、着せ替え人形にしてみたい気持ちがある。
カジュアルなガーリーコーデはもちろんのこと、ゴスロリのお嬢様コーデや大人っぽいエレガントな服装など、いろいろな服を着せてあげたかった。
「クマさんのマグカップ……!」
なお、本人はファッションよりキャラクターものに思いを寄せているが。
最初は生活用品で出費がかさむけど、日本に来たばかりだと思いだから、ちゃんとしたものを買ってあげたかった。
服も靴も下着も……生活の質、いわゆるQOLに関わるものは奮発している。
その結果、カード会社から不正利用を疑う連絡が来るほど、財布にとんでもない打撃を食らっていた。
今年は季節が変わる度に服を大量買いしなければならないと思うと、さすがに手が震えてくるよ。
まあ……私が異世界を楽しむのと同じように、ノエルさんとエマにも日本を楽しんでもらいたいから、これは必要な出費だと割りきっている。
二人をコーディネートしたら、私にもメリットがないわけではないし。
「お父さん。ちょっと二人を連れて昼ごはんを買いに行ってくるから、留守番をお願いしてもいい?」
うわあーーー! 誰かと買い物に行くなんて、二年ぶりだよ!
荷物も分担して持てるし、普通に楽しみだね!
「まだ二人は日本に慣れていないから、近場で済ませるんだぞ」
「わかってるよ。留守番のついでに、調理場のごみ掃除もよろしくね」
ノエルさんとエマに帽子を被せて、エルフ耳を隠した後、三人でスニーカーを履いてお出掛けする。
さあ、見よ! 近代的な日本の光景を! と、エマに自慢しようと思っていたのだが……。
初めて日本の街並みを目の当たりにするエマは、なぜかビクビクとしていて、私にしがみついていた。
「思った以上に世界が違う。道がしっかりしすぎ」
「本当にそうよね~。文明がとても発達していて、異界に来たんだと強く実感するわ」
ノエルさんはお父さんと日用品を買いに行ったと聞いているから、驚いた様子はない。
エマをなだめるほど余裕があり、純粋にお出かけを楽しんでいる様子だった。
「ママ、あれ見て! 近代兵器が、こっちに向かってくる……!」
「大丈夫よ。あれはこの世界の馬車みたいなものだから」
車が一台通っただけで、この騒ぎである。
なお、エマは車から隠れるように私を盾にして、この場をやり過ごしていた。
「馬車が兵器化しているなんて、恐ろしい世界。殺気が感じられないから、視覚と聴覚で察知しないと……やられる!」
中に人が乗ってて、運転しているから大丈夫だよ……と、言ってあげたい。
しかし、交通事故の可能性を考慮すると、あながち間違っていない発言なだけに突っ込みにくかった。
ここは同じ価値観を持つ母親のノエルさんに任せよう。
「エマ、いいこと? 胡桃ちゃんに隠れていないで、もっと敵の動きを観察しないとダメよ。あの馬車は小回りが効かないし、単調な動きしかできないの。スピードもイマイチだから、兵器としては三流。サンダーバードの方が難敵よ」
確かに、異世界で見た電気をバチバチと放電させていた大きな鳥と比べたら、車は可愛いものである。
思わず、隠れることをやめたエマも、強気な表情になっていた。
「そっか、サンダーバードより弱いのか。私の敵ではないな。よしっ、次はちゃんと狩ろう」
「ちょっと待って! 車は敵でも兵器でも魔物でもないから、倒しちゃダメだし、この世界で魔法は禁止だよ」
クスクスと笑うノエルさんは、エマをからかうくらいの余裕があるみたいだ。
しかし、肝心の当の本人はよくわかっていないみたいで、ポカーンッとしている。
この感じだと、徐々にならしていかないと、大きなトラブルを起こしかねない。
近所のスーパーに行ったら、間違いなくパニックに陥り、エマが魔法で破壊神と化するだろう。
だって、駐車場には車ばかりだし、大通りも通らなきゃいけないから。
それなら……と思い、道を変更して歩き進め、私は近所のパン屋さんへ向かうことにするのだった。
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