第17話 研修最終日
ヘッドホンを耳に当て、パソコンへ向かう。
こんなに装備が必要なのかと思いながらも肩からサコッシュをさげ、その中に飴玉を入れる。
「準備ができたらこの待機ボタンを押してください。こちらが緑になったら受電可能の合図です。もしもわからないことがあれば、すぐに保留ボタンを……」
「あ、あの……」
「はい」
いろんな不安要素ですっかり忘れていたけど、コールセンターの職員としての業務も初めてだったということを今更ながら思い出す。
「緑のボタンになったら、す、すぐに電話は入ってくるんですか?」
ただでさえ、お客さんと電話なんてしたことがなくてドキドキしているのに、さらにそれがまたファンタジーのトラブルに関する内容かと思うと、どんな意見が飛び込んでくるのかと不安でしかない。
「入電があるとプーッという音がしますので、その音の後にマニュアルに沿ってお話いただければと」
(ぷ……プーッという音?)
マイクを装備し、こうしてプロの声優さんたちは本番に望むのだろう。
緊張感は近しいものかもしれないけど、どうにもバンジージャンプを許容されて飛び込み台に立たされている気分だ。(もちろん、体験したことはないけど)
「大丈夫です。相手は創作物相手なので、普通のコールセンターよりは砕けてお話できるので気負わず、まずは慣れていただければと」
さ、サラッと言ったけど、相手は創作物って……いろんな意味で気負ってしまう気がするのだけど。
女は度胸!
母がよく言っていたけど、そんな問題じゃない。
声にならない声で小さなうめき声をだしながら、わたしは顔を上げた。
(よしっ!)
うじうじしていても始まらない。
守るべきものがある限り、前を向かないと!
ぐっとこぶしを握ったとき、ヘッドホンの奥でプーというくぐもった音が耳に届いた。
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