第4話

 宏人が部長に花音との関係について聞かれていた頃、花音は部活終わりにそのまま先輩と一緒に(というか半ば強制的に連れていかれる形で)学校の近くの喫茶店に来ていた。

「そういえば、寺原さんって、好きな人とかいるの?」

 しばらく部活のことや勉強のことについて話した後、先輩の1人が花音に聞いた。

「えっ!?ど、どうしてそんなこと聞くんですか!?」

「別にどうってことないけど……もしかしなくても、その感じは図星?」

「えっと……その……」

「別に隠さなくてもいいんだよ?私だって気になってる人いるし」

「……」

「それじゃあ、誰かは言わなくていいから、いるかいないかだけ、教えて?」

 そう言われると、花音は顔を赤くしながら小さくうなずいた。

「本当に⁉」

「……はい……」

「さすがに誰かは……」

 花音はそう言われると、ものすごい勢いで首を横に振った。そんな花音の様子にその場は笑いに包まれた。

 その後は他愛もない話が続き、一時間ほど経って、ようやく花音は家路に就いた。駅に着いたところで、花音はスマホをポケットから取り出すと、宏人とのメッセージ画面を開いた。

『さっきは、色々取り乱しちゃってごめん』

 花音は宏人にそう送ると、小さくため息をついてから電車に乗り込んだ。

 * * * 

 宏人は花音からのメッセージに気付くと、すぐに花音にメッセージを送り返した。

『気にしないで』

 そう送ったところで、宏人の手が止まった。

(やっぱり、部長に気付かれてたってこと、伝えないほうがいいかな……)

 宏人が考え込んでいると、花音から返信が届いた。

『誰かに、何か言われなかった?』

(あっ、終わった)

 宏人は内心一瞬絶望した。しかし、すぐに宏人はメッセージを入力し始めた。

『部長にはなんとなく気付かれてる感じだったけど、多分大丈夫だと思う』

 そう返信すると、宏人は部長とのメッセージの画面を開いた。

『さっきの話、マジで誰にも言わないでくださいね?』

 そう送るとほぼ同時に、また花音から返信が届いた。

『私のせいで、杉山君に迷惑かけちゃって……本当にごめん……』

 それを見た宏人は、少し悩んだ後、再びスマホを手に取った。

『こっちは大丈夫だから、気にしなくていいよ』

 そう送って、花音から返信が来なくなったことを確認して、宏人はスマホを机に置いた。

 * * * 

 月曜日、宏人は駅で花音を待っていた。

(寺原さん、やっぱり落ち込んでるのかな……)

 そんなことを考えていると、宏人のスマホが鳴った。

『ごめん。今日ちょっと遅れそうだから、先に行ってて』

 そのメッセージを見た宏人は、ゆっくりと学校に向けて一人で歩き出した。

 結局花音は遅刻ギリギリで教室に入ってきた。宏人は花音に話しかけようとしたものの、花音の方から宏人を避けるような様子を見せた。

 結局、その日宏人は花音に話しかけることができなかった。

「あれ、今日は宏人、帰り一人なん?」

 帰りの挨拶の後、裕樹が宏人に話しかけた。

「……ま、まあ……。それがどうかしたのか?」

「いや、最近いつも寺原さんと一緒に帰ってただろ? それなのに今日は一人だから、寺原さんと何かあったんかなって」

「べ、別に寺原さんとはそんな特別な関係でもないし、部活が一緒ってだけで一緒に帰ってるってだけだから――」

「ま、そういうことにしておくわ。じゃ、部活行ってくる!」

「はいはい」

 裕樹が教室を出ていくと、入れ替わるようにして博が宏人の隣にやってきた。

「裕樹は宏人が寺原さんと付き合ってるって本気で思ってるみたいなんだよな~」

「まあそう思われてもおかしくない行動してるからな、最近」

「それで、実際のところ寺原さんとはどういう関係性なわけ?」

「……確かに仲はいいかもしれないけど、部活が一緒ってだけで、それ以上でもそれ以下でもないって感じだけど?」

「ふーん。で、本当はどういう関係性なわけ?」

「RPGの決まった選択肢選ぶまでループするイベントみたいな話し方やめろ」

「ごめんごめん。でも、なんか宏人と寺原さんって、普通の友達じゃない感じがするんだよね」

「……というと?」

「いや、言語化するのは難しいんだけど……、なんとなく、普通じゃないってのは伝わってくるんだよね」

「……」

「ま、これ以上は話してくれないってのはなんとなくわかるから話はここまでにして、久しぶりに一緒に帰らん?」

 博は宏人の口から付き合っていることを吐かせることを諦め、二人は家路に就いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る