第3話
宏人が花音との関係を周りには秘密にすることを提案した翌日、2人は部活を終えた後、いつものように一緒に駅まで歩き、それぞれ家路についた。
「お兄ちゃん!おかえり!」
宏人が自宅の玄関のドアを開けると、宏人の妹――杉山凛が元気な声で宏人を出迎えた。
「ただいま」
「お兄ちゃん!テストの結果返ってきたんだけど、この成績ならお兄ちゃんと同じ高校行けるかな?」
「えーっと……まあ去年の俺より成績いいから、これなら大丈夫じゃないか?」
「ほんとに!?」
「ってかもっと上を目指そうとは思わないのか?」
「うん!」
「即答かよ」
「だってお兄ちゃんと同じ学校行きたいし~」
「相変わらず俺以外を好きになるつもりはないのか?凛はスタイルも良いし学校でも結構モテてると思うんだけど……」
「確かに結構告白されることは多いけど……でも、みんな私の中ではお兄ちゃんより下だから、全部断ってるの。私はお兄ちゃんより好きになる人としか付き合わないって決めてるんだから!」
「そんなこと言ってると一生彼氏できないぞ」
「お兄ちゃんに言われたくないんだけど?まあ私はお兄ちゃんに彼女ができない方がいいんだけどね!」
「はいはい」
すっかりお兄ちゃん愛を爆発させる凛をなだめながら、宏人は、
(……うん、とりあえず寺原さんとビジネスカップル的な感じで付き合い始めたことは凛にも秘密にしておこう)
と決意するのだった。その一方で、宏人が花音と付き合い始めたことを少しも知らない凛は、
(お兄ちゃんと同じ学校に通って、もっとお兄ちゃんに私のこと好きになってもらうんだから!だからそのために、これからも勉強頑張らないと!お兄ちゃんは私のものなんだから!)
と兄を独占したいという思いをこれでもかと爆発させていた。
* * *
翌日、文化祭目前ということで文芸部は土曜日も活動することになり、宏人は駅で花音を待っていた。というのも、メッセージアプリの部活グループから花音がこっそり宏人との2人だけのトークルームを作っており、花音が、「寝坊したから少し遅れる」とあらかじめ宏人に伝えたために、宏人は花音を待っていたのだ。
「お待たせ~」
そう言って花音が宏人の後ろから現れると、
「おはよう、寺原さん」
といつものように宏人が返し、そのまま2人で学校へと歩き始めた。
しばらくして花音が、
「まさか杉山くんが私のことを待っててくれるなんて思わなかったよ~」
と言った。
「せっかく付き合い始めたんだし、やっぱり一緒に居れる時は一緒に居たいじゃん?それに最近は毎日一緒に学校行ってるから、なんか寺原さんがいないとちょっと物足りないっていうか、そんな感じなんだよね」
宏人がそう答えると、花音は顔を赤くしながら、
「そうなの?……まあ確かに私も、杉山くんが待っててくれるって返信してくれた時に、嬉しいって思ったけど……」
と小さな声で言い、恥ずかしさからか少し俯いて黙ってしまった。
* * *
宏人達の通う高校では、文化祭は少し特殊な形になっていて、午前は半分のクラスが体育館で各クラスの映像作品を観賞し、もう半分が校舎内の展示などを見て回り、午後はその反対となる。それを踏まえた上で、今日の部活は文芸部の展示の担当シフトを決めることになっていた。しかし、いざその話が始まると、
「とりあえず宏人と寺原さんは同じ時間でいいよね?」
と開口一番に部長が言った。
「えっ!?どうしてですか?」
花音が驚いたような声で聞いた。
「別にどうってことはないけど……ただ同じクラスだから同じ時間に行動しやすいかなってことで言っただけだけど、どうかしたの?」
「いや……そういうことなら、特に問題ないです……」
「本当に?」
「はい……」
「宏人のことが嫌いとかじゃなくて?」
「……そういうことではないので……大丈夫です……」
「そう?それならいいけど」
花音の少し戸惑った様子を少し不思議に思いながらも、部長はそのまま話を進めた。
その後、文化祭当日の担当はすんなり決まり、予定よりも少し早めに部活が終わった。花音が先輩の女子に誘われて(というか半ば連れていかれるような形で)先に部室を出ていったために、1人で帰ろうとしていた宏人に部長が、
「宏人、ちょっと時間いい?」
と声をかけた。
「全然問題ないですけど、どうかしたんですか?」
「いや、別にどうってことはないんだけど、さっき寺原さんが宏人のこと聞かれてなんか動揺してる感じだったから、何かあったのかなって思って」
「……別に何もないですよ?」
「本当に?」
「本当です」
「ふーん。なら別にいいけど」
そう言って何かを察した様子の部長を見て、宏人は花音との関係を察されていることを察した。
「……もしかして、気づいてます?」
「まあ、この間あんな話した直後だし、なんとなくそんなことだろうなと思ったけど、マジで?」
「……寺原さんには、「周りには秘密にする」って言ってるんで、他の人には言わないでくださいね?」
「分かった。で、本当に小説がきっかけなん?」
「だと思いますよ。寺原さんの方から、「ビジネスカップル的な感じ」ってはっきり言われたんで」
「俺もこの間あんなこと言っておいてなんだけどマジで彼女できるとは思わんかったわ」
「それ僕が一番実感してるんですけど。マジで誰にも言わないでくださいね?気付かれるまでは秘密にするって約束してるんで」
「なるほどつまり俺には気付かれたから言ったと」
「まあそういうことですね」
「ま、とりあえず応援しておくから」
部長がそう言ってその場を後にした後、部室に1人残された宏人は、
(……これ寺原さんに伝えておくべきかな……?)
と迷い始めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます