第3話
写真ができるまでの1週間、あの白ぶちの猫を探していたが見つからなかった。なのであまり写真を撮るモチベーションが上がらなかった。適当にその辺の風景を取っては止め、撮っては止め、となんだか苦行に似たようなものに変わってきた。
そんな中、写真が出来上がった知らせがあった。私は気だるく写真を撮りに行った。
カメラ屋に着いて、レシートを渡すと
「こちらのお写真で間違いないでしょうか?」
と言われ見てみると全てAの行動がその場で切り取られた写真だった。
「え?これ間違いじゃないですか?」
と私がいうと、
「え?お客様が渡されたこちらのネガとレシートを合わせますと間違いはないはずなんですが...。」
と店員が戸惑っていた。その時とっさの判断としては
「あ、合ってます。すみません、少しばかり記憶違いでして。ありがとうございました。」
と持ち帰る判断をした。恐らくそれは説明が出来ないものであろうと瞬時に考えた。そしてAの姿が写る写真なんて私が撮る以外に何者もいない。ましてやモノクロの写真なんて。そこで私は思った。
「そうか。あの猫を探せばまだAの姿を見つけられるかもしれないということか。」
しかしここからが難しい所であった。まず猫がどこに現れるかだ。私の勘が確かならAと関わりのある場所に現れるはずだ。その次だが、そのAが関わる場所がわからない。とりあえず原点回帰して高校に行くことにした。生徒の少ない放課後の高校へと向かった。
高校の色んな所を見て回ったが、結局猫は見つからなかった。そんな中、
「ブチー、ブチー?今日はいないのかな?」
と言っている生徒を見つけた。手にはチュールを持っている。何か知っているのかもしれないと思って声をかけた。
「あの、君、この辺で白ぶちの猫を見なかった?」
「あぁ、ブチのこと?」
「あの猫、ブチっていうんだ。普段からこの学校にいるの?」
「うん。この学校にいるけど、南中学校にもいたね。私南中学校出身だから。」
「あぁ、そうなんだ!ありがとう!」
「ん?」
少女は首を傾げた。
今から南中学校へと行こうかと思ったが、これから暗くなるからやめた。そしてあの辺は車が止める場所がないから自転車でいかないといけないな、などと考えながら家で高揚する自分を抑えていた。
翌日。よく考えるとカメラを持ったおっさんが中学校周りに放課後いるのも危険だな、と思った。高校の場合は中藤がいたから変に思われても弁明できるが、この中学校に関しては弁明の余地がない。どうしたものか。と思いながらも夕方に南中学校に向かった。
学校付近の雑貨店辺りに自転車を止めて歩いて校門まで向かうと、中学時代の国語の先生の小林先生がそこにいた。すかさず声をかけて
「小林先生!僕です!川端です!覚えていますか?」
「ああ、川端君!覚えてますよ!いい加減な割に成績がよかった川端君でしょ?」
「ああ、よかった。覚えていてくれてたんですね!ところで先生は南中学校に赴任したんですか?」
「私は今教頭をやってますよ。」
「あぁ、そうか。月日の流れとはそんなものですね。先生もキャリアを積んだんですね。」
「それはそうと川端君はどうしてこんなところにいるの?」
「それがこういうわけで...。」
と私は一連の流れを話した。信じてくれるかくれないかは分からないが取り合えず話してみた。
「不思議な話ね。でも川端君ならありそうな話ね。中学校のときもなんだか川端君って不思議な感じがしてたから。変なところで勘が働いたりしてたから。薄ら寒くなるときもあったわ。でもその猫ちゃんの件ね。私が教頭であっても校内での写真の撮影を許可することはできないわ。辛うじて外から学校周りを写す程度かしら。もちろん生徒は撮っちゃだめよ。」
「分かりました。ありがとうございます。」
しかしこんな馬鹿げた話を受け入れてくれるなんて思ってもみなかった。普通じゃあり得ない話だからだ。猫とAの件。私が小林先生の教え子だったからであろうか。妙な話だ。
そんなことを考えていると校門から猫が出てきた。間違いない「ブチ」だ。ブチはそこから悠然と歩いて行った。所々立ち止まり、振り向いては進み、それを繰り返す。「私を撮って」というAの思念であろうか?しかしAの容姿と比べるとお世辞にも可愛くない猫である。とにかくブチの行くところを全部写真に納めていった。しばらくすると、とある家に着いた。そこはAの家だった。辺りも暗くなったし、これ以上私が立ち入ることは出来ない範囲だな、と思い、私は引きかえった。自転車を置いているところまで戻り、自転車で家まで帰った。なんとなくその日の一日が走馬灯みたいに振り返る。淡々としたなにかしら昨日のまでの高揚感とは違って、言い表せない気持ちになった。なぜだろう?そう思いながら、明日は高校に行ってフィルムの現像でもしようと思った。
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