第2話
「川端、あそこ行くか。」
「あそこ?」
「部室だよ。部室。さっき話したばかりじゃないか。」
「あぁ。あそこね。」
私は高校の時は写真部に入っていた。特に写真について活動していたわけではなく、主にみんなで遊ぶための部活だった。
「今コーヒーいれるな。少し待ってろ。」
と中藤がガスバーナーでビーカーに入った水を温めている。化学あるあるである。
「まだ写真部ってやってんの?」と川端
「いや、もう廃部だ。お前らのあと何代か後に廃部になった。暗室に入ってみ?多分埃まみれだと思うけど。」
「なるほどね...。どれ。」
川端が暗室を覗いてみた。本当に埃にまみれていた。その中で私が取った一枚を見つけた。
「先生、これって俺がとったライブ先での一枚だよね?みんなでの集合写真。確かなんかのコンテストに送ったってやつ。」
「あぁ、そうだな。それぐらいしかいいのがなかったからな。ほれ、コーヒー。」
他にも探してみたそうするとまだ比較的新しい写真がクリップで挟んで吊り下げられていた。それはAの写真だった。おそらく沖縄かと思われるところで写されたAの写真がそこにあった。
「ありがとう。先生、これAさんの写真だよね?なんで先生が持ってるの?」
「ああ、これは留年してた中務が持ってきた写真だよ。Aが亡くなった時に私ら職員にも知らせてくれてな。その時の写真の1枚だ。家に持ち帰るのもなんとなくだし、目立つところに置くのもなんとなくだし、その暗室に置くのが無難に保管できると思ってな。」
「そうなんだ。」
Aは私が留学していた時に亡くなった。私は留学して、外国のオープンなマインドに流されて物凄く自信をつけて帰ってきた。自身というか、むしろ欧米ノリとでもいうべきか?とにかく感覚がオープンだった。Aは学校の中で一番可愛い子であり、高嶺の花だった。私が声をかけられる存在でもなかった。しかし留学したことによって私は帰国した後にAと遊ぶということをやりたいことリストに挙げていた。私は何も知らないで帰国した。そして友達に第一報をすると
「お前、Aが亡くなったの知ってるか?」
という答えであった。
あまりにも唐突な答えであり、あまりにも私の中で非現実的な感じだったので私は素直に受け入れられなかった。「そっか。死んだのか。」と頭の中では分かっていても現実ではまだAが生きている感覚が残っていた。
帰国してから2週間後ぐらいに友達のミキちゃんと一緒にAさんの弔問に訪れた。Aさんのお父さんは悲しみをこらえながらも時折ギャグを入れたりして私たちのことまで気を使ってくださった。ミキちゃんは親友だったからなかなかその場から帰られなかった。私が「もうそろそろ...」というまでずっとAさんの思い出話を続けていた。親友が亡くなるということはそう言うことなのか...。改めて私が第三者で客観的に見ているんだな。と思った。
「おい、川端、このカメラとこのモノクロのフィルムでちょっとリハビリで写真でも撮ってこい。現像の仕方は覚えてるか?」
「いや、忘れた。写真か。少しやってみようかな。」
かなり古びたカメラとモノクロフィルム。それらをセットして校内をうろついた。そうしていると白ぶちの猫を見つけた。お世辞にも可愛い猫ではなかった。それを撮ってみようと思って近づいたら中庭の噴水の所で座った。そこで一枚撮った。それから猫は校舎内に入っていって、
「おい待て!そっちは校舎だぞ!」
と言いながら追いかけて行った。追いかけては止まり、追いかけては止まり、その度にシャッターを切っていった。なんだか誘導されている感じだった。
結局猫を追って行くと校内をほとんど回っていた。さすがにまだ部活をしている学生の中には入らなかったが。
「先生、本当にいいリハビリになったよ。もうクタクタ。これは先生がフィルム現像しといて。」
「分かった。暇な時にやっとく。出来たら連絡入れるわ。」
「じゃあもう俺帰るわ。」
「送ってこうか?」
「大丈夫。家近いから。」
両親亡きあと実家は姉が管理している。別にそこに住んでるわけではなく、近所に戸建てで住んでいる。実家を無くすのが嫌だから固定資産税を払っていて、私が無料で住んでいる。ちなみに諸々の資金面もほぼほぼ姉に出してもらっている。
それから数日、家でゴロゴロしながらアルバイトを探していると中藤から連絡があった。どうやらネガができたらしい。そういうわけで部室まで取りに行った。
「お前、この猫好きなんだな。沢山撮ってるじゃん。」
「いや、なんとなくいい被写体がこの猫だったから。」
「そっか。現像はお前が出してこいよ。」
「分かった。」
そういうわけで近所の商店街のカメラ屋にネガを持ち込んだ。1週間程度で出来上がるとのことで、レシートを受け取って帰った。
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