第39話 引っかかりの正体
ジャコビニ流星群。なんか引っかかるんだよなあ。
なんでだろう?
理由は分からないけど、胸にモヤモヤしたようなものが残る。
「俺ちょっと、疑問があるんですけど、いいッスか?」
いいタイミングで、赤い髪の青年が質問した。
これで俺の引っかかりの原因が分かればいいが。
「彗星って飛んでるじゃないですか?」
「飛ん……まあそうですね。太陽の周りをグルグル回ってます」
「公転ってやつッスよね。それは俺も知ってます。地球も同じッスよね。太陽の周りをグルグル回っている」
「はい、それらさまざまな星が太陽の周りをまわって太陽系ができてます」
うん、このへんは俺も知ってる。
てか、この赤い髪の青年、意外と賢いのかな?
視聴者に分かりやすくなるように、ワザとこういう言い方しているのかも。
「彗星も回ってて、地球も回ってる。ようは、お互いが近づいた瞬間に流星群が見られるってことッスよね?」
「はい、その通りです。互いの公転の周期が合い、もっとも近づいた瞬間に、放出された流星物質が地球の大気に衝突し、燃え上がる。それが流れ星の原理です」
ふんふん。このへんも俺は知ってるな。
だから、引っかかりはしない。むしろ納得する感じだ。
「彗星が二個に分裂したんスよね? それ、軌道が変わってどっちかが地球にぶつかったりしないッスか?」
地球に衝突。
たしかに、それは気になるな。
そんなことになれば大惨事だ。
下手したら地球、こっぱみじんじゃねえの?
これか? これが引っかかっていることか?
「ははは。大丈夫ですよ。宇宙ってメチャクチャ広いですから。宇宙から見れば惑星の大きさなんて砂粒みたいなものです。海岸線の端と端の砂粒がぶつかるなんてまずないわけでして。公転が合うことすら非常にレア、ましてやその軌道が重なることなんて、レア中のレアでしょうね」
JAXSOの人の意見に納得する。
なるほど。確かにそうだ。
太陽系の広さから考えれば、惑星など砂粒よりも小さいだろう。
でも、なんだろう? むしろ引っかかりは強くなったような気がする。
レア中のレア……。
これか?
たしか以前に、これに似たフレーズ聞いたことがあるような……。
「むしろ公転の軌道からそれて、彗星がどこかへ行ってしまうことを心配したほうがいいかもしれませんね。ジャコビニ流星群は二度と見られなくなる」
「ほ~、そうなんですね。じゃあ見納めかもしれないッスね」
すっごく嫌な感じだ。
でも、その正体がはっきりしない。
なにか大事なことを忘れているような、見落としているような……。
「すみません、遅くなりました!」
そのとき、とつぜん横から話しかけられた。
見れば、先ほど奥へと走っていった店員だ。
すまなそうに頭を下げている。
「倉庫を確認したんですけど、どうも在庫を切らしているみたいで……」
在庫……。
ああ、そうだった。発電機か。
ジャコビニ流星群の話で頭がいっぱいになってた。
「じゃあ、しょうがないですね」
「申し訳ありません。ですが、かわりにこちらの機種はいかがでしょうか?」
じゃあいいやと諦めようと思ったところへ、店員がなにやらパンフレットを見せてきた。
これも発電機のようだが。
「実は新商品が出てまして。バイオ燃料に対応したものなんですけど」
「バイオ燃料?」
なんか聞いたことあるな。
エコがどうのこうのみたいな話で。
「バイオ燃料はサトウキビやトウモロコシを精製して作った燃料です。
「はあ……」
そんなこと急に言われてもって感じだ。
俺はそこまでエコに興味はない。
「ディーゼルエンジンなんで、軽油、バイオエタノールどちらも使えますので便利ですよ」
「え? 両方使えるの?」
どっちも使えるんだ。
たしかにそれは便利かも。
でも、なあ。
バイオエタノールとか言われても、どこで手にいれるんだ? って話だ。
それに、いま使っているのはみんなガソリンだ。
軽油となると、ガソリン、軽油、二種類在庫しとかなきゃいけなくなるわけで。
それはそれでメンドクサイ。
「今なら、補助金やらキャンペーンやらで半額ですんで、かなりお得です」
「半額!?」
けっきょく半額の言葉にひかれて購入してしまった。
なにやらタンクが大型になるとかで、後日業者が敷地に設置してくれるらしい。
まあ、重いものを持って帰らなくてすむのはありがたいが……。
車を走らせて自宅へと向かう。
だが、俺の頭は衝動買いよりジャコビニ流星群でいっぱいだ。
なんだろう? この引っかかりは。
彗星が地球と衝突する。たしかにそれは心配だけど、けっきょくそういうのって、どこか自分には無関係、おこるはずがないって思っちゃうんだよな。
でも、この
落ち着かない、浮足立つというか、じっとしてられないというか。
ちょっと、考えてみよう。
JAXSOの人はないって言ってたけど、じっさいに彗星が地球に衝突したらどうなるか。
地球に隕石が落下する。
小さいものなら問題ない。よくあることだ。
大きかったら? 地球はこっぱみじんだな。それはどうすることもできない。
じゃあその中間は?
大地に大きなクレーターができるくらいの隕石だったら?
そういや恐竜が絶滅したのって隕石のせいって言われてるよな。
衝突の衝撃が原因じゃなくて、それによって起こる環境の変化に耐えられなかったって。
隕石の衝突により粉塵が空を舞う。それは何十年も空を覆って太陽が届かなくなってしまう。
地表を温めるのは太陽だ。
それで温度が下がって氷河期みたいになった。
恐竜は爬虫類だ。変温動物。体温を自分で調節できない。
だから寒さで絶滅した。
もしこれが今の地球で起こったら?
人間は恒温動物だ。体温は自分で調節できる。
すぐに死んだりしない。
でも、いくら人間だって氷河期みたいな寒さには耐えられない。暖を取る必要がある。石油やガスやらのエネルギーでだ。
さらには、食糧問題だ。
太陽がなきゃ、植物は育たない。
てことはだ。
食料とエネルギー不足がいずれ起こって……。
「あ!」
思わず声をあげてしまった。
そうだ。食料不足、エネルギー不足だ。
足りないとなると、買い占めるやつが出てくる。
いまはどうだ?
食料品もガソリンも値上がってないか?
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