第38話 ジャコビニ流星群

「ヒマだな……」


 居間のコタツでダラダラと過ごしていた。

 秋も終わりに近づき、栽培する作物ももうない。だから、することがないのである。

 畑の拡張、周辺の整備もあるが、それも午前中で終わりだ。

 午後のミニショベル使用権は、ショーグンにあるのだ。


「あいつ、よく飽きないな……」


 ショーグンは相変わらず秘密基地づくりに熱中している。

 すぐに飽きて放り出すと思っていたのに。


「俺が手伝っちゃったのも悪かったか」


 二人で穴が崩れないように木材で補強した。

 ごっついボルトを買ってきて、丸太を組んだりした。

 ドリルだって買った。プロ仕様のお高いやつを。

 ショーグンにねだられたからだ。

 まあ、丸太に穴開けようと思ったら家庭用のやつじゃムリだからな。

 ドリルの長さも、パワーも足りない。

 専用じゃなきゃ話にならないのである。

 しかもだ。電動ノコギリ、サンダー、トリマーまでそろえる本気ぶりである。


「まったく、大工にでもなるつもりか」


 けっこうな出費だ。

 まあ、儲けてるから全然大丈夫なんだけどな。

 ショーグンの取り分から引く形になっているってのもあるし。

 金の使い道としては悪くない。そろえた工具だって、なんやかんや使う場面があるだろう。


 そして、木材もたらふくある。

 森林組合に頼んで切ってもらったのだ。


 デカイ重機とかヤバかった。

 アームではさんでギュインギュイン切っていくのだ。

 切り倒すのではなく、掴んだまま一定の長さで丸太にカットしていく。枝まで落として。

 安全性も効率も段違いだった。


 また、チェーンソーで切っていく人たちもすごかった。

 くさびを打ち込んで倒れる方向を調節していく。その手際は、さすがプロって感じだ。

 俺とショーグンは感心しながら見ていたもんだ。


「SNS見ましたよ。これがマスコットキャラですか。写真のまんまですね」


 森林組合の方はそう言っていた。

 有名になってなによりである。ちょこちょこ写真をアップしていたため、閲覧数も、いいねも今は相当の数である。来年のネットショップの売り上げが楽しみだ。

 ならばついでにと森林組合のみなさまに、作業風景を写真にとってSNSにアップしていいか聞いてみた。

『木を切る様子をながめるショーグン』。それが題名である。

 快く承諾しょうだくしていただけた。

 ありがたい。


 もちろん、ショーグンは動かないマスコットとしてだ。

 森林組合のみなさまにもバレてはいけない。俺が運んできて設置した設定である。


 木を切り倒す様子を見届けるメカ。

 それを背後から撮影する俺。なかなかいい写真が撮れた。


「おい! ショーグン、動くな」


 だが、困ったこともあった。

 ショーグンが森林組合のみなさまが見ていないスキに、ジリジリと距離を詰めていくのだ。

 やめろ、バレるって!

 どうやら木を切る姿に興味がわくらしい。

 少しでもいいポジションをとろうと、移動していく。


「やめろって」


 まるで、だるまさんがころんだみたいだ。

 相手が背を向けた瞬間動く、振り向いたら止まる。

 別の木を切ろうと移動すると、その後をピッタリついていく。

 もし、これで斧でも持っていたら、完全にホラーだ。


 まったく。心臓に悪かったよ。

 ショーグンはドジだから絶対にバレる。そう思ったが、意外や意外、あんがい見つからなかった。

 相手が振り向きそうな気配とかが分かるのか?

 隠れた才能の発見だ。

 かくれんぼとかしたら、けっこう強いのかもな。


 それにしても、こんなことにも興味を持つんだなあ、ショーグンのやつ。

 ほんと、おかしなメカだよ。


「あ、そうだ。発電機を頼まれていたんだっけ」


 そのおかしなメカは、今度は発電機を買ってくれと言っていた。


「ライトがないと、これ以上秘密基地を掘り進めません!」とかなんとか。


 どんだけ掘る気だよ。アリンコにでもなるつもりか。

 まあ、ここまで来たら、とことんやってやろうじゃないか。

 天井に照明とか這わしちまおう。SNSでバズるかもしれんし。

 だったら、発電機だ。

 距離的に自宅から配線を引っ張るワケにはいかない。

 ショーグンの望み通り一台ぐらい買っておくか。震災の備えにもなるしな。


 コタツのスイッチを切ると、玄関へとむかう。

 トビラを開くと、冷たい北風がほほを叩いた。

 もうすぐ冬が来る。

 ブルルと身を震わせながら車に乗りこむのだった。




――――――




「これって、在庫ありますか?」


 発電機のカタログを指さして、店員にたずねる。

 ここは、少し車を走らせた場所にあるホームセンター兼、電気屋だ。もともと別だったんだけど、少し前にひとつに統合されたのだ。

 まあ、売っているものがカブるからな。

 どっちがどっちを買収したかしらんが、経営判断としては正しいのだろう。


「確認してきます。ちょっと待っててください」


 店員は奥へと走っていった。元気があってなによりだ。

 この発電機、在庫があれば買って帰る。

 重さは15キロと、持てなくもない。

 ガソリン式で、出力は1.6kwだ。

 家庭で使っている電化製品を、いくつか同時に動かせるパワーである。

 これぐらいがちょうどいいだろう。


 ……しばらく待つ。

 だが、店員は戻ってこない。

 遅いな。在庫がなかったのかな?


 手持無沙汰てもちぶたさで周辺をウロウロする。

 気づけば、テレビが何台も並べられたコーナーにいた。


「へえ~、ジャコビニ流星群って言うんですか」


 テレビの中の芸能人が、なにやら喋っている。

 髪の毛が真っ赤の青年だ。バラエティー番組なのか? なんとなく情報番組っぽいセットだけど。


「ええ、そうなんですよ。今回はかなりキレイに見えるらしいです」


 続いてテレビに映し出されたのは、メガネをかけたアラフォーのおっちゃんだ。

 さっきの青年と比べて、ずいぶんと真面目そうな印象を受ける。

 下にはテロップでJAXSOの文字。

 JAXSOって、宇宙飛行士とかがいるJAXSOだよな。

 そこの職員ってことなのだろう。


「そもそも、ジャコビニ流星群ってなんなんですか?」


 赤い髪の青年がたずねた。


「ジャコビニ・ツィナー彗星から放出される流星物質ですね。その流星物質が細い帯状に伸びて見える現象をダストトレイルと呼び、地球と周期が重なり衝突したときに生じるんですよ」

「よくわかんないっス」


 俺もよくわからん。


「えっと……ようは、しし座流星群と同じです」

「あー、あの流れ星がたくさん見えるやつ」


「そうです、そうです」

「へ~、しし座流星群以外にもあったんですね。そんなの」


「そうなんですよ。実は知らないだけで、そういう流星群はけっこうあるんです」

「そうなんですね。で、いつ見られるんですか?」


「来年の三月ですね」


 三月か……。

 今が十一月だから、あと五か月弱だな。

 マイと一緒に見られるだろうか?


「でも、なんで急にそのジャコなんとかが話題になり始めたんですか?」


 赤い髪の青年の質問だ。

 うん、俺も疑問に思った。そんな単語いままで聞いたことなかったもん。

 この青年、こっちが気になることをうまく質問してくれるね。

 視聴者目線のコメンテーターってことなのだろうか?


「それがですね。最近、ジャコビニ彗星が二つに分裂したのが分かりまして」

「分裂? 忍者みたいに?」


「いやいや、割れたんですよ。パカっと二個に」

「へえ~」


「それによって、先ほど申し上げた放出される流星物質の数がですね、一気に増えたんです」

「なるほど」


「だから、これまでにない、ものすごい数の流星群が見られるんじゃないかと……」

「おお~、そういうことだったんですね」

 

 あ~、そうなんだ。

 だから、こんな話が急にでてきたんだ。

 ジャコビニ流星群か……。

 でも、なんだろう。この話、すごく引っかかる。

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