第34話 地下室ではなく横穴であった
「ずいぶん頑張ったなぁ」
ショーグンが掘った横穴を見て、思わず感心してしまった。
秘密基地だ。
毎日コツコツと掘っていたようで、気づけば先が見えないほどの大穴に。
「ぜひ、中を見てください!」
ショーグンはウキウキした表情で俺の背を押す。
いやだよ。コエーよ。入りたくねーよ。
いつ崩れ落ちてくるか分からんもん、こんな穴。
ショーグンの作った秘密基地は、山の斜面を掘っており、昼間というのに先まで光が届かないほどの深さなのだ。
「ああ、またの機会にな」
横穴は地下室に比べれば現実的ではある。
しかし、危険はより増したと言えるかもしれない。
そんなところに入るのはゴメンなのだ。
だからこうして、拒否っている。
やりたくないことは先送りだ。そして、最終的にはウヤムヤにする。それが大人の解決方法。
「え~、こないだもそう言ってたじゃないですか!」
だが、解決しない場合もある。
先送りし続けた結果、さらに被害が拡大しているのが今である。
「わかったわかった。じゃあさ、いっそのことしっかりと補強しようぜ。木で支える感じで穴の周囲を囲うんだよ」
しょーがない。めんどくさいけど手を打つか。
炭鉱なんかで見た。
崩れてこないように木で支えるの。
あれなら多少なりとも安心できる。
「おお~ソレいいですね。まさに秘密基地っぽい。うれしいです。ここにきてやっと旦那様が乗り気になってくれて」
いや、乗り気にはなっていないが。
俺はただコエーんだよ。
二人とも入ったところで崩れたら、誰も助けられないじゃないか。
そうなる予感がビンビンするのだ。
幸い木はたくさんある。周囲の開拓でショベルカーを使って引き倒してやったからだ。
ただ、木の太さに心配があるけどな。
ミニショベルで倒せる太さの木なんて、たかが知れてる。
炭鉱の支えになるような丸太は、ショベルカーではムリだろう。
斧なりチェーンソーなりで切る必要はいずれでてくる。
森林組合に頼むのが無難か。
木を切るのは危険だからな。
倒れた木の下敷きにでもなった日にゃ、命はないと思っていいだろう。
シロウトが安易に手を出さないほうがいいのが林業だ。
数ある職種の中で、死亡率がダントツで高い。
森林組合なら専用の重機もあるだろうし、ノウハウもある。
多少金がかかっても、任せてしまうのが利口だ。
それに、いちおうショーグンはミノルファームの経営者だ。
ショーグンの取り分をこれに使ったことにすれば、お金を渡さなくてすむのではないだろうか?
「それはそうとさ。この塀みたいなのはなんなの?」
穴の入り口を囲むように土が盛ってある。
掘ったとき出た土砂だろう。
その造形がどうも塀っぽい。
城の塀というか、砦の防護壁というか。
「もちろん、敵に侵入されないようにです!」
あ、うん。
秘密基地だもんね。
敵が攻めてくる的な設定があるんだろうね。
「でも、ここは筒抜けだけど?」
盛り土は穴の入り口を完全に囲っているわけではなく、横から抜けられるようになっている。
そりゃあミニショベルが入らないと穴が掘れないしな。
それに自分たちも出入りできないし。
「いずれ門を設置する予定です!」
マジでこだわってるな。
ガチの基地じゃねえか。
さてはお前、ゾンビ映画でも見たか?
「そうか、じゃあ頑張ってな」
そう言って、俺は畑仕事に戻っていった。
ショーグンは構想を伝えられたのが満足のようで、引き留めることはしなかった。
よかった。中に入らなくて済んで。
ショーグン、生き埋めになったらちゃんと助けてやるからな。
建設業者に依頼して掘り返すから。
こういうときメカは便利だよな。
死なないから、多少のムチャができる。
やっとメカらしい活躍をし始めたことに喜ぶ俺なのであった。
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