第35話 ミノル君、デートをする

「おーい、ショーグン。どこだ?」


 先ほどからショーグンを探しているものの、姿が見えない。

 おかしいな? 朝ごはん食べているときはいたのに。

 畑にもいなければ、秘密基地にもいない。

 まったく、あいつどこ行ったんだ?


「しょーがない。時間もないことだし、もう出るか」


 今日はなんと、マイちゃんとデートなのだ。

 朝から一日、車でおでかけである。

 そこで、今日一日のやるべきことを念押ししようと思っていたのだ。


 まあ、わざわざ言わなくても大丈夫か。

 最近ショーグンは頑張ってくれているし。

 慣れてきたのか、畑仕事もソツなくこなしている。

 出かけること自体は伝えているんだ。俺の姿が見えなきゃ、それなりにやってくれるだろう。


「いってきま~す」


 鼻毛が出ていないことを鏡で確認すると、玄関のトビラを閉め、車に乗りこんだ。




――――――




 ブロロロロン。

 途中、マイちゃんを拾って車を走らせる。

 行き先は植物園だ。広大な敷地に、さまざまな植物が植えられているらしい。

 らしいというのは、俺は行くのは初めてだからだ。

 車で一時間ほどの距離だが、なぜかこれまで一度も行ったことがなかった。

 ちょうどいい機会だと思い、ここを選んだのだが。


「けっこうカーブが多いけど大丈夫?」

「うん、大丈夫」


 少し緊張した面持おももちのマイちゃんに話しかけると、窓を少しだけ開けた。

 ほのかな木の香りとともに、ヒンヤリした空気が流れ込んでくる。

 酔ったら大変だ。

 初めてのデートで嫌な印象を与えると、それっきりになりそうだから気をつけないと。


 山道を抜け、幹線道路を走ると、また山道へと向かう。

 山ばっかりだな。

 せっかく都会らしきところへ出たと思ったら、また田舎に向かう形だ。

 ほんとうにこれでよかったのか? ショッピングだけにするべきだったか?

 植物園の後は繁華街でショッピング、そんな予定を立てていたのだが。

 不安を抱えながら車を走らせると、やがて植物園へ到着した。

 〇〇植物園と書かれた看板の横をぬけ、駐車場へ。


「ガラッガラだな」


 巨大な駐車場には車は数えるほどしかなかった。

 大丈夫かな、これ? 混雑もイヤだけど、あまりに人が少なすぎるのも……。


 日光の当たらない場所に車をとめると、チケットを買って建物の中へ。

 意外や意外、中にはそれなりの人がいた。


「あー、思ったよりいるなあ」

「そうだね、子供もけっこういるね」


 入ってすぐはエントランスホールとなっており、お土産物や飲食店などが数件並んでいた。

 たぶん、ここに人が集中してるんだろう。

 植物園の敷地は広い。ここから分散すると考えれば、いい塩梅なのかもしれない。


「ケーブルカーって書いてあるな」

「うん、入口横にバス乗り場もあったね」


 左手に見えるのは、ケーブルカーへの案内標識だ。

 俺は見落としていたが、バス乗り場もあったらしい。

 そういやここに来るまでバス停を何回か見た。

 なるほど、ケーブルカーやバスで来る人も多いのか。


「昼から混むかな?」

「わかんない。でも、人は増えそう」


 場所が場所だけに人でごった返すってことはないだろうけど、たしかに数は増えそうだ。

 予定通り午前中のうちにササッと見て回るのがいいかもしれない。

 そして、お昼は早めにとるか、街に出てから食べるか、そのときまた考えよう。


「どこから行く?」


 案内標識によると、真っすぐ行けば空調のきいた温室。

 熱帯雨林の植物が多数植えられているらしい。

 左はケーブルカー乗り場で、右は建物を出て、大きな広場と噴水、バラ園やあじさいの小道などに向かうようだ。


「う~ん、どこでもいいよ」


 どこでもいいが一番困るんだが。

 とはいえ、俺も確かにどこでもいい。

 マイちゃんと来るのが目的なわけで、場所にこだわりがあるわけではない。

 ただ、できるなら少しでもマイちゃんが楽しめるような順路をとりたいものだ。


「じゃ、温室にしようか」

「うん!」


 たぶん混む可能性があるのは温室。スペースが限られているからだ。

 だったら先に行くべきだろう。

 マイちゃんの手を取ると、真っすぐ奥に向かって歩き始めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る