第32話 いろいろ考えるミノル
ガッチョンコ、ガッチョンコ、ガッチョンコ。
ミニショベルの作動音が響く。
ウィ~ン、ガイ~ン、ドサ~。
なかなか難しい。ちょっとレバーを動かすと、思った以上にアームが動くのだ。
チョンチョンチョンと細かいレバー操作が求められる。
でもまあ、楽しいっちゃ楽しい。目に見えて景色が変わっていくのは、成果を実感しやすく満足感みたいなものが得られる。
いまは畑の拡張中だ。
届いたミニショベルを使って地面を掘り返してる。
翌年の大規模栽培に向けてだ。
畑ってのは大地を耕したらすぐにできるものじゃない。
石を掘り出し木の根を除去し、土壌を中和し栄養を与える。そうやって土を豊かにして、初めていい作物がとれるワケだ。
だから、こうやって今のうちから準備している。
しかし、まあ、そこまで完璧にする必要もないかなとも思っている。
理由は雑草とのハイブリッド種だ。
雑草の生命力を引き継いだ作物は、多少の条件の悪さを跳ねのけて育ってくれるだろう。
場所さえ与えれば勝手に育つ。雑草には、そんな力強さがあるのだ。
ちなみに気になっていることが一つある。ショーグンが品種改良したタネがF1品種かってことだ。
一代限りで次のその特性を引き継がない。これがF1品種。
じつは今、検証中である。
一番最初に栽培したラディッシュ系の作物たちからタネを採取しておいた。
実からとれるものは食べたとき、ダイコンなどの実からタネがとれないものは花が咲くまで放置してそのタネを取ったのである。
そうやって、ちょっとずつタネを集めたワケだ。
「たぶん、F1品種だろうなあ」
集めたタネはすでに撒いた。
今は芽がでて、生長中である。
しかし、その速度は遅い。
新たに品種改良して撒いた、となりの作物たちとは雲泥の差である。
ちょうどラディッシュ系の収穫が終わり、第二弾を始めようと思っていた。
頑張れば、ひと夏で三回転ぐらい行けるんじゃね? ぐらいに思っていた。
そこを、ちょっと一休み。
どうせなら気になっていたF1品種かどうかを調べた方がいいと考えたのだ。
採取したタネと、新たに品種改良したタネを同時に撒く。
そうやって、違いを確認しようと思ったワケだな。
結果は一目瞭然。
新たに品種改良したラディッシュ系の作物はモッサモサ。
タネを採取して撒いた作物は、チンタラゆっくりと生長中である。
遅い。とても遅い。
まあ、これが通常の伸びる速度なんだろうけど、比べるとその遅さに物足りなさを感じてしまうのだ。
一度ゼイタクした人間は昔の生活に戻れないって言うけど、まさにそんな感じ。
いまさら普通の栽培なんて、かったるくてやってられない。それぐらいの気持ちである。
人間とは恐ろしいものだな。
それはそうとして、いまちょっと悩んでいることがある。
冬はどうするかってことだ。
冬野菜を育てる。
これが一つ目の選択肢。普通に農家をする感じだな。
しかしこれだと、俺があえてする必要があるのか? って思っちゃってるのだ。
で、二つ目の選択肢。冬に育つ野菜と夏野菜を掛け合わせる。
これならば、冬に夏野菜が育てられるのではないだろうか。
ただ、あまりよい方法ではない気がする。
品種改良がうまくいく確率が低いと予想されるからだ。
栽培に適した育ち方をしないだけでなく、夏に育つ冬野菜になる可能性がある。
欲しいのは冬に育つ夏野菜。
夏に育つ冬野菜だと、なんの意味もない。
というか、そもそも冬野菜は夏に育たないわけではない。
ほとんどの冬野菜は夏にも育つ。むしろ育ちすぎるぐらいだ。
じゃあ、なぜ冬野菜かっていうと、寒暖差だ。
これら冬野菜は、寒さで凍ることがないよう糖を蓄積する。だから甘い。だから美味しい。
あとは見た目だ。
白菜などは、寒くないと結球しない。
玉になっていない白菜など売れるわけがないのだ。
などの理由から、冬野菜とのかけ合わせは現実的ではないと思っている。
まあ、やるとしたら少量だな。
今年は実験と割り切って、どう育つかを見るだけにする。
実際に栽培するのは畑も大きくなった来年以降だ。
これが最も現実的だろう。
そして、三つ目の選択肢。
ハウス栽培だ。
これなら引き続きラディッシュ系の夏野菜を育てていける。
俺のアドバンテージは育ちの速さ。
それを
ただ、問題点がある。
燃料費の高騰だ。
少し前から原油価格が徐々に上がってきている。
このままいくと冬にはかなりの値をつけるのではないだろうか?
車や耕運機、ミニショベルとガソリン代もバカにならなくなっている。
これにビニールハウスの燃料費が加わると、ちょっと無視できない金額だ。
まあ、専門家の話では来年以降は原油価格は落ち着くのではないかとのことだ。
原油価格の高騰にさしたる理由は見られない。戦争でもない限りいずれ上げ止まりするのだそうだ。
そのへんはよく分からんが、専門家が言うのならそうなんだろう。
だから、ハウス栽培は来年以降に見送ろうと思っている。
そもそも設置する金がない。
借金してまでやりたくないのである。
となると第四の選択肢だ。
来年に備えて周辺を整備する。
つまり今やっていることだな。
「ふ~、疲れた。今日はこのへんにしとくか」
ショベルカーから降りると、腰を伸ばす。
やりすぎは体に良くない。
周辺の整備だけでなく、夏野菜の栽培がまだあるんだ。
長い目でゆっくりと見ていかないとな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます